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婚活アドバイザー爆誕!

 部屋に現れた二人はえらく恐ろしい顔でこちらを睨んでいる。

 一人はすらりとした体型の整った顔の男で、普通に見れば「キャッ!イケメン☆」な容姿だが、いかんせ目付きが鋭すぎる。どう見ても「経済ヤクザ」にしか見えない。

 もう一人は、チョイマッチョな「まんまチンピラ」の強面の男だった。繁華街で声をかけられたら、速攻お巡りさんを探すタイプの「ドチンピラ」。

 つまり私は二人組のヤクザ(若頭と手下)に思いっきり睨まれるという、生命の危機しか感じられない状態になっていた。

 蛇に睨まれた蛙のようにダラダラと脂汗を流し固まっていると、「ドチンピラ」がゆっくりと歩み寄ってきた。

 殴られたり蹴られたりは女の子なのでご遠慮したい。そう思いながら震えていると、「ドチンピラ」は一応妙齢の女性である私の首元に顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぐ。

 ―コイツ、チンピラなだけじゃなくて変態だぁ!!マジで、お巡りさん、助けて!!

 私が心の中で百回くらい「1,1,0」と繰り返すと、ドチンピラ改め変態は顔を顰めた。

「ウワッ!何か、こいつ匂うわ。ヒトクセェー!」

 変態の言葉に私は大きくショックを受ける。

 何なんだ?変態の癖に!勝手に人の匂い思いっきり嗅いだうえで人に向かって「クセェー」とは何事だ?!

 物凄い怒りを感じたが目の前の怖そうな顔に怒鳴る程の勇気も無く、震える小さな声で「ヤメテ、クダサイ……」と怪しい発音で発するのが精一杯だった。

 変態が叫んだ「ヒトクセェー」の言葉に経済ヤクザ(以降、若頭)の眉がピクリと動く。

 若頭は株価チャートでも見るように無機的な目で震える私を眺め、「ふむ、」と顎に手を当てた。

「お前、ヒトか?何処から来た?名前は?」

 そうだよね、まずそれ聞こうよ、つうか自分から名乗れよ。そんな事を考えつつも、私が素直に名乗ろうと口を開きかけると、若頭は変態の傍で震えていた私の手を引き、強引に歩き出した。結局、名前を名乗らせては貰えなかった。


 連れて行かれたのは私がいた部屋の隣にある、酷く埃っぽくって薄暗い薬品棚が並ぶいかにも怪しい部屋だった。

 部屋には仙人のように皺くちゃのお爺ちゃんがいて、本を見ながら何事かを呟いていた。

「おい、また何か召喚したのか?私の部屋に届いていたぞ!」

 若頭は不機嫌そうに私をお爺ちゃんの前に押し出し、「迷惑極まりない」と言ってから文句を続けた。

「もう少し座標軸を正確にする事はできないのか?大体、生きた人間を召喚するな!失敗したら、また私の部屋が汚れるだろう!」

 お怒りの若頭にお爺ちゃんは「フォッフォッフォッ」といかにもそれらしく笑う。

「そのときは、アレじゃ。隣の旦那に片付けてもらえばいい」

 いつの間にか隣に立っていた変態は嫌そうに顔を歪め笑う。

「俺もね、床に散らばった物とかは食いたくねぇんだわ、」

 呆れたように変態が答えた。

 ちなみに、この間私は空気よりもどうでもいい存在になっていた。このまま空気のように忘れられて、ヤクザ二人組から逃げ出せますように。そう祈っていたが、神様は他の用事で忙しかったらしい。

 若頭は怒った顔のまま私に向き直り、「早く名前を私に言え」と命令する。

「は、春海、秋瀬春海、です」

 私が名前を言うと、若頭は不機嫌な顔のまま「あきせはるみ」と小さく呟いた。

「長いし言い難いな、『私が良い名前を与えてやろう、ハルと名乗るがいい』」

 若頭がそう言うので、私は渋々頷いた。

「……別に構いませんけど、」

 私がそう答えると、若頭はニッと嫌な感じで笑う。その瞬間、気味の悪い悪寒が身体を走る。

「契約成立だ!この者の名は私が与えたぞ!」

 若頭が何故か勝利宣言のような声をあげると、変態とお爺ちゃんは眉を顰めブーイングの声をあげる。

「相変わらず、卑怯じゃなぁ」

「あぁっ!!キタネェ!やり方が一々汚ねぇ!」

 二人の抗議を若頭は鼻で笑い、ぽかんとする私に向かって大変悪そうな笑顔を見せた。

「おい、『ハル』、お前は今から私の奴隷だ。懸命に私に尽くせよ、役に立たなかったら食料にしてやるからな!」

 訳のわからない若頭の宣言に、「この子ちょっとかわいそうな子なのかしら?」と言う目になってしまう。そんな哀れみの目に若頭は目敏く気づき、憤慨する。

「主に向かって何だその目は?!大体、『旅行者』の分際で生意気だぞ!この場ですぐに食ってやってもいいんだからな。」

 何を言ってるの、さっぱり解らない。私が若頭の意味不明な発言に困惑していると、傍観していたお爺ちゃんが助け舟を出してくれた。

「すまんねぇ、『ハル』ちゃん。」

 そう言って、お爺ちゃんが説明してくれた事がより大きな困惑を生んだ。


 私が住んでいた世界(仮に「地球世界」とする)には色々な世界が同時に存在している。それが平行世界とか異世界とか様々な名前で呼ばれているが、とにかく世界は一つではないらしい。そして、数多く存在する世界の一つに、ここ「魔界」が存在し、魔界と地球世界は比較的近く(近いといっても距離的なことではないらしいが)互いに影響を与え合っている。

