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D・M  作者: 詩月凍馬
4/4

神前・創造

書き方、と言いますか、改行法を変えて見ました。

見やすくはなっていると思いますが、以前の書き方が良ければそちらに、この方が良ければこちらにと、以後統一したいと思いますので、その辺りのご意見がありましたら感想にでもお願い致します。

 目を開くと、真っ白な空間に居た。


「は?」


 うん、意味が解らない。

 さっきまでのも意味が解らなかったが、今度もまた極め付けだ。

 何しろ、真っ白なだけで何一つ――それこそ、空もなければ大地もない。

 足場がない筈なのに確りと立つ事が出来ているんだから、不可思議極りない。

 隣を見れば、エルの方も訳が解らない様子で茫然と辺りを見回している。


「なぁ、」


 ここは何処だろうか? 

 そう口にする前に、目の前の空間が揺らぎ、黄金色の暖かな光が浮かび上がった。

 そんな異常事態に即座に刻印に魔力を注ごうとするものの、何故か魔力が循環しない。

 それどころか、構える事すらも出来ない。

 幸い・・と言って良いのか、黄金色のその光は眩いものの目を焼く様な輝き方ではなく、ただ只管に神々しいイメージを受けた。


 目を細め、光を見つめる俺達の前で光はユックリと形を変えて行き――

一際強く輝いた後には、一人の女性が佇んでいた。

 柔らかくウェーブを描く黄金色の長い髪と、いっそ人形じみたとすら言える整い過ぎた容貌、人体の黄金比を体現した様な体躯には、簡素ながらも美しい衣装を身に付けた女性。


 その姿はまるで――


「女神様・・・?」


 エルが茫然と呟いたが、俺もそんな印象を受けた。

 整い過ぎた容姿は、体のラインが一目で解る薄手の衣装に包まれているにも関わらず、男の情欲を煽る様な肉質感を持たず、穏やかな笑みを浮かべたその顔立ちは慈愛に満ちた母親にも、信愛に満ちた娘にも、はたまた蠱惑的な娼婦か信心深い巫女の様にも見える。

 それでいて現実感と生活感にも乏しい、そんな美女。


《ようこそ、おいで下さいました。世界カストゥルを救いし勇者クイン、そして巫女エルミナ》


 俺達が口を開く前に、美女の声が響いた。

 耳朶に響く肉声ではなく、脳裏に響く思念の声。

 これはカストゥル各地を巡り、神々の助力を得た時に聞いた神々の声と同じもので、目の前の存在が俺達が契約を結んで来た神々とは違えど、神と言う座にいるのだと確信させるには充分なものだった。


《えぇ。貴方方が思う存在だと思って頂いて構いません。最も、私は貴方方が知る神々とは違い、この世界――アマランスにおける神ではありますが》


 再び、脳裏に響く言葉。

 成程、何処の誰ってのは解らないが、彼女が神ってのは間違っていないらしい。

 証拠って訳でもないが、カストゥルの神々同様、俺達の思念を読み取って会話しているしな。

 この辺りはアッチの神との付き合い方と同じで良いらしい。


 となると――


《安心して下さい。貴方方の疑問にはちゃんとお答え致しましょう》 


 そう言ってほほ笑むと、彼女は語り始めた。


 それによると、彼女は地球ともカストゥルとも違う、『アマランス』と言う世界を司る神であり、名をヘザーティア。

 カストゥルの地で死んだ俺とエルの魂をこの地に導き、死した肉体を蘇らせた張本人なのだそうだ。


《カストゥルの神を通じ、貴方方を見ておりました。異界に飛ばされ、混乱しながらもカストゥルに住まう人達を救わんと命を燃やした勇者、クイン。悲しき運命を背負いながらも明るさと優しさを忘れず、勇者を、友を支えた巫女、エルミナ。友と力を、心を合わせて苦難を破り、ただただ力なき人々を護らんとした、貴方方の戦いを》


