表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/136

夜明けから夜まで 第百四話

わたしは百鬼の言葉を聞き、あらためて箱の中を覗く。

闇に溶け込み静かに横たわるその少年は、やはり死体としか思えない。

華奢な身体は、灰色のマントに包まれている。

目はゴーグルに隠されていて見えないが、薔薇色の唇が闇の中にぽつりと浮かび上がって見えた。

儚げな顎の線は、少女のもののようでもあったが、身体のラインは堅く少年のものである。

その少年は息をしているようには、見えない。

死体ではないというのならば、精緻に造られた人形といったところだ。

まあ、アンドロイドというのなら、そうなのだろう。

「ねえ、わたしには死体にしか見えないんだけれど」

わたしの問いに、百鬼は少し笑みを浮かべて答える。

「遺伝子工学を利用して人工的に造り上げられた肉体に、電子機器を脳へ埋め込みチタンクロームの骨格で強化している。まあ、死体を部品として使ったロボットだと思えばいい」

わたしは、鼻を鳴らす。

さすがボルシェビキだけあって、趣味が悪い。

百鬼は、箱の側面についたパネルを開いて操作する。

箱の底にあるバッテリーより電気が供給され、箱の中につけられたいくつかのランプがつく。

海の底にある闇が満たしていたその箱は、冥界の明かりに照らされる。

百鬼は、パネルについたキーを素早く操作していた。

微かに機械が動作するノイズが、聞こえてくる。

おそらく少年の身体に電気が流し込まれているらしく、少年は幾度か痙攣した。

わたしはそれを見ながら、思いついたことを百鬼にたずねた。

「ボルシェビキは、黒十字の帝国とは敵対していたんじゃあなかったかしら」

百鬼は、少し驚いたようにわたしを見た。

「まあ、そうだが今は不可侵協定が、一応は結ばれている。それに」

百鬼はキーにコードを打ち込むのを止めず、手を動かしながら言葉を重ねる。

「ボルシェビキの敵は、黒十字の帝国軍の敵でもある。敵の敵は味方という原理で、武器を提供したようだ」

百鬼は、少し皮肉な笑みを浮かべる。

「それとN2シリーズは、実験兵器だ。使用することによって、実戦データを提供する約束でもしたんだろうな」

百鬼は、パネルへキーを打ち込む作業を完了したらしく手をとめると少年を見下ろす。

淡いランプの光で朧げに浮かび上がった少年の身体は、不思議と精気が宿ったように思える。

唐突といってもいい動作で、少年の上半身が起き上がった。

機械的な、動作でありロボットのものといえば、そうかもしれない。

少年は大きなゴーグルで覆われた目で、百鬼を見る。

百鬼は、少年を見ると話しかけた。

「解除コード、ヨルムンガルド」

少年は、その言葉を聞くと、突然人間的な動作を始める。

そして、百鬼に言葉を返した。

「解除コード、受領しました。あなたをマスターとして、認識します」

少年は、滑らかな動作で立ち上がり、箱から出てくる。

人間的ではあるが、それでもどこか人形的なところもあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