夜明けから夜まで 第百二十九話
黄金の龍は、銀色の塔に近づく。
その周囲を旋回しはじめるが、塔には窓や入り口のようなものが無く、入る込む術の見当もつかない。
ブラッドローズの後ろにいる13号は、左膝を開きそこに銃身を差し込む。
そして、左足の大腿部にある装弾口へ30×29ミリ弾を装填する。
「徹甲弾を、使ってみます」
13号の言葉にブラッドローズは頷くと、足で合図を送りながら龍の方向を変えて、13号の左足が塔に向くようにした。
轟音が、夜の闇を貫く。
焔の矢が、銀色の塔に向かってはしる。
塔の表面に、爆発がおき夜に焔でできた真紅の薔薇が咲く。
その薔薇の周りを黒煙が、渦巻いた。
やがて風がその黒煙を吹き飛ばしてゆき、銀色の塔が再び月明かりの下に姿を晒す。
銀色の塔に、昏い穴が開いているのを確認できた。
ブラッドローズは、笑みを浮かべる。
「やったね、13号」
13号は、無表情のまま頷くと銃身を脛に戻し、左膝を閉じた。
ブラッドローズは立ち上がり、背中に目に見えない翼を開く。
そう長くは飛べないが、魔道で風を操れば13号と共に塔へ空いた穴までたどり着くことはできるだろう。
ブラッドローズは13号の手を掴むと、龍の背から夜空に向かい身を踊らせた。
飛んでいるというよりも、落ちているといったほうがいい状態ではあったが、風をコントロールすることによって方向を塔に向けることができる。
ブラッドローズは風の精霊が空中に造り出す道をとおって、塔に空いた穴にたどりついた。
ブラッドローズと13号は、塔に空いた穴の中へと転がり込む。
ふたりは穴の中で数回転がった末、立ち上がる。
そこは建物の中にある、回廊のような場所であった。
強い光は無いが石でできているらしい回廊の壁がぼんやりと光り、黄昏時程度の明るさはある。
立ち上がったブラッドローズは、回廊を見渡し息を飲む。
そこは、とても美しかった。
半透明になった石の壁の奥は、鉱石の結晶体が複雑な幾何学文様を描き薄く輝いている。
無数の宝石によって組み上げられた建物に入り込んだ、そんなふうにブラッドローズは思う。
その景色が放つ輝きは千変万化の変化を見せるので、カレイドスコープに閉じ込められた気分になってくる。
ブラッドローズは、気をとりなおし首を振った。
見とれている以外に、自分にはやることがあるはずだ。
どこかにいるSSEたちを見付け出し、13号の持つ強力な銃弾を打ち込んでやる。
そう思いながら、ブラッドローズは13号に声をかけた。
「行きましょうか」
13号は無言で頷くと、二丁の巨大な拳銃を抜き放つ。
それをかまえ、回廊の奥に向かって先にたち歩き始める。
ふたりは鉱石が造り上げた小宇宙というべき、塔の中を歩いていった。
気配は、全くない。
そもそもここは、生き物が存在するような場所では無いのでは、そんなふうにブラッドローズは思う。
ブラッドローズは、それでも13号の後に続き、奥へと向かった。
その時、不穏な気配がブラッドローズのこころを掴んだ。
「止まって、13号!」
ブラッドローズの言葉に、13号は立ち止まると振り返った。
その瞬間、衝撃が13号の身体に襲いかかり震わせる。
俯けに倒れた13号の背中には、幾つもの鉱石が食い込んでいた。
真紅の血が、回廊の床に流れていく。
ブラッドローズの口が、悲鳴をあげる形に開いた。
しかし、そこから叫び声が発せられる前に、回廊の奥から音の速度で鉱石が飛来する。
避けられるようなものでは、無い。
ブラッドローズは、死んだと思う。
ブラッドローズの身体に鉱石が触れるその瞬間、轟音が回廊に響き渡った。
ブラッドローズの目の前で、火花が散るようにして鉱石が砕ける。
目に見えぬ力が空気を振るわせ、超振動を起こしていた。
アナスタシアが、最後にブラッドローズへ渡した創世の和音が発動されたのだ。
ブラッドローズはアナスタシアによって、自分の生命が救われたのだと思う。
そして、次の鉱石が飛来する気配をブラッドローズは感じた。
ブラッドローズは咄嗟に、床へ倒れこんだ。
その背を、鉱石が飛び去っていくのを感じる。
目の前には、13号の死体があった。