 ・・・う~む。

 間違っちゃいないんだが、そうも美談にされるとちとむず痒いものがある。

 何だかんだと言いながらも、俺は結局クォークみたいな友人が、そして惚れた女――エルが生きる場所を護りたかっただけだしな。


 それに無償で戦ったって訳じゃない。

 レスディアからも報奨金って形で賞与は出ていたし、何より、魔王殺しの英雄になった御蔭でエルとの仲も認められた訳だし。

 それを考えれば、十分元は取れてる訳だ。


 ・・・まぁ、最後の最後にケチ付けられたってのはあるけどな。

 それは俺だけではなく、エルの方でも同じ考えらしく、俺の方を見て困った様に笑ってる。


 最後の最後、ヴォードの奴が私欲に走らなけりゃ、苦労以上の報酬は得られてた筈だし、クォークにはちと悪い事をしたが、ユミリも無事だってんなら、まぁ、許容範囲ってもんだろう。 


 ヘザーティアはそんな俺達の考えを呼んだのか、笑みを僅かに寂しげなものに変える。


《その魂の高潔さ、称賛に値します。ですが、それでは余りにも悲運というもの》


 まぁ、そうかもしれないが。

 それでも俺達は割と納得もしてるんだ。


《えぇ、それも承知しています。ですが、それでも、と思ったのですよ。今一度、新たな地で新たな生を生きて欲しい。そして、今度こそ幸福を。これは私だけではなく、カストゥルの神々の総意でもあるのです》


 うわ・・・、カストゥルの神々全てってだけでも大げさだが、そこに加えて関わってすら居なかったアマランスなんて異世界の創世神からも望まれるとか、スゲェ事になってるな、俺ら。


 ・・ん?

 いや、ちょっと待て。

 ただ単に新しい命を生きて欲しいってだけなら、アマランスの何処かに転移させるだけでも良かった筈だろう?

 だったら、何で地球時代の俺の部屋で目覚めた上、部屋以外があんな状態だったんだ?

 しかも、『迷宮創造・型式・救世主式』なんて、訳の解らないソフトまでPCにインストールされてるし。


 俺の疑問を受けて、ヘザーティアは僅かに表情を曇らせた。


《それは、私の事情があった故です》


 そう言って、ヘザーティアが再び語り出す。


 ヘザーティアが司る世界、アマランスはカストゥルと同じく剣と魔法によって成り立った魔法世界。

 文明レベルは地球で言う中世ヨーロッパと同程度と言うのも、やはりカストゥルと符合する。

 ただ、大きな違いと言うものが存在しており、それが魔王の存在。

 カストゥルには六魔王とそれに率いられた魔軍と言う明確な脅威があったおかげで、人種による対立がさほど大きくなっていなかったのだそうだ。


 それを聞いて、成程と思う。

 六魔王と魔軍なんて脅威があったんだ。

 人種による対立なんてしてようものなら、即座に滅んでただろう。

 身体能力に長けた獣人種、精霊と交感する力を持ち、魔法に長けたエルフ種、頑健な肉体と細やかな指先を持ち、優れた武器防具を作りだすドワーフ種。

 他にも妖精種や幻獣種、様々な種族がそれぞれの長所を生かし、互いに短所を補い合う事で初めて、魔軍との戦いが出来ていた訳だし。


 そこで『お前ら獣人は人の成り損ないだから、俺達人間の奴隷になれ』とかやってたら、とっくに瓦解して終わっていたのは確かだ。


 で、問題のアマランスだが、こっちには六魔王と魔軍と言う明確な、共通の敵が居ない。

 その結果、人種同士の対立が大きくなり、問題になっているのだとか。


《ただ単に対立するだけならば、私としても介入はしない積りでした。悲しい事ですが、生命は互いに競い合い、棲み分けを行っていくものですから。ですが、そう言っても居られなくなったのです》


