夜から夜明けまで 第六十六話
「ひとつ、聞いておきたいことがあるわ」
ブラッドローズは、なんとか平静に近い口調に戻している。
「なにかしら」
アナスタシアは、落ち着いた口調で答える。
「助け手って、どんな姿をしてどんなところにいるの? それが判らなければ、連れてくるなんてできないよ」
「あら」
アナスタシアは、くすりと笑う。
「そんなことをわたしに聞いても、無意味だってこと判らないの」
ブラッドローズは唖然として目を見開き、そして口を開く。
「なんの手がかりもなく、探せっていうの? それじゃあ、出会ったとしても本当に正しい助け手なのか判りゃあしないじゃん」
アナスタシアは、喉の奥でくくっと笑う。
「ブラッドローズ、あなた自分をなんだと思ってるの。魔道師なんでしょう」
ブラッドローズは、きっ、となってアナスタシアを睨む。
「どういうことよ」
「魔道の基本は、教えられなければ判らないことは、教えられても判らないってこと。忘れてないわね」
ブラッドローズは、苦いものを飲む顔で頷く。
確かに、魔道と言うものはそういうものだ。
魔法式は、教わるものではなく忘れたものを思い出す、あるいは自分の中に埋もれたものを掘り起こすようにして身に付ける。
教えられたとて、その魔法式を使いこなせるものではない。
デルファイに行き助け手を見いだすというのは、自分の中の魔法式を見いだすのと同じだとアナスタシアはいいたいのだろう。
アナスタシアは、だめ押しするように言った。
「ブラッドローズ、あなたが本当に魔道師であれば助け手に会った時、必ずそれと判るはず」
ブラッドローズは、深いため息をついた。
重ねてアナスタシアは、言う。
「そもそも、わたしも助け手がどんなひとかなんて知りはしない。だってこれから先の時間は、シックスフィンガーも経験したことのない時間なんだから」
ブラッドローズは、驚きで目を見開いた。
自分の行く道は、シックスフィンガーによって確かめられた道だとばかり思っていたからだ。
ブラッドローズは、不満げに口を開く。
「じゃあ、本当に助け手がいるなんて確証はないんじゃあ」
アナスタシアは冷酷といってもいい瞳で、ブラッドローズを見る。
「このわたしがアルケミアの魔道師に魔道を教えるのは僭越だと思う。けれど、一応言っておく。何万回のうちたった一回成功する道を見つけるのは、魔道ではない。何万回おこなっても必ず収斂するひとつの道を見いだすのが魔道。わたしやシックスフィンガーには無理でも、あなたにはそれができる。だって」
ブラッドローズは、アナスタシアの瞳に心臓を串刺しにされたような気がする。
「あなたは、アルケミアの魔道師なんでしょう」
ブラッドローズは何か言おうとして口を開き、何も言わないまま口を閉じる。
そして、微かに笑みを浮かべると静かに言った。
「そうよ。まかせなさい」




