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夜明けから夜まで 第百十四話

ミハイルは、砦の外に出る。

西側に聳えるミッドガルド山地が落日で真っ赤に燃え上がっているのを、見ることができた。

頭上の天空は、悽愴さを波乱だ藍に染まりつつある。

その次第に昏さを増してゆく碧い空の下に、生き残ったひとびとは集結していた。

兵の数は十分ではないため、予備兵だけではなく使えそうなおんな子供にも雷管銃を与えている。

後ろから、クロソウスキーが声をかけてきた。

「今夜は、砦に立て籠もるつもりはないのかい? 隊長様」

ミハイルは、少し苦笑して答えた。

「昨夜は、生き残ることに意味があったが、その意味はもう失せた」

ミハイルは振り向いて、少し凄絶な笑いを浮かべる。

「今夜はとことん戦って、死ぬつもりさ」

中庭の中央に設えられた評定場は、ごく簡単なものであった。

天幕も張られておらず、剥き出しの場所に机だけが置かれている。

その机には評定に使う地図すら置かれておらず、ただ武骨な長机が設置されているだけだ。

そもそも、評定とはいえ本当は話し合うことなどもう無いともいえる。

机の回りには、生き残った下士官レベルの兵が揃っていた。

既に机の側にきていたミシェル・デリダがミハイルを見ると、軽く手を振ってきた。

ミハイルは、無言のまま軽く頷く。

机の側まできたミハイルは、片隅にアナスタシアの姿を見つけた。

蒼ざめた顔は憔悴が酷く、おそらく昨夜のような魔法による援護は期待できないであろうと思う。

まあ、それがどうということでもないが。

ミハイルが机の側に立つと、全員がミハイルを見つめた。

敬礼こそしないが、緊張感が場に降りてくる。

ただひとり朗らかな笑みを浮かべたままのデリダが、ミハイルの後ろに向かって声をかけた。

「よう、クロソウスキー。あんたも、今夜は付き合うのかい?」

黙って首を振るクロソウスキーの代わりに、ミハイルが言った。

「評定に、付き合うだけだ。終われば、ただの観客になる」

デリダは美しい顔に輝くばかりの笑顔を浮かべると、頷いた。

「始めるかい、ミハイル」

ミハイルは頷き、イリューヒンに指示を出すと全員に盃をくばる。

そしてその盃に、火酒をそそがせた。

ミハイルは少し太々しい笑みを浮かべると、生き残った一同を眺める。

そして、口を開いた。

「もう、多くを語る気はない」


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