夜から夜明けまで 第二話
ゆらりと、二人のひとが松明の光に身をさらす。
ひとりは痩せて背が低く、もうひとりは背が高く頑強そうだが引き締まった身体つきをしている。
背の高いおとこは、大きな荷物を担いでいた。
ダークは、雷管銃を構えたまま、二人のおとこたちをよく観察する。
背が低い方のおとこは旅装のマントを纏っており、行商人といった風情のいでたちだ。
しかし、それにしては詩人のように整った顔立ちであり、柔らかな笑みを浮かべていた。
年齢は、初老にさしかかる手前というところか。
商人にしては眼差しが鋭い気もしたが、その身体は荒事には向かない。
背の高いほうのおとこは、灰色の軍用外套を纏い頑丈そうで長い手足を持っている。
その目付きは兵士の冷たさを持っていたが、その腰には短剣すらおびていなかった。
見たところ片腕が不自由なようであり、左手に包帯が巻かれ動かせない様子である。
ダークはおそらくそのおとこは、退役軍人なのだろうと想像した。
決して若いとは思えぬような皺を、顔に刻んでいる。
ダークは、肩付けしていた雷管銃を腰の位置までおろす。
奇妙さはあるが、さほど怪しいものではないと判断した。
背の低いほうのおとこが深々と礼をして、口をひらく。
「このような夜更けに訪問し、大変申し訳ございません」
とても流暢な中原の公用語で、おとこは語る。
まるで学者のように、丁寧な口調であった。
「本当は昼間にこの先の峠を越えるつもりでございましたが、若干の事故がありこのような時間での訪問となってしまいました」
「とりあえず、名乗ってはどうか」
ダークは、ほうっておけば延々と喋り続けそうなおとこの言葉をさえぎり、口をはさむ。
おとこは、もう一度深々と礼をとる。
そして、両の手をダークに向かって、かざしてみせた。
自分に向かってくる何かを遮ろうとする、仕草にみえる。
ダークはその手を見つめ、はっと息をのんだ。
おとこは、我が意を得たという笑みを浮かべる。
そのおとこの手には、六本の指があった。
それ以外には不自然さの見当たらない、細く華奢な手である。
むしろその手にとって、指が六本あることが当然だと思わせるものがあった。
「ごらんのとおりの手をしてますゆえ、わたくしはシックスフィンガーと呼ばれております」
そしておとこは、後ろのおとこを指して言った。
「こちらのおとこは、ロックフィストとお呼びください」
どちらも、通り名に聞こえる。
しかし、この当時名と言うものは住む土地と結び付き、定住する一族のものであったから、彼らのように一見流浪の民であるかのような者が通り名だけで生涯を過ごすのは、よくあることであった。