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放蕩魔王  作者: blue
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報告

 その一室は、狭いが人一人が住むには充分な広さが確保された空間。

 少なくとも‘機関’の大部屋での雑魚寝や、知性無き凶暴な獣=魔物が住まう場所に平気で野宿をしてきた勇者候補には、例え、敵の懐だろうと、夜間襲われる心配が無なく調度品が有るのは、正に贅沢な寝床と言える。


「さて……、奴らに与えられた部屋だが、此処なら他の勇者候補には聞こえる事は無い。

 報告を頼む」

 グースト教官が魔王によって与えられた一室、その中央に備えられた机と椅子にてて私とキャルニは並んで座り、向かい合う位置にグースト教官が位置取りをした。

 机には用意の良い事に、数個のミカンが籠の中へと納まっており、その中の一つは既にグースト教官の中だ。

 ……本当に魔王の居城か心配になる。


 さて……、聞きたい事は沢山あるが、ここは報告からいくべきだろう。

「極秘事項に抵触する可能性が有りますが、可能な限り報告いたします」

 グーストが頷くのを確認し、続ける。

「私。ポーラ。ムーアの三人は、約4ヶ月前大賢者様の指令書が下されました。

 内容は、隣の領土、理の魔王クリューエル・ラオ領……魔王が住まう城への破壊と工作、魔王が作り出す巨大昌石の強奪。

 その指令書には、戦闘指示と各魔族領の土地勘に長けた傭兵の同道の裁可が下っており、傭兵ヴォルマルクの協力を得て、かの魔王のへの侵入を果たしました。

 ……必要なら侵入した日よりの戦闘回数。各戦闘内容の報告も致しますが?」


 その言葉を聞いたグースト教官は、それは要らないとばかりに腕を振るう。

「イヤ、要らん。

 今更必要になるとも思えんし書く必要は無いわ。

 ……続けてくれ」

 この教官は話が早くて良いのだが、基本ズボラで、こういった報告書や戦闘経過などの管理が杜撰だ。

 だからこそ、報告が必要無い私の教官を行っていた節が有る。


「解りました。

 ……約三カ月の月日を経て、クリューエル・ラオの居城へと辿りつき巨大昌石を探す為に侵入した私達は、探索を開始して数時間後、異変に気付きました。

 外では常に襲いかかって来た魔物が、城の中では一匹も遭遇せず、影も形も有りませんでした。

 罠だと気付いた時は既に時遅く、幻覚魔法か何かで廊下だと思っていた場所は、百を越える魔族に取り囲まれた大広間に急変。

 私達はすぐに臨戦態勢に移行し、殲滅戦に入る為に身構えますが。私達を取り囲んだ魔族達は全て、膝を屈してある一人の男に頭を垂れ、微動だにせずその男の言葉を待っているのです。

 圧倒的なまでの存在感。彼が魔王だと、一目で分りました。

 退路を断たれた私達は決死の覚悟で、一人の魔王に挑み。敗れ。一ヶ月以上昏睡し、今に到ります」

 青い顔で耳を傾けるキャルニを横目で確認して、これで終わりです。と告げる。

 そして、魔王との戦闘が無我夢中で問答等は覚えていないと嘘を吐ついた。


 そもそも今言った半分は偽りでは有るが嘘では無い。指令内容は魔王討伐に魔族の幹部クラスを一人でも多く殺害し‘焔’の炎を使い城を灰にせよと言うのが本来の指令だが。

 しかし、私達は、指令書と同時に口頭での命令。……二重指令にて動いている。

 指令書には確かに巨大昌石の回収と書かれ、大賢者様から直接口頭で魔王の殺害指令。これにより少なくとも私達三人は、魔王討伐報告を大賢者様以外に言う事は無く。

 そしてヴォルマルクも大賢者様との何らかの密約を交わしており、滅多な事では漏らすとは思えないが、大賢者様が居ない今、彼がどう判断するか分らない。

 ……口の堅い彼だ大丈夫だろう。

 そもそもヴォルが今何処にいて、何をしているか分らない。



「ソレだけか?」

「取り敢えず今解るのはソレだけです」


 今の話を聞いたグースト教官は、何かを言いたそうに顔を顰め、

「そうか……お前、良く生きてたな」

 呆れた様に言う。

「……と言っても俺も見たぜ、魔王。

 それで刃の交えた」

「! よくご無事でしたね」

「お前には言われたくねーよ。

 と言うか此処に居る全員が魔王とやったらしいが、アレはムリ」

 その言葉を聞き横に居るキャルニへと視線を向けた。だが、彼はどちらかと言うと此方の気遣う視線をよこしていた。

 共に、今その話をする訳にもいかず、口を閉したまま視線だけを動かし、その話は後だと通じ合う。


 少し気落ちしながら言うグースト教官に視線を戻すと、どうやら私が言った事を疑う事なく納得してくれた……、

「……それじゃぁ、一個だけ聞かせてくれ」

 訳でもなさそうだ。

 流石に教官でも何かが怪しいと思ったのだろう。神妙な顔で視線を私にむける。


「はい。

 どうぞ、何でもお聞きください……」

 ゴクリと人に知れない様に喉を鳴らした。常人なら聞こえる筈も無い微音。しかし、隣に居るキャルニならまだしも、目の前の人物なら聞き逃さなかったかもしれない。

 ……何の事だ? 一ヶ月も意識を失っていた事か? それとも他の三人の事か? まさか焔の事?

 焦る思考を何とか御して先の失敗を繰り返さない様、相手のして来そうな質問を脳内でシミュレート。

 出来うる限り自然に受け答え出来る様にする。


「さて、じゃあ聞かせてくれ」

 視線が合う。その鋭い視線は私を捕らえて身動き出来なくした。

 それでも、何も暴かれない様、気を強く持つ。

「あの巨乳で仮面のネーちゃん――」

 ソッチか……と内心安堵のため息を吐いた。

 確かに、彼女に関しての事を伝えれば疑いの視線を向けられかねないが、しかし、後で相談しようとしている事の方が尚のこと疑われそうだから問題無い。

 そしてなにより教官らに嘘を吐く必要が無い。


「――の名前とスリーサイズを教えてくれ」


 …………


 ……私は無言で机のミカンを掴み、教官の顔面目がけて全力で投擲した。






「此方で起きた事を話そうか」

 顔面の真ん中をミカンの汁で汚したグースト教官は語りだす。 

 人が住んでいた土地にて何が起きたのかを。



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