夜から夜明けまで 第五十四話
「なるほど、それでは」
デリダは、ふっと甘い美貌に笑みを浮かべる。
おんなを口説くのに役立ちそうな、美しい笑みであった。
「おれたちが生き延びることができるのは、明日の朝までということだな」
「いいえ」
デリダは、怪訝な顔をしてアナスタシアを見る。
アナスタシアは深い覚悟を感じさせる瞳で、デリダを見ていた。
「朝を迎えることができれば、わたしたちの生き延びる確率は高くなります」
「判らんな」
戸惑うデリダに、アナスタシアは力強く言った。
「SSEは、太陽の光を浴びると魔力の伝導効率が著しく低下します。だから、夜明けには死体たちの動きは言ったん止まります」
「ほう」
けれど朝まで生き延びても、いずれ次の夜がくる。
第一、朝まで生き延びれるなんて、とても思えない。
ブラッドローズはそう思ったし、デリダも同じことを考えていると思う。
しかし、ミシェル・デリダは何も言わなかった。
暫くの沈黙の後、笑みを浮かべながら口を開く。
「では朝を迎えることにしよう、共にな」
「ええ」
その時、突然広間が静まりかえった。
全員の視線が、広間の入り口に向けられている。
扉の向こう、液体のように濃い夜の闇から、ひとりのおとこが姿を現していた。
頑丈そうな身体をもつそのおとこは、イワンである。
その顔は蒼白であり、左胸は真紅に染められていた。
どう見ても、既に死んでいる。
イワンが立ち上がった死者となり、この広間にやってきたということは倉庫の守備隊は全滅したに違いない。
ミハイルは、静かに連射砲の後ろに控える射手の肩に手をかけた。
「狙え」
射手は連射砲に取り付けられたレバーを操作し、砲身の向きを立ち上がった死体へむける。
もう一方の手は手回し式のハンドルについたレバーに、置かれていた。
そのハンドルを回転させることで連射砲は6本の砲身を回転させ、連続して砲弾を発射する。
その時、死体は口を開いた。
そして、言葉を発する。
「デリダ総督」
広間にいる全員が、その事実に驚愕し凍り付いた。
死体は喋りながら、歩き始める。
「総督、お話があります」
まるでその死体は、自分が死んでいることを忘れたしまったかのように喋り、歩く。
ブラッドローズは、戦慄した。
SSEに支配されても、意識は失われるものと思っていたのだが。
けれど、今のイワンを見ると死して尚、その意識を操られているようではないか。
肉体だけでなく精神すら奪われるという事実は、ブラッドローズを震えあがらせる。
死体はさらに歩き、言葉を発した。
「デリダ総督、話を聞いてください」
ミハイルは、獣が吠えるように叫んだ。
「撃て!」




