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放蕩魔王  作者: blue
10/15

とある訓練風景。

 勇者育成機関の屋上。よく晴れた日の眺望場。

 その場所は近付いて来た魔物の群れ又は、はぐれた個体を察知する為に存在し。

 近付いて来た魔物、全てに対応出来る訳ではないが。群れは退け、個体は稀に捕らえて勇者候補の相手をさせる為に充分役に立っていた。

 

「なんだありゃ……」

 地平線の隅。

 最初は米粒程度の何か。少なくとも魔物の大群だと思わず、また何かの群れが近寄ってきているモンだと。

 しかし、時間が一分…二分と経つとそれは米粒程度のままだが、夥しい程の砂煙を上げながら近付いて来る。

 異常に思った見張りの一人、魔術が使える彼は一つの呪文を詠唱した。

「さぁて、今度は何が来ているんかなっと。

 『その目に映る全てを睥睨せよ、猛禽なる目』……ひっ!」

 それはイーグルアイと呼ばれる魔術。

 その魔術は双眼鏡とは違い。視力自体を底上げし、観察と言った類の処理速度を高める。

 例えるならば、視界の隅に入ったコイン。普段なら何か有る程度の認識が、イーグルアイを使う事でそのコインはもちろん銘柄、傷に汚れすら読み取れる。

 しかし、その魔術を唱えた見張りは悲鳴を上げ、抜けた腰を支える事も出来ずに尻もちをついて、

「だっだ、だだだだ大賢者様を呼べ」

 と喚き散らした。





 一人の少年が生傷だらけの体にムチを打ち木剣を構えて、目の前の男の挙動を寸分も逃さず睨み付けていた。

少年の傷は深くは無いモノの真新しい傷が多数を占め、呼吸をする度。時間が経つにつれ、その体から血が失われ体の自由を失っていく。

対する男は、両の腕を垂らし。自然体と言えば聞こえは良いが、ほぼ棒立ちで一歩つづ歩を進めて距離を詰めるが。

少年は男が近付くのを嫌う様に、間合いが詰められる度に後ろへと退がる。

 ……後、数歩退けば少年は袋小路へと追い詰められ、身動きが取れなくなる事だろう。


その状況だけみれば、強請や恐喝に脅える少年とそれに迫る町のチンピラだ。しかも場所は人が通りそうにない路地裏と、シチュエーションもばっちり。

「オイオイ。睨んでばかりじゃどうしようもないぜ」

 男は町のチンピラ宜しくに少年に脅しをかけて、また一歩前へと進む。


 それは一種の陣取り合戦。

 男は一歩進む毎に、彼に有利な陣地は増えるが、逆に新たな陣地を増やす度に少年の反撃の機会を与える事となる。

 故に慎重に歩を進めていた。


 少年も同じ、或いは逆。

 実力若しくは経験さえあれば、立場の逆転も可能。だが、ソレが足りない少年は、今在る場所を金貨(チップ)に間合いを維持して相手の隙を探すか作る。

 そうして今ある陣地を切り崩していく。


 胴元(しんぱん)等存在しないがルールはそんなモノだ。


 遂に、少年の金貨チップは底を着いた。

 背に壁が着き。男もそれに合わせて、歩を止める。


 窮鼠猫を噛む。それは追い詰められた鼠の牙は猫を殺める意味の故事だが、

 賭け事や戦いでの終末の局面は、最大の細心の注意を払わなければ、追い詰めているつもりで迂闊に手を出せば、一瞬で返り打ちに会う事だってある。


 追い詰めた者を


 男は少年が壁を背にした事で焦らず少年を見据え、期を伺ってい観察している。

 この場面で勢いに任せて手を出さない事は、男は少なくとも何回かは、こういう場面に出くわしているという経験者。


 ……しかし、手を出さなければ双方共にどうしようもない。

 男は先程より更に神経を尖らせて一歩進み出た。


『集いし光。灯りと成りて照らしたもう』

 その一瞬を狙って最短で詠唱を唱えきる少年。

 その手には小さな光球が生まれ、弾ける様に男へ向かい一気に飛来する。


 その光球は夜間に使い。明りを得る程度の照明魔法。

 その光球に人を殺める力等なく、当たった所で火傷程度が関の山の子供でも使える可能性を有する魔術。

 故にそれを知る男は一切の躊躇いも無く腕を振り切る。

 その両の手には何時取り出したかも定かではない。短剣を模した木剣が握られ光球を両断していた。


 男には、為す術が無い少年の悪あがきに見えたのだろう。

 少なくともこの程度魔術で傷付ける事など出来はしない。そう思い口を吊り上げた。

 しかし、頬を歪めたのは彼だけではなく、少年も同じ。

