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夜明けから夜まで 第百三十話

背中の上を、鉱石が高速で通り抜けていくのを感じた。

鉱石は、回廊を不規則な間隔をおいて行き交っているらしい。

もう彼女を被っていた創世の和音は、消えている。

この後は、自力で生き延びるしかない。

ブラッドローズは13号の手から大きな拳銃をとりあげ、自身で手にする。

どうやら飛び交う鉱石は、一定の高さより下にはこないらしい。

それならば、這いずってゆくしかないだろう。

そう思い、移動をはじめようとした瞬間に、声が回廊の中に響いた。

「申し訳ありません、ブラッドローズ。情報伝達体の停止が、間に合わなかったようです」

ブラッドローズは、驚愕と共にその声を聞く。

懐かしい響きを持つその声は、シックスフィンガーのものであった。

ブラッドローズは、追い詰められた獣の唸りをあげる。

シックスフィンガーは、優しく語りかけてきた。

「情報伝達体は、停止しました。もう、危険はありません。立ち上がってください」

ブラッドローズは、少しだけ迷う。

しかし、こんなくだらない罠をかけるとも思えないと判断し、思い切って立ち上がった。

シックスフィンガーの言葉どおり、何事もおきない。

ブラッドローズは、叫んだ。

「シックスフィンガー、どこにいるの!」

「行き先を指示するので、それに従ってください」

驚いたことに、シックスフィンガーの言葉に応じて壁や床の光が一方向に向かって流れはじめる。

光が、河となって流れてゆくようだ。

その煌めく光の流れに沿って、ブラッドローズは歩いていった。

それほど長くは歩かずに、目的地らしきところにつく。

そこは、円形の広場である。

天井は、ドーム状になっており、鉱石の輝きが星空を思わせる形に散りばめられていた。

その七色に輝く幾何学状に並んだ星々の下に、シックスフィンガーが立っている。

ブラッドローズが知っている、いつものシックスフィンガーであった。

しかし、彼は死んだのだ。

つまり今目の前にいる彼は死体であり、SSEに操られている人形にすぎない。

ブラッドローズは、拳銃の銃口をシックスフィンガーに向けるが、彼は手でそれを遮るようにして止める。

「まあ、待ってください。撃つのは、話をしてからで遅くありません」

「一体何の話を、するっていうのよ」

ブラッドローズの険悪な口調に対しても、シックスフィンガーは笑みを崩さない。

「ブラッドローズ、あなたはわたしが死体であり、語っているのはシックスフィンガーではなく、SSEであると考えていますね」

ブラッドローズは、苦笑する。

「当たり前じゃない」

「その認識は、半分正しく、半分間違っているといえるでしょう」

ブラッドローズは鼻を鳴らす。

「あんた、何が言いたいの」

シックスフィンガーの口調は、変わらない。

生きていたとき、そのままであった。

「わたしは確かに、死にました。けれどSSEは、脳内にあるわたしの記憶をサルベージして、擬似的にわたしの人格を駆動させることに成功したのです。今あなたに話しかけているのは、SSEによって造り出された、仮想的なシックスフィンガーなのです」

むう、とブラッドローズは唸る。

「あなたなら判るでしょう、ブラッドローズ。あなたがパルジファルの書に契約したクリーチャーを取り込むのと、原理的には同じですから」

まあ、そうかもしれない、とブラッドローズは思う。

けれど、理解できないことがある。

「どうして、そんなことをしたわけ、SSEは」

シックスフィンガーは、我が意を得たという微笑みを浮かべる。

「あなたと話をするためです、ブラッドローズ」


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