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放蕩魔王  作者: blue
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大賢者

 沈黙が支配する空間に、中に鎮座するは巨大な円卓。それを囲むのは。

 確かな腕を持ち人種の存続に貢献してきた者達が数人が、最後の一人を待っていた。

 その雰囲気は重く、知らずにこの場に立入るならば膝を屈せずにはいられない。


「さて全員揃った様だな」

 最後の一人。

 年老いた老人、大賢者が会議場へと足を踏み入れ、髭に覆われた口を厳かに開き。

 待っていた彼らは何の不満も零す事無く頷いた。

「さて……、

 何人かは既に気付いているだろうが、改めて言おう。

 つい先程、魔獣・魔物の大群が迫ってきていると、眺望場の監視から報告が上がった」


 その言葉に話を知らぬ者達に二つのざわめきが起きた。

 一つは、血気を漲らせて大群に挑もうと。

 もう一つは、何故と。何が起きたと。疑問に頭を悩ました。


 続く大賢者の言葉。それにより時が止まるが如くに口を閉ざした。

「西南の方角より来るその魔獣共は、早ければ数時間もしない内にこの場へと辿りつくだろう……」

「ならば、こうしては居られません。直に迎撃の準備を!」

 教官の内の一人、最も血気盛んなバルバスが机に叩きつけ、その反動の如きに飛び出す様に席から立ち上がった。

「まぁまて、最後まで話を聞いたらどうだ」

 机に肘を着き、顎の前で手を組むのは、ディエール。彼は神経質そうに目を細めて大賢者の次なる言葉を促す。

 周りを見れば、彼と似た様に、続く言葉を待っている者が何人かは存在していた。

「良かろう……。

 眺望場の報告が大群としか伝わって来なかったのでな。水晶で魔力を見た所。

 その数は十万を軽く越え、その中には少なくとも数体の上位魔族が確認できた。……そいつらが指揮していると思われるな」


 ……会議場にゆっくり染み渡る様、告げられた内容を聞いた者達は理解した。

「なッ!?」

「とうとう我々を滅ぼすつもりか!? 魔族共め!」

 数秒の思考を経て、円卓に座る何人か。

 その話を知りえない無かった少人数は、驚愕に声を荒げる。


 その様を眺める様に見下す大賢者は、片腕をあげ、鎮まるのを待つ。

 それに気付いた者から口を閉ざして行くが、それでも時間がかかる。

 たっぷり十秒かけて静寂を取り戻した会議場。

 この中に居る誰もが知っている。大賢者。彼が会議の中心であり、絶対だと言う事を。


「さて、突如やって来た危機だが、同時に千載一遇のチャンスでもある。

 皆も知っておろう。

 今まで、より高純度の昌石を得る為には迷宮のより深い所まで潜るか。上位の魔族、奴らが住む場まで進まなければ無かった。

 しかし、ここに奴らが来てくれるのだ……、

 迎え撃つならば我々が圧倒的に有利。

 攻めるならば滅ぼす事が出来なんだ上位魔族が来てくれるのだ。

 もしかすればこの朽ちた大地を蘇らせるかもしれん」

「ちょッち良いスか?」「な!?」

 全員がごくりと喉を鳴らす中。重苦しい雰囲気の中能天気に声を上げるのは、背は高いが幾分痩せた男。

 余りの場違いさに咄嗟に怒鳴り声を上げそうになる者が数人。

 しかし、大賢者の手前、なんとか堪えようと……


ズドンッ


「グースト貴様!! 大賢者様に何たる口を聞く」

 したが、出来なかったのが一人。

 先程の再現かの様だが、先程とは比べモノにならない程に、威力を込めた拳を机に叩きつけ、跳ねるように立ち上がるバルバス。

 机が壊れなかったのは、席を同じにするディエールをはじめとした術師達が机の強度を上げたからだ。そうでも無ければ机は、円卓はⅤの字に砕けていた事だろう。

 そんな彼が睨めつけるのは、全員の視線一身に受けるグースト。

 その場に居る全員が憎悪すら篭もった視線を彼に向ける。

 当然だ。現時点での最高指導者である大賢者へ向かって、敬いの欠片も無いのだ。全員の不況を買っても仕方ない事だろう。

 グーストはその視線を一身に受け、そして流す。


 その不遜ととれる態度に会議場は一触即発。

 男の一言で重苦しい空気から危険を孕んだ空気に変わった場。

 その張り詰め緊張した空間に、低く渋い声が横断する。

「皆の者座れ。

 ……良かろう話せ」

 大賢者の声は決して大きくない声だったが、その場に居るモノ全てに響き、否応なしに椅子から腰を浮きかけた者達を縛りつけた。

 その声にはソレだけの威圧と力が込められていた。


「しかし!?」

 しかし、その中で唯一腰を上げていた者が大賢者へと戸惑いの声をかけた。

 グーストと同じ機関の教官。彼と同じ役職を持つバルバスは、グーストを射殺さんばかりに殺意を込めて睨みながら大賢者へと問いかけた。


「構わんよ。

 ……続けたまえ」

 その一言が決定的だった。バルバスは一際強くグーストを睨みつけた後、再びその腰を椅子へと沈めた。 


「イヤ~、相手(ヤッコ)さんが大勢で来るって言うなら迎え撃つしかないんでしょうけど、住民はどうします?」

 グーストは軽い口調で言う。

 それがまた数人のこめかみに青筋を浮かび上がらせるが、今度は誰も動かなかった。


「フム、

 ……今から大群に向けて防衛策をとった所でどうしようも有るまい。‘外周区’に居る者達は見捨てるしか無いだろうな」

「まぁ。仕方ないっすね」


 外周区。力無き者達が住まう場。日々、魔獣への脅威に晒されて居る者達を見捨てると大賢者は言う。

 通常の精神を持つ者達が集まる会議ならば、その行為は忌むべき事だと弾劾し、会議を割る事だろう。しかし、この場に居る誰もがその事に異論をはさまず、聞いたグーストも当然の事だと納得して顎をひく。

 当然その先の行動も何となく理解している。


「我々は、‘中央区’の外壁を閉じ籠城。

 勇者並びに勇者候補にて、残された住民及び建物を利用し各個に上位魔族の首を狩る」

 その場に居る全員が頷いた。



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