夜明けから夜まで 第百話
キャプテン・ドラゴンは銀幕のスターが見せる笑みを頬に浮かべると、操縦席から立ち上がり後方の積荷を格納するスペースへと向かう。
そこで、キャプテン・ドラゴンは床をスライドさせて船底を剥き出しにする。
そこにあるものを見て、わたしは呆れ声を出した。
「一体、何を積んでるのよ」
それは、大砲であった。
飛行船に積むような、しろものではない。
おそらく、下部の装甲板を開いて外に出して使うものなのだろうが、まだ船内に収容されている。
ヤンが、操縦席から叫んだ。
「ぎりぎりまで引きつけて、撃ってくださいね」
確かに、砲身を船体から外に出したらシュヴァルベに気づかれる。
そうなれば、あっさり回避されて終わりだろう。
わたしのこころを読んだのか、相変わらず甘い笑みを浮かべるキャプテン・ドラゴンが言った。
「シュヴァルベが戦闘速度に入れば、そう簡単に進路を変えられない。やつがエンジン全開にして一撃離脱体勢に入ったときに、こちらもぶちかます」
キャプテン・ドラゴンは、砲の後部から砲弾を装填する。
青い目の若者は、楽しげな笑みを浮かべて解説した。
「8.8cmFlak、アハト・アハトだ。ティガー2号戦車の砲塔から換装した」
キャプテン・ドラゴンは砲の側面についたハンドルと円盤が組み合わせて造られた、射撃管制装置を操作しだす。
わたしは、頭がくらくらしだした。
「ジェット機が全速でこちらに向かって飛んでいて、こちらも高速で動いてるのに、命中するわけないじゃん」
キャプテン・ドラゴンは、苦笑した。
「夜の眷属のくせに、細かいことを気にするんだな」
いやいや、全然細かくないし。
そう思ったが、口にはださず憮然とした表情になる。
そんなわたしの顔を見て、キャプテン・ドラゴンは言葉を重ねた。
「対空炸裂弾を使うんだ。直撃する必要は無い」
わたしは、呆れ顔で言った。
「そんなうまく、砲弾が炸裂するの?」
「近接信管、てやつだ。心配するな。それに」
キャプテン・ドラゴンは、器用にウィンクした。
「おれの相棒が、風の道を教えてくれる」
なるほど。
フレイニールを、信じるしかない。
いつの間にか、パラシュートを背負った百鬼が刀を提げてわたしの側にくる。
「高度はもうすぐ5千を切る。撃墜できたらすぐ、降下するぞ。ニューヨーク・プリズンは目の前だ」
わたしは、百鬼のいつものと変わらぬ無表情に感心した。
このおとこは、キャプテン・ドラゴンがし損じるとは微塵も思っていないらしい。
わたしは百鬼に、頷きかける。
「判ったわ」