 そう言って語られたのは、人類種の横行。


 どうやら、環境への適応力が高く、繁殖力も高い人間種が大勢を占めた結果、他の人種を抑圧し始めたらしい。

 聞いているだけでもお約束って気がしてならないが、『人属こそが世界の覇者にして、正当なる後継者』だと謳い上げ、獣人種やエルフ、ドワーフ等を奴隷として隷属させている、と解り易い悪党ぶりを発揮してる訳だ。


 で、それらと俺達に何の関係が・・・って事だが、どうやら迷宮創造の力を使って弾圧に苦しむ亜人種達の保護し、新たな住み場所を作ってほしいのだそうだ。


《カストゥルに置いて六魔王を下した貴方方は、アマランスに置いても私に次ぐ強者、戦い方によっては、私をも上回る可能性すら持ち得ています。そんな貴方方に、彼らの守護者になって頂きたいのです》


 ・・・話が一気にでかくなった。

 と言うか、アレか?

 俺らは戦いまくった結果、下手すりゃ神越えレベルにまで行っちまったと?

 それで、そんな俺らが守護者になれば、ただ数が多いだけで慢心しまくった人属が何かしてきても潰せる筈だ、とそう言いたい訳か。


・・・ぶっちゃけ、それってダンジョン要らなくないか?


《確かに。ただ戦いに勝利し、支配するのであれば迷宮等不要でしょう。特にクイン。貴方が万全の状態で刻印術を駆使すれば、それこそたった一人で人属全ての国を滅ぼす事も容易い筈です》


 あぁ、うん。

 確かに出来そうな気もしないではないが・・・それ、勇者じゃなくて魔王だよな?

 今度は俺=魔王を退治する為の勇者君が、召喚されそうな気がしてならんのだが、その状況。


《恐らく、そうなるでしょうね》


 あ~・・否定しないんだ。

 と言うか、だ。

 カストゥルもそうだったが、何故自分らでどうにかしようとせずにホイホイ勇者召喚(よぶ)んだよ?

 あれ、普通に拉致だぞ?

 やられる側からしてみればさぁ。

 無関係な人間を良世界から拉致った揚句、『お前は勇者なんだから、魔王倒してこい。あぁ、当然元の世界には戻れないけど、気にしないでいいよね? 勇者なんだし』とか抜かされて、地獄の最前線送り。

 拉致の中でも最悪に近いぞ、勇者召喚ってヤツは。


 そんな俺の思念を読んだヘザーティアは、表情を暗くして答える。


《その通りです。そして、それが私達の世界が抱える問題でもあるのです。世界を越える事で異能を手に入れた召喚者は、通常の人に比べて大きな力を持ちます。それは確かなのですが、その根底にあるのは自身への慢心と傲慢。それによって生じた怠惰こそが、安易に『召喚』と言う手段へと走らせるのですよ》


 つまりはこう言う事だ。


 もの凄い強敵に攻められて、世界が危機に陥る。

 それによって危機感を煽られて解決の手段を探るものの、常日頃の慢心によって努力を忘れた人間は自分を磨き、高める術に疎い事に加え、それを行うだけの時間もない。

 まぁ、努力なんてものは長い期間、継続して自分を鍛え続けるからこそ結果が出るものだから当り前ではあるのだが、いざ危機に陥りましたって時に『さぁ、今から努力して危機を乗り切れる力を手に入れるんだ!』等論外である。


 第一、それ程の時間的余裕がある時点で、危機なんぞと呼ぶのもおこがましい訳だが。

 兎も角、危機は迫っているがそれを振り払う力もなければ、力を手に入れる時間もない。

 だったら、出来る奴を呼べばいい。

 そいつを呼んで解決して貰い、偉い偉い王様自ら礼を――場合によっては王女と結婚でもさせれば、万事解決。

 喜んで救世主を務めてくれるだろう。


 ・・・と、こう言う思考なんだそうな。


 いや、まぁ、最終手段としては、別段否定する気はないぞ? 勇者召喚って奴も。

 ただ、それは常日頃から自らを磨き、あり得るだろう危機に備えた上で力が及ばず、それでもなお、許された時間の中で足掻きに足掻き抜いた上での話だ。

 不断の努力で己を磨き続けた連中が、足掻き続けてそれでもどうしようもないからと、自分達が行う事の非道さを承知した上で、その罪に誠実に向き合うつもりがあるのなら、ある意味仕方ないのかもしれないとは思う。


