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夜から夜明けまで 第三十五話

夜の森は、風の速度で左右に飛び去っていく。

シルバームーンは、イリューヒンの隣で馬を走らせている。

月明かりはあるが、夜であるためあまり速度を出すことは出来ない。

イリューヒンも、傷ついた部下がいるためか、慎重に馬を走らせていた。

このペースであれば、キエフの砦へつくのは四半刻ほど後ということになる。

急ぐ必要はあるのだろうが、彼らには今の速度が精一杯であった。

イリューヒンの部下を傷つけたのは、言うまでもなくシルバームーンである。

けれどその事に対してイリューヒンたちは、恨みがましい態度はとらない。

既に終わったことと、イリューヒンたちにはなっているようだ。

そのあたりは、とてもさばけている。

おそらく、そんなことが日常茶飯事であるような生活をおくっているのだろう。

勝てば残酷に振る舞うことが許されるが、負ければ全てを失う。

そんなことにいちいち恨んだり憎んだりしても、しかたがないということなのだろうか。

イリューヒンとシルバームーンは先頭で馬を並べて走っていたが、何も話さなかった。

突然、イリューヒンが口を開く。

「おい」

馬を走らせながら、シルバームーンがイリューヒンを見る。

イリューヒンは、前を向いたまま言った。

「誰かくるぞ」

確かに、音と気配が前から伝わってくる。

その気配はおそらくひとを乗せた馬であろうが、あまり数は多くなさそうだ。

せいぜい二三騎、というところか。

方角からすれば、キエフの砦から来たということになる。

「止まろう」

シルバームーンの言葉にイリューヒンは頷くと、手をあげて馬の速度を落とす。

隊全体の速度が落ちたところで、彼らは馬の足を止めた。

そして、前方からくるものを雷管銃や火砲を構えて待つ。

闇の中から、二騎現れる。

イリューヒンが雷管銃を肩付けするのを、シルバームーンが止めた。

「撃つな、おれたちの仲間だ」

イリューヒンは冷たい笑みを見せると、銃を肩付けするのはやめたが銃口は騎乗のものたちに向けたままだ。

「シックスフィンガー!」

シルバームーンの叫びに、騎乗のおとこが頷き返し馬を止める。

シルバームーンは落ち着き払ったシックスフィンガーと、無愛想な顔のロックフィストを交互に見た。

シックスフィンガーの何事もなかったような顔からは判らないことが、ロックフィストの表情からは色々伝わってくる。

「うまくいかなかったようだな」

シックスフィンガーは、天気の話をするように穏やかに言った。

「七人ほど殺すことに、なってしまいました」

目を剥くイリューヒンを、シルバームーンが制する。

シックスフィンガーは、相変わらず穏やかな口調で語った。

「あなた方も、事をうまく運べなかったようですね」

「まあな。アナスタシアを呼ぶから、彼女と話せ」

シルバームーンは声をあげて、隊の最後尾にいるはずのアナスタシアを呼んだ。

馬にブラッドローズと一緒に乗っている、アナスタシアが現れた。

アナスタシアの前では借りてきた猫のようにおとなしいブラッドローズに、シルバームーンは少し苦笑する。

ブラッドローズは、金色の瞳でシルバームーンを素早く睨んだが何も言わない。

アナスタシアは、厳しい口調で言った。

「デリダ総督には、会えなかったようね」

「残念ながら」

シックスフィンガーの坦々とした口調は、とても残念がっているようには見えない。

シックスフィンガーは、落ち着いた態度のまま言葉を重ねる。

「フェイフゥーが、見当たりませんね」

アナスタシアは、少し苦しげな表情で答える。

「彼は、死体を食い止めるために残ったわ」

「では、今度は彼が感染することになります」

アナスタシアは、そのあまりに平然とした口調に少し絶句したが頷いた。

「そうなるわね」

シックスフィンガーは、軽い身のこなしで馬から降りる。


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