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夜から夜明けまで 第二十七話

アナスタシアは、凍てついた光を宿すその目で夜の闇を見据えた。

予言を下す巫女の口調で、アナスタシアは言葉を発する。

「そうでもあるし、そうでもない。星より来たりしものは目で見ることはできない。何にしても」

ほんの僅かではあるが、怯えを含んだ目をしている。

ブラッドローズは、そんなふうに思う。

「あれは、終わりの始まり」

アナスタシアの言葉が終わると同時に、その異形のものが闇の中から姿を現す。

愕然としたように、イリューヒンが呟く。

「何だ、あれは」

シルバームーンが、冷たい笑みで答える。

「災いだよ、おれたちに降りかかる」

それは、神話で語られる混沌の世界から這い出してきたかのようなキメラである。

その身体は、色々な生き物の合成物であった。

頭部は大きな鹿のものらしく、大木の枝のような角を持ってい

る。

胴体は熊のものらしく、大きく太い。

背中には、猛禽のものであったような大きな翼が生えている。

下半身の後ろには、山羊の胴体が繋がっていた。

それらは全て、死体を組み合わせたもののように見える。

どのパーツもほぼ腐敗し崩壊しつくしており、白い骨が剥き出しになっていた。

瞳も内蔵も既に無いらしく、頭部や胴の中には黒い闇が溜まっているばかりだ。

そしてその身体からは、海の薫りが漂ってくる。

まるで、海の底で様々な生物の死骸を集め、使用可能な部分を合成して造ったかのようだ。

ブラッドローズは、判る。

その死体の集合体を動かしているのは、魔道の力であった。

それでは星より来たりしものというのは、魔法の使い手なのだろうか。

しかし、彼女の知る限りどのような魔法も、あんなキメラを産み出すことはない。

それは、ブラッドローズのまだ知らない魔法の産物である。

突然、キメラは重さを失ったかのように、宙を舞った。

骨となった猛禽の翼が、羽ばたいて見せる。

ふわりと大きな鳥のように宙を舞うと、獲物を見つけた鷹のように手近にいた騎兵に向かって襲いかかった。

騎兵は怒りの叫びをあげながら、雷管銃をキメラに向かって撃つ。

銃弾はキメラの胴を造っている闇に吸い込まれるだけで、騎兵の首筋は喰い破られた。

闇のなかに、赤い血が噴出して騎兵が大地に落ちる。

乗り手を失った馬が、森の中へと逃げていった。

キメラは次に、フェイフゥーのほうを向く。

空洞にすぎない頭部にある目の穴が、フェイフゥーを見つめているような気がする。

「ふうん」

フェイフゥーは、明日の天気を語るように呑気な口調で言った。

「どうも僕が、次に狙われてるみたいなのね。でもあれは魔法でしか倒せない類いの存在よね」

アナスタシアは、頷いた。

「剣や銃では、動きを抑える程度のことしかできないわ」

フェイフゥーは美しい顔を、少し困惑で曇らせた。

しかし直ぐに、気楽な笑みを口許に浮かべて見せる。

「まあ、なんとかしてみるのね」

風が唸り声をあげたかのように音をたてて、フェイフゥーの元へ闇が集う。

鴉たちが、フェイフゥーの元に戻ってきていた。


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