夜から夜明けまで 第五十二話
透明な身体の表面に着弾した火花が、人形の体内に七色の光を反射させる。
それは光の奏でる音楽であり、とても美しい。
が、それはまた凶悪で危険な存在でもある。
死の風を巻き起こす不可視の水晶剣は、イワンの身体へと迫った。
イワンは音叉を口に咥えると、両手で雷管銃をかまえる。
イワンは雷管銃を連射して、再び透明の人形を銃火の中に浮かび上がらせた。
轟音が薄闇に包まれた倉庫の空気を、震わせる。
水晶人形は、ふわりと宙を跳んでイワンから距離をとった。
銃弾は人形の表面に、ひびくらいはいれたかもしれないが、致命傷にはほど遠いようだ。
イワンは用心鉄についたレバーを操作し、素早く弾倉を入れ換える。
再び人形は薄闇の中へと消えたが、イワンが口に咥えた音叉はその人形が遠くに行ってないことを示していた。
銃声を聞いたイワンの隊に所属する兵が、集まってくる。
皆、イワンに倣って音叉を口に咥えていた。
二人づつイワン左右に兵が展開し、それぞれ雷管銃を手にして目に見えぬ人形を囲んだ。
しかし、イワンたちが見たのは信じがたくおぞましい光景である。
彼らの目の前で、血塗れの死体が立ち上がった。
かつてはおんなであったであろうその死体は、服を自身の血で真紅に染めイワンたちの前に立つ。
いつの間にか、おんなの手にはナイフが握られている。
その刃は、蒼ざめた光を放っていた。
一瞬、その刃が闇に隠れる。
「うわっ!」
イワンの隣にいた兵が、左胸に傷を受け後ろに跳びさがる。
咥えていた音叉が地面に落ち、澄んだ音をたてた。
魔道によって空間を貫き、ナイフの切っ先が兵の心臓に突き立てられようとしたのだ。
兵が反射的に後退したため、その切っ先は筋肉を裂いただけで終わったが。
イワンは、反射的に雷管銃を撃っていた。
おんなの死体はハンマーで頭を殴られたように、首をのけぞらす。
死んでいるはずだが、それでも赤い花が咲いたように血がしぶいた。
イワンは、音叉を手にとり叫ぶ。
「頭を潰せ。そうすれば、死体は動かなくなる」
さらに数発の銃声が轟き、死体の顔面は完全に粉砕され赤い固まりと化した。
死体は膝を付き、尚も這い回ろうとしたがイワンは腰から抜いた剣でその手足を切り取り動きを止める。
ようやく死体は動きを止めたが、それは始まりにすぎなかった。
倉庫のあちこちで、悲鳴があがる。
そこかしこで、血塗れの死体が立ち上がっていた。
いつの間にか、水晶人形は死体を作り上げている。
イワンは黒い感情にこころを塗りつぶされつつも、次の死体を破壊するために動き出した。