 地球で言えば核の使用の様な物だと俺は思うのだ。

 効果は理不尽な程に高いが、使用する上で浮上する問題も非常に大きい核。

 世論的なものもそうだが、放射線汚染による生態系、ならびに土地等への影響も大きい事を承知している以上、最後の手段としてそれまでにあらゆる努力を行うのは解りきっているし、その上でなお断行したのなら支持者はそこに至るまでの経緯を伝える義務と、世論への対応を余儀なくされる。


 地球に置けるそれは政治生命・軍人生命の終わりを招く可能性も高く、そうでないとしても何らかの風評は免れないのだが、こと、それが異世界となると話が変わる。


 カストゥルでの経験とヘザーティアに伝え聞いたアマランスでのそれしか判断基準がない訳だから、中にはそうではない世界もあるのかも知れないが、中世レベルの文化形態を持った世界に置いては、良くも悪くも統治者である『王』こそが絶対的な力を持っている。


 神と王とがイコールとは行かないまでも、それに近い崇拝対象である事もないではないし、そうであるからこそ視野が狭くなりやすい訳だ。

絶対権力者であり、神聖である王自らの礼と褒美を賜れると言う名誉があるのだから、故郷から連れ去られ、危難に立ち向かわされる程度は問題にもならない筈だ、と言うのがレスディアに置ける一部貴族の考えであったし、このアマランスでもそれは変わらないと言う。


 まぁ、レスディアに関して言えば、エルの影響もあって今生帝にあたる父王は異邦人に過ぎない俺を、カストゥルの危機に駆り出す事への罪悪感や無力感等も覚えていたらしく、もし俺が望むならばと俺を元の世界に戻す為の研究をさせていた位だ。そう言う意味では、まぁ、マシではあったのだろうが閑話休題。


 その辺りの認識が変わらない限り、人は安易な方向へ流れ続けるだろうし、それ故に行きつく先等知れたものである、と言うのが俺とエル、そしてヘザーティアに共通する見解だ。

 ここで問題になるのが、『人は』と言う点で、それは即ち『人間種』以外を指していない点にある。

 数の暴力を背景に、弾圧されている他種族にまで、それを適応させるのは問題だろう。

 

 現に、今もって少なくない数のレジスタンス等も活動している様だし、それらの中に異世界召喚の様な邪法に手を出すものもいないと聞く。

 単にその手法を知らないか、若しくは知っていても呼び出されるだろう存在が『異界の人間種』に限定されている事で信用が置けないと判断しているのかは兎も角として、自らの力と意思で事を為そうと言う意思を残した彼ら、彼女らには未来を示す余地があるとヘザーティアは言う。

 

 それを聞いて、俺とエルは顔を見合わせて苦笑を浮かべた。

 

 だってなぁ・・・、完膚なきまでに見切られてるし。この世界の人族。

 創世神としてその視野も器も桁違いに広い彼女をして見切るしかないってのは、もう終わってるだろう。

 一体、そこに至るまでにどれだけの真似をやらかしたやら、想像もしたくない。

 

 とは言え、ヘザーティアの求めるものは解ったが、だからと言って問題がないではない。

 それは至って単純で


「あ~・・、まぁ、解ったのは解ったんだが・・。良いのか? 俺もエルも人族だぞ? 守護者認定下したヘザーティアは兎も角として、これから保護しようって連中にはウケが悪い所の話じゃないだろ」