 ここ魔界に住む人達は時折地球世界に行っては地球世界のモノを自分達の世界に運び入れ利用する。

 しかし、魔界と地球世界を行き来出来るのは魔界側からだけで、地球世界側からの行き来は難しいらしい。

「根本的に、『地球世界』の人の構造は弱いから界の狭間を潜ると身体が弾けてしまうんじゃ。」

 何気に怖い表現で説明されたが、魔界の人達は一方的に地球世界に現れては帰っていっているらしい。

 とってもトンデモな説明でとても信じる気にはなれなかったけれど、お爺ちゃんの説明を進めるためには頷くしかない。私は頷きながら、一つの疑問を投げかけた。

「あの~、『地球世界』からは来れないはずなら、なぜ私はここにいるのでしょう?」

 とりあえず遜った態度で聞いてみた。目上の人には遜る、社会人のルールだ。

「あぁ、それなんじゃがなぁ~」

 また、おじいちゃんの長い説明が始まった。

 一方的に来訪する魔界人達が地球世界で幅を利かせるようになり、地球世界との往来は激しくなり人や物を乱獲し、二つの世界の境界が揺らぎだした。違う世界同士が近づきすぎると世界は一つに融合しようとするらしい。世界が融合すると「中」にある世界は一旦消滅して、また世界を一からやり直す事になる。つまり、世界が一回滅ぶ事になる。

 そこで、魔界側は地球世界への干渉を制限した。限られた方法で限られた分量だけ地球世界から「呼び寄せる」。こうして、二つの世界の正しい距離を保つ事になった。

「~で、ワシは定期的に魔界に必要だと思った物を『召喚』する仕事をしておるんじゃ……今回は雑誌を呼び寄せて情報を取ろうとしたんじゃが、これがなかなか難しくてなぁ、たまに失敗する。」

 お爺ちゃんは照れ笑いを浮かべながらそう言った。つまり、私は失敗でここに呼び出された、そう言いたい訳らしい。おい、何重大な過失を笑って言っている。今の説明が本当ならば、私はお前の失敗で危うく死に掛けて、そして帰れなくなった、と言うことだぞ?

 私は、恐怖を上回る怒りでお爺ちゃんを睨むと、彼は「テヘッ☆」と笑うだけだった。

「……も、もう、変な冗談止めにしてもらえませんかぁ~?!」

 いい加減、ドッキリなら終わりにして欲しい。そう思っている私に悲しいお知らせが届く。

「いや、マジだから。しかも、お前、コイツに名前取られて契約しちまったから、コイツの奴隷だし。……まぁ、人の奴隷は勝手に食っちゃいけないからな。そう言う点では、お前良かったな!」

 それまで黙っていた変態はそう言って笑う。

「でも、耳ぐらい齧ってもいいか?俺、生きた人間食った事ないから……耳ぐらいならいいだろ?」

 やっぱり、コイツ変態だ。私は思わず耳を隠す。

「ダメに決まってるだろ!コレは私の奴隷だからな、勝手に齧る事は許さん!」

 若頭の言葉に変態は肩を竦めた。何だろう、この会話。助けられたみたいだけれど、全然有難くない。

 マジでガン泣き5秒前ぐらいの精神の私をおいて、若頭はお爺ちゃんと話し出す。


「今回は一体何を寄せようとしてたんだ?」

「今、魔界で出生率下がってるじゃろ。で、魔王様が憂慮なさって、出生率を上げるために対策をしたいと……で、以前寄せた地球世界の情報にあった婚姻の推奨する、『婚活』ってモノがあるのを奏上したら、興味を示されてな。それで、研究しようと『婚活』の情報が載っている書物を寄せようとしたら、この子を呼んじゃったみたいでのぅ……」

「そうか、それなら仕方ないな……とりあえず私の部屋が汚れなくて良かったよ。」


 良くねぇよ!なんなの?私の存在の軽さ!私の命<<<(越えられない壁)<<部屋の内装って、どんだけの軽さだよ?!

 大荒れの内心とは裏腹に、私の表情は困惑どまりだった。混乱と怒りで表情筋がついてこない。

 若頭は何か考え込むと、くるりと私に向きなおし尋ねた。

「おい、ハル。お前、『婚活』について知ってる事があるなら隠さず喋れ。重要な情報を提供できるなら、奴隷以上の衣食住は保障してやるぞ。」

 こうして、私は魔界初の「婚活アドバイザー」という名誉ある職を頂く事になった。

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