夜から夜明けまで 第二十五話
ブラッドローズが手にした本から何かを跨ぎ越すように、鋼鉄の巨人が姿を現す。
背が高いだけではなく、鋼に覆われたその腕も足もそして胴体も全てが太く大きかった。
その顔は鋼鉄の仮面に覆われており、月の光を浴び蒼く光っている。
その右手には、ギロチンの刃のように大きな鉈を手にしていた。
ブラッドローズへ向かう二騎の騎兵が、雷管銃を発砲する。
鋼の巨人に着弾した銃弾が、小さく鋭い炎の花を咲かせた。
巨人の背中から突き出した二本のパイプから、甲高い音が鳴り響く。
背中に装着されている内燃機関が炎をエネルギーに変え、煙りと爆音を鳴り響かせる。
何かが高速で回転しているような音が、巨人の背中の内燃機関から響いていた。
その動力は巨人の足に付けられた二つの鋼鉄でできた車輪へと、伝えられる。
鉄の歯車が幾つか噛み合うような音がして、巨人は弾かれたように飛び出す。
高速で回転する鉄の車輪が土を蹴たて、土煙をあげた。
背中の内燃機関は爆音と煙をあげ、その煙りは帯となってたなびく。
黒い流星となった巨人は、馬よりも速い速度で疾走した。
真冬の稲妻が放つ輝きを見せる巨大な鉈を、鋼鉄の巨人は肉眼では捉えられぬ速度で横に薙いだ。
二つの生首が真紅の放物線を描く血を迸らせながら、夜の闇を横切っていく。
二頭の馬は首のない死体となった乗り手をのせたまま、闇の奥へと走り去っていった。
無造作に大地へ騎兵の生首が、転がる。
鋼鉄の巨人は派手に土煙をあげて方向転換すると、ブラッドローズの元へ、戻ってきて停止した。
背中の内燃機関が、心臓を揺さぶる重低音を闇の中に鳴り響かせ煙を吐く。
無数の金属が高速で回転する音を精妙な金属が奏でる音楽のように鳴り響かせ、内燃機関は炎を動力に変え続ける。
弓に弦を貼る手を止めぬまま、アナスタシアは顔をしかめ非難する目でブラッドローズを睨んだ。
ブラッドローズは、勝ち誇った笑みでそれに答える。
何にしてもこうなってしまえば、やったもの勝ちだ。
むしろ色々なことをブラッドローズには秘密にしているらしいアナスタシアたちのほうが、悪い。
ブラッドローズは、こころの中でそう呟く。
そして、両の手を夜空に掲げ、叫んだ。
「祝うがいい、喜ぶがいい、今宵こそ汝ら醜く愚かな白き家畜どもの救済の日だ」
ブラッドローズは黒い肌の顔に笑いを貼り付け、さらに叫ぶ。
「お前たち醜きものへ慈悲深き死をもたらすのは、我が使役するこのエクスキューショナー・オブ・ダークブルーだ」
ブラッドローズは、パルジファルの書を手にし、鋼鉄の巨人エクスキューショナーへ向かって叫ぶ。
「我が血の契約に基づき、我がブラッドローズの名において命ずる。エクスキューショナー・オブ・ダークブルーよ、我に仇なす白き家畜どもへ慈悲深き死をもたらせ」
それに応えるように、鋼の処刑人は背中の内燃機関で重く響く轟音を轟かせた。
大量の煙が、背中の管から吐き出される。