 と言う事だ。


 俺もエルもそれぞれ出身世界は異なるとは言え、人族である事には変わらない。

 これが獣人種――狼人種だったクォークや、エルフ種であったパーラなら兎も角として、アマランスと言う世界で人族の俺達が容易く受け入れられるとは考えにくい。


 人族相手なら問題なく行くかも知れないが、アマランスに置いて人族はある種の仮想的であるので、そっちに受け入れられても意味がない。

 受け入れて貰わねばマズイのは他種族の方だが、そっちにはまんま人族の俺とエルがどう映るかと言えば――


「お世辞に言っても胡散臭い――もっと言えば、自分達を偽って油断させようとしている、程度は考えるだろうと思うんだが・・・。そんな状態でどう守れと?」


 誠心誠意、疑われようが詰られようが誠実さを示し続けるしかないんだろうが、そうするに足る理由があるのか、と言うと今の俺には『ない』としか言えない。

 確かにアマランスに置ける彼ら、彼女らの境遇は思う所がないではないが、だからと言っていつ寝首を掻かれるかも知れない相手に無私の精神で守護できるかと言われれば、答えはノーだ。


 カストゥルで戦場にたったのは、飽くまで護りたい奴らが――俺にとって大切だと思える相手が居たからであって、危機に陥った異世界を護らねば、等と言う使命感に燃えたからでは決してない。


 当然、その辺りはヘザーティアも解っていたらしく、足る程度の解決策は用意していると答えて来た。


《二人には私の加護を与えます。アマランスに置ける私は創世神ではありますが、今の人族は私を邪神として封じ、人族にとって都合のよい『神』を作り上げ、それを創世神として祀っております。当然、人族よりも長命であるエルフやドワーフ、精霊達等には真の神話が伝わっている様ですが》


 詰まり、居もしない『人族の人族による人族の為の最高神』ではなく、他種族にとっての最高神であるヘザーティアの加護を受ける事で、ある程度の緩和は可能だ、と言う事らしい。


 まぁ、だからと言って最初っから信頼なぞ得られないだろうが、それは仕方がない。

 人間、誰しも絆を結ぶには時間が必要なのは当然、と言う訳だ。


 後は今後俺達が作る迷宮の中にヘザーティアを祀る神殿なりを作り、親和性高い巫女や神官を封じれば、彼らを通して神託を与えて俺達を補助する事も出来るとか。


 それから暫く話し合った結果、結局俺達はヘザーティアの嘆願を聞き入れた。

 地球にもカストゥルにも帰れない俺達にとっては、アマランス以外に行き場がないと言うのもあるが、そこまで俺達を買ってくれたヘザーの願いも無視できない。

 それに、何だかんだで救える命を見捨てるのも、結局は気分が悪い。


 この辺りがパーラ曰くの『お節介なお人好し』なんだろうなと、エルと二人して苦笑していると、どうやらそれを読んだらしいヘザーもまた苦笑を浮かべていた。





 ヘザーとの対面を終えて部屋に戻って来た俺は、PCのモニターと向き合っていた。


 モニターに移る『迷宮創造・型式・救世主式』を弄りながら、エルと二人で考察を進めていく。

このシステムは迷宮運営に必要な迷宮の創造、管理に加え、配下となるモンスターの創造等の全てをこなすのだが、それには当然ながら対価が必要になってくる。

 ゲームか何かであれば、それはダンジョンポイント等と呼ばれて別個に設定されているのだが、このシステムに関して言えば俺やエルの魔力=ダンジョンポイントとして換算されている様である。


 と、この時点でこのシステムは結構なチート仕様である事が解る。


 何しろ、俺とエルは二人揃ってレベルが900オーバーであり、一種の魔法戦士職でもあるのでMPは豊富に持ち合わせている。

 俺が38000、エルに至っては56000とぶっ飛んだ数値である事に加え、互いに[精神高揚][神憑り]とステータスアップ系統のスキルを持っているし、[生存術]や[戦闘継続]等のスキルによって回復も早い。


