夜から夜明けまで 第五十九話
少し茫然とした表情で、独り言のように呟いた。
「ここまでは、シックスフィンガーから聞いた別の時間線でおきたことのとおりです」
デリダは冷徹な目でアナスタシアを見ると、言った。
「その話しは後で詳しく聞かせてもらうか、おまえたちが呼ぶ助け手のことと一緒にな」
アナスタシアは、頷く。
ブラッドローズは視線を感じたが、先ほどの戦いで魔力を大量に使い疲労困憊していたためそれを気にする余裕がない。
ミシェル・デリダは、すっと立ち上がった。
その足元に、白銀の光が灯る。
薄闇を貫く光のレイピアが、天井近くの窓から指し込まれていた。
デリダはその美貌に、柔らかな笑みを浮かべる。
紛れもなく。それは朝日であった。
夜明けが始まると、日の光が急激にあたりを変えてゆく。
広間に水が注ぎ込まれるように、光が満ち始める。
デリダは、ミハイルに声をかけた。
「掃討戦だ、ミハイル。昼間の内に死体を焼き払え」
ミハイルは軽く鼻で笑ったが、一応敬礼をする。
「総督閣下、御自らの命令だ。野郎共、広間を出て死体を焼き払うんだ」
ミハイルは、銃を手にしたまま手招きして小隊長たちを招き寄せる。
「まず、外に出て状況を確認しろ。生き残ってる予備役がいたら隊に組み込め。生存者数と死体の数を必ず確認して、死体を焼き洩らさないようにしろ。そして、絶対に小隊単位の行動を崩すな」
生き延びた小隊長たちは、頷く。
少し野性的な笑みを見せたミハイルは、吠えるように言った。
「行け、そして焼き尽くせ」
死体を焼き尽くす作業は、一刻もかからなかった。
住民の七割は生き延びたようであり、全ての死体を焼き払ったはずである。
しかし、肝心のシックスフィンガーの死体を見いだすことは出来なかったため、再び夜がくれば同じことが起こるはずであった。
とはいえミハイルの指示で簡単な携帯食と水が配られ、ようやく休息の時が来たようでもある。
ひとびとはいつの間にか、広間のアナスタシアの回りに集まっていた。
椅子に腰をおろしたアナスタシアを中心に、ひとびとが丸く輪を描いて床に座っている。
アナスタシアの側で足を投げ出して座っているデリダは、ひととおりの仕事を終えて戻ってきたミハイルを一瞥すると、言った。
「もうそろそろ、話を始めてもいいころあいだろう」
アナスタシアは頷く。
「そうですね、話をはじめましょうか」
ブラッドローズはアナスタシアの側に、腰をおろしている。
何か良からぬ気配は感じるが、もう後戻りが出来ないのも理解していた。
「まず、シックスフィンガーの物語をしましょう」




