表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/136

夜明けから夜まで 第百二十六話

ブラッドローズは、膝をついて泣き始める。

百鬼は、失った右目の後に血止めや化膿止めを塗り、手当てをはじめた。

しかし、その顔は蒼ざめ生気はない。

ブラッドローズは、地面に手をつきすすり泣き続ける。

その彼女の前に、白黒に塗り分けた道化の姿をしたクロソウスキーが立った。

クロソウスキーに気がついたブラッドローズは力なく、顔をあげる。

「何よ」

ブラッドローズの言葉は、力なくなげやりだ。

クロソウスキーは、顔になんの表情も浮かべずブラッドローズに語りかけた。

「おまえは、あの銀色に光る塔に行きたいのだろう」

「そうよ」

呆然とした顔で答えるブラッドローズに、クロソウスキーは淡々とした口調で言った。

「おれが、おまえをあそこに連れていってやるよ」

ブラッドローズの、問いかけるような眼差しを無視してクロソウスキーは自分の後ろに立っているおんなに声をかけた。

「アリシア、飛行形態に変化しろ」

おんなが頷くと、その身体は金色の光に包まれる。

突然、夜の闇に夜明けの輝きが降臨した。

ブラッドローズは、腑抜けた顔でその光を見つめつづける。

金色の光はやがて変形し、龍の姿へと変わってゆく。

変形は急速に進み、気がつけば黄金の龍が海岸に立っていた。

その身体は、見上げるほど大きい。

黄金に輝く龍の皮膚は、金属でできている。

確か、流体金属と呼ばれるもののはずだ。

魔道であれば、メタルギミックスライムを使用するのであろうが、共和国は古の秘技で同じことを行う。

ブラッドローズは、驚きに満ちた顔で立ち上がる。

そのブラッドローズに、百鬼が声をかけた。

「おれたちはまだ、負けたわけではないぞ、アルケミアの娘」

ブラッドローズは、強く頷いた。

百鬼は、右目を包帯で覆いながら、言う。

「まず、おまえの魔法で死体を焼き払え。いつまでも死体は、麻痺状態でいる訳ではない」

ブラッドローズは頷き、本を開くと血を垂らす。

そして、叫んだ。

「古に結ばれた血の契約に基づき汝を召喚する、出よサラマンダ」

本の中から紅蓮の焔が出現し、闇を真紅に切り裂きながら地を疾る。

本来であれば、目眩まし程度にしか使えないような魔法ではあったが、死体を焼き払うには十分であった。

浜辺に倒れている死体たちは、焔に包まれる。

魔法を終えると、ブラッドローズはクロソウスキーに向き直った。

「共和国のものが、わたしたちに手を貸すなんて一体どういうこと?」

クロソウスキーは、少し笑みを浮かべる。

それは、自嘲の笑みに見えた。

「おまえたちに手を貸すということは、おれは共和国の命に背くことになる。おれは、国に帰れば粛正され死ぬことになるだろう」

クロソウスキーの口調は他人事のように、乾いている。

「けれど、おまえたちに手を貸すことで世界を救えるのだろう」

ブラッドローズは、その言葉に頷いた。

意外にも、クロソウスキーは満足げに微笑んだ。

「世界を救ったおとことして死ぬのも、悪くないと思ったのさ」

ブラッドローズは満面の笑みで、その言葉に答える。

そして、百鬼に向かって叫んだ。

「百鬼、いくよ。あの塔へ。一緒にその龍に乗りなさい」

百鬼は、苦笑を浮かべる。

「おいおい、おれがまだ戦えるとでも思っているのか」

ブラッドローズは、眉間に皺を寄せる。

「じゃあ、どうすればいいのよ」

「13号をつれて行けばいい」

百鬼は、穏やかに言った。

「今のおれより、役に立つ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