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夜明けから夜まで 第百二十話

その姿はまるで、黄昏に徘徊する妖魔である。

煤けた影に見える老人が、夜の闇を纏った死体の前に立っていた。

鋼鉄の硬度を持つ鞭となった指が唸りをあげて、百鬼へ襲いかかる。

イリューヒンは、百鬼が死んだと確信した。

その瞬間、百鬼は肉眼で捉えられぬ速度で刀を抜き放つ。

砦にいるものは全員、光が疾り自分たちのこころが斬られたのを感じる。

百鬼は刀をふるい、目に見えぬ何かを斬ったのだ。

鋼鉄の鞭は、百鬼の首筋に触れそうなところで止まっている。

目に見えぬ、あるいは、目に見えても理解できない力によって漆黒の包帯で身を包んだその死体は、確かに斬られていた。

黒い死体は、彫像となり立ち竦んでいる。

百鬼は刀を上段に振り上げると、無造作に斬り下ろす。

一見軽く刀が振られただけに見えたが、実際にはそれは凄まじい斬撃であった。

百鬼の刀は、死体の肩甲骨から脇腹に向かって抜けている。

胸を両断されふたつに身体を斬られた死体が、地面に崩れ落ちた。

死体とはいえ、斬り口から血が地面へと流れおちてゆく。

それだけではなく、その死体を覆っていた漆黒の包帯は黒い砂となり大地へと流れた。

イリューヒンの背後で、鴉の姿をした魔道師が呟く。

「黒砂蟲にかけた呪が、消え去っているのね」

ブラッドローズが、それに答える。

「デルファイから来たものが魔法を無効化できるというのは、本当だったようね」

そこに、ミハイルがやってきた。

ミハイルは、百鬼が斬った死体を見下ろし唸り声をあげる。

「見事な技だ」

百鬼は、皮肉な笑みを浮かべる。

「死体を斬っただけだ。誰にでもできる」

ミハイルは、首を振る。

肉と骨を一太刀で両断するなど、余程の技がなければ無理であることをミハイルは知っていた。

かつて彼の腹心であったアレクセイも同じことができたはずだが、アレクセイですらそんな技をふるうときには裂帛の気合を発したはずである。

百鬼は、全く力を込めた様子がなかった。

本当に、無造作に斬っているようにしか見えない。

そのような境地に達するまで、一体何百人を斬ったのだろうとミハイルは思う。

百鬼は皮の布で丁寧に血脂を拭うと、刀を鞘におさめる。

その時、崩れ落ちた門の向こうから、二騎の馬が砦へ入りこんできた。

馬上にいるのは、シルバームーンとロックフィストである。

シルバームーンがミハイルを見つけると、叫んだ。

「やつらがくるぞ!」


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