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夜明けから夜まで 第百八話

そのおんなの顔には、見覚えがあった。

わたしがこの世界にくるために、ブラックソウルから受け取ったニュース映像、そこで黒十字の兵士たちと共にいたおんなである。

百鬼は小柄を使い拘束衣を切り裂くと、おんなを自由にした。

水色のワンピースと軍用ブーツを身に付けたそのおんなは、立ち上がる。

ニュース映像の時より年をとり、より成熟したおんなになったようであるが、おんなの変化はそれだけではないようだ。

その瞳は夜を支配する黒い太陽の輝きを秘め、こころの底に宿りし怨念や哀しみを滲み出させている。

「これはこれは」

おんなは、真っ直ぐわたしを見つめる。

おんなは、地の底から響くような少し掠れた声で言った。

「こんなところで、同業者に会うとはね」

わたしは夜の闇をまとったおんなを、夜明けの金色に輝く瞳で見つめる。

「では、あなたは魔道師だというのね」

おんなは邪悪な笑みを浮かべただけで、わたしの問いに対して何も答えない。

百鬼はいつもの荒野を渡る風の響きを持つ声で、おんなに語りかける。

「お目にかかれて、恐悦至極だ。春妃・フォン・ヴェック」

春妃と呼ばれたおんなは、わたしのほうに目を向けたまま鷹揚に頷く。

百鬼はそんな春妃の態度を気にとめたふうもなく、言葉を続ける。

「時間がないので、単刀直入に話しを進めさせてもらう」

春妃は、無言であったが眼差しで先を促す。

百鬼は、変わらぬ調子で言葉を続ける。

「われわれは、あなたの持つ土曜日の本を必要としている」

「へぇ」

春妃は少し驚いた、面白がっているかのような声を出す。

その顔には、魂を手に入れるための契約を持ちかける悪魔の笑みが浮かんでいる。

気がつくと、春妃は大きな本を手にしていた。

彼女が身につけた服に隠しておけるようなところは無いため、空中から取り出したとしか思えない。

突然出現したその本は、重厚な革の表紙を持つ、古めかしく分厚い本であった。

その表紙には、金色の文字でこう書かれている。


book of Saturday


わたしがアルケミアで手にしていた、パルジファルの書とそっくりだ。

春妃は、不吉な笑みを浮かべて言葉を発する。

「わたしはね」

春妃の黒い瞳は、暗黒の光でわたしを突き刺している。

「何かを得るには対価を払うべきだと、思うのよ」

春妃は薄く笑いながら、言った。

「あなたたちは、何を払う用意があるの」

「そこのところは」

百鬼は、わたしのほうへ眼差しをなげる。

「おれのクライアントである、こちらのブラッド・ローズと話し合ってくれ」

「へぇ」

春妃は、まるで楽しんでいるかのような声をだす。


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