 具体的に言えば、例えMPを使い切ったとしても、確り栄養を取って一晩グッスリ眠れば完全回復する上、一定時間と言う制限はあるものの[精神高揚]でMPの最大値を二倍、上位に当たる[神憑り]を発動すれば全ステータスの三倍化も可能である事を考えれば、これ程に使いやすいシステムはそうはないだろう。


 それと嬉しい誤算だったのは、モンスターやオブジェクト等は俺の方で設定して産み出す事も可能って事だろう。


 まぁ、本来の手続きで言えば、モンスターやオブジェクトの名前や能力等の細かな設定を組み上げ、外見を細かく書き込んだイラストを取り込ませて設定するのだが、その辺りは省略の手段が手元にある。


 高校時代に趣味で集めたカードを取り込めば良いって訳だ。


 チュートリアルって訳でもないが、ヘザーとの加護で直接やり取りが出来るからこそ確認できた事ではあるが、この『迷宮~』のシステムはそのままヘザーが持つ創世神としての権能の劣化版――或いは簡易版に当たるらしく、大抵のものは創造出来ると言う完璧なチート品。


 だったら、出来る事等それこそ無数にあるってものだ。


 カードの中にはキャラクターを動かしたり、施設を設置したりするのに必要なコストを生み出すものもあるし、それらをMPやHPとして変換する施設もある。

 それらを使えば、擬似的にとは言え俺やエルの最大MPを上昇させる、もしくは消耗を制限する事も可能である。


 加えて、アマランスには存在しないモンスターと言うのも、果てしなく価値が大きい。


 カードやゲームに登場するオリジナルモンスターの中には、俺達がカストゥルで戦った魔王級に匹敵するものも居る。

 自意識を持って現存していた六魔王と違って、攻略法が存在する――時間を掛けて手順を踏めば、確実に倒す事が出来ると言う前提に成り立っているキャラクターではあるが、その手順が複雑なもの、若しくは特定のキャラクターやアイテムが必要な場合もある事を考えれば、アマランス世界の冒険者、若しくは軍隊と相対させたとしても、攻略は酷く難しいものになると考えられる。


 まぁ、最終手段ではあるが、ヘザー直々に超越指定を受けた俺やエルも出張る事を考えれば、迷宮の守護は鉄壁だと言って良いだろうと思う。


 そんな訳で、俺とエルは早速迷宮の創造に取りかかる事にした。


 取りあえず、喫緊に必要な俺達の生活空間だけでも、どうにかしなければならないのは確かだし。

 何しろ、俺の部屋がポツンとあるだけで、トイレもなければ風呂もない。

食事に関しては、何故かあった食材やらで何とかならないではないが、食事と睡眠だけで生活が成り立つ訳ではない。

 食う物を食えば当然、出るものは出るし、部屋に居るにしたって新陳代謝がある以上、体は汚れる。


 衛生面を考えれば、その辺りは早急に対処しなければならない訳だ。


 とは言え、現時点でのMP残量から行けば何も出来ないのは確かなので、初期値としてヘザーが振り込んでおいてくれたポイント1000を使ってまずは拠点を作る事にした。


 俺達の回復と言う点から見ても、生活環境を整えておかなければ悪戯に時間がかかるだけだしな。


 回復した後にジックリ弄る事にして、まずは拠点に当たるこの部屋のドアから続く廊下を10メートル程の廊下を作成し、部屋から見て右側手前に風呂場を設置する。

 流石に露天風呂等と贅沢は言えないが、ユニットバスみたいは風呂も勘弁だ。

窮屈で体が休まらない。

 なので、二、三人は並んで足を延ばせる程の湯船と鏡とシャワーの付いた洗い場を三つ程作る事で当面は満足する事にする。


 何しろ、この規模の風呂でも消費するポイントは800近い。

 

