夜明けから夜まで 第百二十一話
ミハイルは、二騎が自分の目の前で止まるのを見届けると、問いを発した。
「立ち上がった死体たちが、砦に向かっているというのだな」
馬に乗ったまま、シルバームーンが答える。
「そうだが、昨夜と違って少しやっかいな連中がきている」
ミハイルは、怪訝な顔をしてシルバームーンを見た。
「どういうことだ?」
シルバームーンは振り返り、破壊された門の向こうを眺めながら言った。
「やつらは、フェイフゥーの黒砂蟲を操る術を、覚えたようだ」
ミハイルは、片方の眉をあげる。
なるほど、さっきの黒い包帯につつまれた死体は、黒砂蟲というものを操っていたものと思われる。
雷管銃が通用しないのであれば、戦い方を考えねばならない。
「でやつらの数は、どれだけだ」
「今のところ、七騎しか見ていない。もうすぐ、門の向こうに姿を現すだろうと思う」
ミハイルは、シルバームーンの言葉に頷くと、真っ直ぐ門の外へと向かった。
天空は闇にのみ込まれつつあったが、かろうじて残照が薄く空を輝かしている。
その残照に照らされた地上を、影が砦に近づきつつあるのが視認できた。
砦に続く道を、影たちは馬に乗って進んでいる。
その身体は、黒砂蟲に覆われているらしく、星無き夜の闇が持つ黒色に包まれていた。
死体の乗った馬も同様に、黒砂蟲に包み込まれている。
死神が乗る馬であるかのように、馬たちもまた黒い。
道の向こうを進む七騎の死体は、ゆっくりと進んでいたが足取りは着実でありこの砦へつくまで残された時間は少ないと思われた。
黒砂蟲に覆われた死体は、甲冑を身につけているように見える。
その身体には先ほど見たように、雷管銃は通用しないのであろうと思う。
ミハイルは、後ろにいるはずのイリューヒンに向かって叫ぶ。
「連射砲を、持ってこい!」
連射砲は、黒砂蟲の鎧を貫くかもしれない。
けれど、残弾はそう多くはなかったと思う。
ミハイルは、その時いつの間にか自分の傍らを百鬼がとおり過ぎていたことに気がつく。
その百鬼は後ろに13号と呼ばれる少年を、従えていた。
百鬼は、無造作に門の外へと出る。
13号は、その百鬼の隣に付き従っていた。
百鬼は、馬に乗った死体たちと、対峙している。