 少年はそもそもこの魔術で男を傷付けられると思っていない。真の目的は別に有った。


 少年は知っている。目の前の男は経験、技量、知識。全てにおいて少年が勝る事が出来るものなど存在しない事を、

 そして、上回る事の出来るとしたら唯一点。

 弱者である事。

 ……弱いからこそ出来ることがある。


 切断された光球。

 魔力によって構築された現象は、基本核が存在しそれを中心にして形を成すもの。魔力で編まれそれ自体に効果を表すモノの二つに大きく別れられる。

 この光球は前者。

 つまり、例外こそ有るものの、核を正確に捉え破壊する事が出来るなら、魔力によって集められ形どった魔術は霧散する。

 少年が放った小さな光球も消滅を辿る筈だった。


「ツッ!!」

 切断され効力を失う筈の光球は、斬られた事で一際眩い明りを放ち辺りを光で埋め尽くす。

 それは袋小路の輪郭を失わせ影を失くす程の閃光。人の視界を奪うには充分だった。


 陽の下で視界を持つ人は、その外情報得る為に約80%近くを視覚に依存しており、それを急激に失う事で、唯の人は前後不覚に陥り、地に足を踏みしているのかも認識できなくなる程に混乱する。

 故に少年は壁を背にするまで退った。

 背にする事で360°の開いた空間では無くし、自分のが立つ場所を確立した。


 その手に掴む木剣を、男が立つだろう場所に叩きつける様に投げつけた。

 未だに衰える事なく輝き続ける閃光中に消えていく木剣、勢いからして当たれば骨を砕く事も可能だろう。

 閃光が終わるまでの10秒間足らずの間とはいえ、自分が立つ位置を失うのはあまりに惜しい。

 故に、その掌を男が立つであろう場所に向け、

 『生まれいずる炎よ。我が意に従いて、全てを焼き払わん』

 その場を動かず詠唱を開始する。

 彼が使うのは、火焔放射(フレイムスロワー)。名前の通りに触れたモノを焼き尽くす為絡み付く炎。



 轟々と空気を焼き燃え盛る炎が、男が居るであろう光の中心へと放射状に伸びる。

 紙一重で避わした所で無意味。


 ……確かな手応えを感じた少年。

 しかし、その程度では手を緩めない。

 その燃え盛る炎が生えた掌をそのまま横凪に払った。

 異常なまでに上昇する気温にドッと汗が噴き出す。


 光球は未だに光輝くものの既に目を眩ませる程の光量を保っていない。


 徐々に回復する視界に映る惨状は、自らの魔術によって焼け爛れた袋小路の一角。

 男が立っていた所には、燃えるさかる外套。


「やった!」

 少年は自分に降りかかった難を退けた事に安堵し、汗にまみれた額を拭い、たたらを踏んだ。


 そして、ほぼ同時にゾクリと後頭部を走る悪寒と激痛。

 感じた時には既に遅い。

「ひうぁ!?」

 少年の喉を震わす苦痛の悲鳴。


 すぐ横に立つ男に殴られたと気付いた時には、地面に倒れ伏していた。

「中々良かったぞ。

 『灯火(トーチ)』の詠唱は囮で、『閃光(フラッシュ)』を偽造したのは素晴らしいと評価できる。しかも短縮では無い。詠唱無しだ」

 昌石を使ったのか。と問いかけに、少年は肩を上下させつつも何とか起きようとする。

 三半規管を揺さぶられ、意識を繋ぎ止めるのも困難な状態だ。起きれなくてもなんら不思議ではない。


「残念なのは、気付かれない様にしたのか自らの魔法に対しての対策不足だった所だな。

 自分の位置情報を確定させる為、自然に壁際まで下がったのも評価出来るが、視界に頼る魔獣の中にも即座に残りの五感に切り替える奴も居る。

 そんな中、五感の劣る人種が相手を見失って如何する。……せめて薄い黒色魔術か何かで目に薄い膜を覆っとくべきだったな」


 何度も立とうとし、その度に失敗を繰り返す少年に語る男。

 少年の完全なる隙を突いた彼が殺す事も可能だった事も考えると、どうやら物取りの類では無いらしい。

 ……イヤむしろ。


「グースト教官! たった今、大賢者様から緊急招集が有りました。

 会議への参加要請。至急お集まり下さい」

 いつの間に少年を挟んで反対側に立つ黒ずくめの人物。

 何の前触れもなくその場に立つ、黒ずくめに一瞥するグーストは、

「だってよキャルニ疑似訓練は取り敢えず休止する。

 に戻って休んで良いぞ」


 未だ立つ事が困難なキャルニにそう告げてその場を後にした。

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