動かず見つめて 3
俯き加減のステンノさんが白いハンカチを目頭に当て小さな声で、「消えたい」と呟いた。
「わぁぁぁ~!!大丈夫ですよ!大丈夫!今回は相手の方と相性があわなかったって言うだけでぇ!そりゃ、ありますよ、相性!悪いときもありますよ!ステンノさんが悪いわけじゃないですから!たまたま、ご縁が無かったって言うだけで!そうですよ!たまたま!」
私は渾身のフォローを叫びながら、お菓子を勧める。
「それよりステンノさんっ!この栗きんとんどうですか?こ、これぇ~、コキュートスで人気のお店の期間限定品らしくてぇ、めちゃくちゃ美味しいんですよぉ~!どうぞ、どうぞ!」
お爺ちゃんのコキュートス土産を押し付けるように勧めて、ステンノさんの気を逸らす。ステンノさんがお上品に栗きんとんを食べだしたのを見て、私は額に浮かぶ冷や汗を拭いばれないようにため息を漏らした。
結論から言おう。ステンノさんのお見合いは、三戦全敗だった。
ステンノさんはとても上品な美人なので、最初の食いつきは非常にいい。
一本だたらさんもケイロンさんもロイチェクタさんも、三人とも写真を見せた時点でお見合いの日を急がせるほどに激しく食いつき、アドバイザーである私の立会いの元での両者顔合わせをした後、男性陣が速攻で次のデートの約束を申し込むほどに、スタートダッシュは良かった。
しかし、その後がグダグダになってしまう。
ステンノさんと相手男性を二人だけにして会話をさせると「ボロ」が出てしまうのだ。
彼女の何を聞いてもネガティブ回答はかなりの攻撃力があったみたいだ。
「……俺には、彼女を支えきれない……男失格だ……俺なんかよりももっと強い、彼女を守れるような……もっと彼女に相応しい男が……いるはずだ……」
一本だたらさんは一回目のデートの後、暗い声で断りの電話を事務所にかけてきた。彼は屈強そうだったが、意外に打たれ弱かったみたいだ。
ケイロンさんは稼いでるお医者様らしい贅沢なデートに数回彼女を連れていき、かなり親密にもなっていたが、ある日彼から断りの電話を入れてきた。
「彼女はとても魅力的な女性だと思うのだが……院長夫人とするには……なかなか女性スタッフと言うのは気の強い子もいてね……そう言う子達を統率する力も必要なわけで……でも、ステンノさんと個人的にはもっとお付き合いをしたい。」
コイツ、本当に女タラシだったわ……。見合い断って「個人的付き合いは継続」ってどんな付き合いする気だよ?私は速攻でステンノさんにケイロンさんの着信拒否を勧め、連絡を取らないようにキツク言った。
前の二人に比べ、ロイチェクタさんは本当にいい線までいった。ロイチェクタさんは非常の物腰の柔らかい紳士的な人で、ボランティア活動に従事するだけあってとても優しい。
物凄い怖そうな顔で見た目に難はあったものの、ステンノさんは男性の外見にあまりこだわりは無いらしく、ロイチェクタさんを見た目で嫌うような事はしなかった。そこが良かったのかもしれない。
何度もデートを重ね、ロイチェクタさんはデートの度にステンノさんの自虐的でネガティブな言葉をうけ、それを励まし続け、カウンセラーのように彼女の話を聞き続けた結果……彼が軽い鬱になってしまった。
「自分は駄目な奴です……人助けなんて言ってても、本当に助けになんてなってない……治療に行っても子供に泣かれる最低の男です……大体謝肉祭の木曜日しか活動しないとか、山羊皮かぶるとか……自分、どういうキャラなんでしょうね……」
そう言って自分を責め、部屋に閉じこもっているらしい。
ロイチェクタさんのご兄弟からの事情を説明する断りの電話を受け、私は何度も謝り、受話器を置いた後、思わず深いため息を吐く。
相手を鬱に追い込む暗さって……どんだけだよ……。
私が泣きそうな気分でステンノさんに断りを伝えるソフトな言葉を考えていると、旅行のお土産を届けに来ていたお爺ちゃんが意地悪く笑った。
「ほらな、ワシが言ったとおり、やっぱ重すぎる暗い美女は男が引くじゃろ。これは愛人募集に切り替えたほうが早くまとまるっつうもんじゃ。」
お爺ちゃんの余計なアドバイスにもため息を吐いて、私はステンノさんに断りを伝える電話をかけたのだった。
「えぇ~っと、ですねぇ。あの、ロイチェクタさんなんですけど……何と言うか、体調を崩されて……少し自宅療養を進めたいってことでぇ、この度は誠に残念ながらご縁が無かったって言うのか……お付き合いを継続できないって事で……」
あれほど嫌だった「誠に残念ながら」って言葉をこの頃良く使うようになっている自分に気付いた。「誠に残念ながら」って便利な言葉だったんだなぁ、言う方にも言われる方にも負担をかけないようにする、角の取れた意味のない前置きだもの。
私がロイチェクタさんからの断りをめちゃくちゃソフトに伝えると、受話器の向こうからステンノさんの悲しそうな「はい、」と言う返事が聞こえた。
「……こんな私ですもの……断られて当然ですよね……」
彼女の泣き出しそうに震える声を聞いて私は焦った。
ヤバイ、この人このまま一人にしておいたら自殺するんじゃない?