 他にもトイレと寝室を作らなければならないし、ベッドを始め出さなければならない家具もある。


 それを考えれば、余り欲張り過ぎる訳にも行かないのだ。

元々を言えば、エルと俺とで寝室を分けるつもりで居たのだが、それはエルの大反対にあった。


曰く


『せっかく一緒に居られるのに、何で態々部屋を分けるの? それはMPに余裕が出来て来たら個人へやも欲しいかもしれないけど、寝室は一緒で良いじゃない。ヴォードの裏切り者が居なかったら、私達今頃結婚出来てたんだよ? 夫婦なのに別の部屋で寝るとか変だよ』


 だそうである。


 確かに、あり得たかもしれない未来を今更言っても仕方ないが、ヴォードの奴が余計な野心を抱いたりしていなければ、俺とエルは六魔王殺しの偉業を手土産に婚姻を結んだ事だろう。

 当初より、神託を受けていたエルと俺は六魔王を倒すと言う条件はあったものの、婚約状態だったのだから、ある意味当たり前ではあるが。


 それを思えば、アマランスに転生させられたとは言え、俺とエルの関係に変化はない。

 こっちでの結婚は解らないが、カストゥルに置ける結婚とは番となる男女が互いを裏切らず、常に支え合い、尊重し合って愛を紡ぐとカストゥルに置ける創世神に誓う、と言う形をとっている。


 それにのっとって言えば、アマランスに置ける創世神、ヘザーに誓いを立てれば婚姻の証に出来る筈ではあるのだが、閑話休題。


 兎も角、エルと一緒にいるのが嫌な訳でもなく、エルが嫌がっていないなら態々分ける必要もない。


 拠点兼作業部屋とも言える俺の部屋は二人暮らしには狭いし、互いの体温が直ぐに感じられるシングルベッドも悪くはないが、やはりある程度の余裕があるダブルベッドの方が体は楽だ。

 よって、俺の部屋に隣接する形で10畳程の部屋を作り、壁に新しくドアを作る事で繋ぐ。

 当座の家具として大き目のダブルベッドと、水差し等を置ける様にサイドテーブルを一つ置く。


 トイレは通路を挟んで風呂の向かい側に設置した。

 当然ながら、洋式の水洗である。

 

 ここまでの設置で消費したのは約1500ポイント。


 後は必要物資に使う。


 何しろ、設営で出てくるのは飽くまで部屋と言う環境だけだ。


 風呂であれば風呂とシャワー、鏡なんかは設営の範囲で行えるが、だからと言ってそれだけで入れる訳ではない。

 石鹸もシャンプーもないし、タオルもない。

 トイレであればトイレットペーパーもなければ芳香剤もない、と細かい事を言えば限りがないし、第一の問題としてエルには着替えもない。


 俺は地球時代の部屋を模しているからか、着替えがないではないが、飽くまでなくはないと言うだけで、エルに貸せるものがある訳ではない。

 当然、女物の下着等ないのだから、その辺りは必需品だろう。


 食事に関しては・・・・、当面は部屋の冷蔵庫にあったもので済ませる事にした。


 体の回復とある程度の住環境の整備が終わらない限り、そこまで回す余力はないと言う訳だ。


 そして寝室を別に作った俺の部屋はと言うと、元々あったベッドをストックとして――亜空間に倉庫があり、そこに移動すると思えば良いそうだ――取り除き、小さめのソファーとテーブルを置く。


 当然、それだけでは部屋が狭くなるので、若干の空間拡張を掛けておく必要がある事を考えれば、ここまででポイントギリギリである。


 何にせよ、どうにか当座を凌げる環境を整えた俺とエルは風呂に入り、夕食をとると寝室に向かった。


 風呂を一緒した事で初めてエルの裸を見る事になり、本能を抑えきれるかと内心で心配していた俺だったが、どうやら死にかけた――と言うか、一度死んだ――事は大きな負担であったらしく、ベッドに横になるや否や眠りの世界に落ちていた。


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