「スススス、ステンノさん!!今すぐ!今すぐ事務所来れませんか?どうも、私の相手の選び方が悪かったって言うか、もう少しステンノさんの希望をじっくり聞いて、相手選びを再考したいので!!も、ほんとーに、お手数かけますが、こちらにお越し下さいぃぃぃ!お願いしますよぉぉぉぉ!!」
テンパッた私の懇願に応え、ステンノさんは事務所に来てくれる運びとなったわけだ。
悲しげに栗きんとんを食べ「……あっ、本当に美味しい……」と呟く綺麗なステンノさんを見つめ、私はグルグルしながらも次の対応を考えていた。
「……で、どうでしょう?ステンノさんは『誠実』以外に希望って無いですか?タイプが『誠実』だけだと人物が絞りにくくて……もう少し好みの特徴があると、こちらも相手をご紹介し易いと言うか……例えば、趣味が同じとか、年収が幾ら以上とか……」
私の問いかけにステンノさんは困ったような顔をして「スイマセン」と小さく謝る。
「いやいやいやいや、ステンノさんが謝るトコじゃないですからね!本当にこちらの至らなさもあって……本当に申し訳ないです、」
私は悪天候による部品到着の遅延について取引先としていた会話を思い出しながら、謝罪合戦を繰り返す。不毛な謝罪合戦にようやく疲れてくれたステンノさんはやっと好みを口にしてくれた。
「……物静かで、穏やかな人が……」
ステンノさんは恥ずかしそうに小さな声で答えた。うぅぅ~~ん、次も人柄系か……。
この人、本当に美人なのにこの暗さが美点を殺しているというか……美人なために暗さが強調されているような気がする。
ステンノさんの暗さを矯正出来ればいいんだろうけど、こんだけいい歳になった大人の性格を矯正するなんて簡単に出来る事じゃないし、仮に矯正出来るとしても一週間二週間で出来るとは思えない。多分、年単位の話になるんだろうな。そんなことしてたら、ますます適齢期から遠のいて、ステンノさんもご家族も消耗してしまう。
ここはひとつ、彼女の暗さをものともしないような明るくて軽い感じの人を組み合わせるのはどうだろう?
私はそんな事を考えつつ、お爺ちゃんのお土産の栗きんとんをつつく。
とにかく、ステンノさんが「断られる事」に慣れてしまわないうちにお見合いを纏めたい。「断られる事」に慣れるなんて、本当に惨めだ。就活で「断られる事」に慣れてしまった惨めな私は、栗きんとんの甘さに綻んだステンノさんの幸薄い微笑を見つめ一生懸命考えた。
「とにかく、明るい人!そう言う人、知らないですか?」
少し元気になったステンノさんを見送ると、早速私はお爺ちゃんとモフ太郎を集め作戦会議を開いた。
「もう、マイナスにはプラスぶつけるしかないんですよ!暗さに対抗するのは明るさ!この方針で明るい男性をステンノさんに紹介する!明るい人と一緒にいると周りも明るくなるし、もしかしたらステンノさんの暗さも改善できるかもしれないですよ!!」
私の熱い主張を二人は栗きんとんを食べボーっとした顔で聞いていた。
「おいおいおい、待て待て待て。いきなりの方向転換だけど、大丈夫なのか?それ。ステンノの希望は『誠実で、物静かな、穏やかな人』だったんだろ?『明るい人』って……真逆じゃねぇのか?」
モフ太郎が冷静にツッコミを入れる。
「そうなんですけど……、ステンノさんの好みに合わせるとお見合いまとまらない気がするんですよ。大体『誠実で物静かな穏やかな人』だとステンノさんの暗さを正面から受けすぎちゃうって言うか……ある程度ステンノさんの暗さを受け流せる人じゃないと、うまくいかないと思うんですよね。」
私の反論にお爺ちゃんは頷いた。
「ワシもハルちゃんの意見に賛成じゃ。無責任な男の方が、ああいうタイプには合うかもしれんのぅ。色は思案の外ってヤツじゃて。」
お爺ちゃんの後押しを貰い、私はモフ太郎の友達の中でも明るいと評判なチャラ男さんを選んでいく。
このプランがうまくいくといい。
私は寂しい表情であれた自分の指を見つめるステンノさんを思い出し、真剣な表情で資料をひっくり返していく。
ちなみにこの作戦会議の間、若頭は仲間にいれて欲しそうにこちらを見ていたが、めんどくさいのであえて放置しました。




