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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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今日も今日とて

掲載日:2026/09/02

はじめまして。

数ある作品の中から本作を見つけていただき、ありがとうございます。


拙い作品ではございますが、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

よろしければ、最後までお付き合いいただけますとうれしく思います。

 大阪東雲大学、経済学部。


 春からここに通い始めて、もうすぐ2ヶ月になる。大学にもだいぶ慣れてきた。


 講義の教室も分かるようになったし、学食が一番混む時間帯も覚えた。友達もそれなりに増えた。


 そして、いつの間にかよく一緒にいる奴もできた。


「山本、今日の二限って何やったっけ?」


「ん? 経済史やろ」


「そうやった。危なっ」


「藤原、履修登録したん自分やろ」


「分かってる」


 藤原直哉。178cmで顔立ちは整っている、いわゆるイケメン。


 大学に入ってから、女子に声をかけられているところを何度も見た。羨ましい限り。ただし本人は特に気にしていないらしい。ムカつく。


 俺なら1回でもそんなことがあれば、その日はずっと友達に自慢するところやけど。


「藤原って、ほんまモテるよな」


「急になんやねん」


「いや、さっきも女の子に話しかけられてたやん」


「あー、あれか」


「なんて言われたん?」


「大したことは言われてないなぁ、ランチ一緒に行きませんか?くらいや、断ったけど」


「おいおい」


「興味ないから」


「もったいなっ」


 俺が笑うと、藤原は呆れたような顔をした。


「山本はそういうの気にせえへんの?」


「俺?そもそも声かけられへんし」


「いや、そういう意味ちゃうやろ」


「なんやねん」


 藤原は何か言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった。


 藤原には友達もいる。俺ほど多くはないが講義が終わったあとに一緒に飯を食べたり、帰り道を歩いたりするような奴が何人かいる。


 誰とでも仲良くなる俺とは違って、気の合う奴とだけ付き合うタイプだが、別に人付き合いが苦手なわけではない。普通に喋るし、普通に笑う。人間関係は少数精鋭。そんな感じだった。


 一方、俺はというと。


「山本、今日このあと暇?」


「まあ暇やけど」


「じゃあ飯行こうや」


「ええで」


 気づけば、また別の奴と話している。昔からそうだった。人と話すのは好きやし、知らん奴とも割とすぐ打ち解ける。友達は多いほうやと思う。


 顔は普通。人生18年生きてイケメンと言われたことはない。けれど、愛嬌があるとはよく言われる。笑っていると親しみやすいらしい。そんなものか。


 そんな俺には、大学に入ってからもう一つ始めたことがある。


 ゲーム配信だ。


 家に帰る。パソコンをつけ、ゲームを起動する。マイクの音量を確認後、配信開始のボタンを押す。


「こんばんは!今日もよろしくお願いします!」


 ゲームをしたり、人狼をしたり。特別なことをしているつもりはない。好きなことをして、それを見に来てくれる人と喋る。


 それだけだ。最初は誰も見ていなかった。1人で話していて虚しくなる時もあった。それでも続けているうちに、少しずつ見てくれる人が増えていった。


 コメントを読んで、ゲームをして、笑う。大学とはまた違う場所で人と話しているような感覚が、俺は結構好きだった。


 そして、そんな配信を毎回のように見に来る奴がいる。


 藤原だ。


 コメントをするわけではない。ただ、毎回いる。最初は偶然やと思っていた。


 けれど1週、2週、そして気づけば毎回いる。配信を始める時間が少し遅くなってもいる。ゲームを変えてもいる。人狼をやってもいる。別のゲームをやってもいる。それでもいる。さすがに気になった。


 だから、ある日の昼休みに聞いてみることにした。


「おーい、藤原、聞きたいことがあるんやけど」


「なに?」


「お前、俺の配信見てるやろ?」


「……?何のこと?」


「俺のゲーム配信見てるやろ?」


「見てへんよ」


「いや、見てるやん、配信してたら見てる奴の名前分かるんやけど。『ふじなお』ってお前やろ?」


「単に俺に似た名前の奴じゃないか?」


「でも昨日の人狼もおった」


「ちゃうよ」


「ねばるなぁ、アイコンも大学の写真やったで」


「……」


「答えてもらおうか、『ふじなお』さん?w」


「それは……偶然見かけて、暇やったんで見ただけや」


「毎回?」


「……」


 黙った。なんて分かりやすい。俺の勝ちやな。


「お前、俺のファンなん?」


「違う」


 即答だった。


「返答はやっ!」


「ファンちゃうから」


「ふーん、そうなんや」


 俺は素直に頷いた。本人が違うと言うなら、違うんやろ。


「じゃあ、ゲームが好きなんやな」


「まあな。他のゲーム配信もよく見てるからな」


「なるほどなぁ」


 それなら納得できる。確かにゲームが好きなら、ゲーム配信を見る。人狼が好きなら、人狼配信を見る。


 俺自身に興味があるわけではなく、俺がやっているゲームや配信そのものが好きなんや。納得。


「今度また人狼やるで」


「そうなんか。なら見るわ」


「ほんまゲーム好きやなあ」


「……そうやな」


 そのときの藤原は、少し嬉しそうだった。こいつ本当にゲームが好きなんやな。




 あの一件以来、藤原と一緒にいることが増えた。


 講義の前に話す。昼飯を食べる。帰り道が同じなら一緒に帰る。それくらいの関係だった。


 ある日の昼休み。俺たちは学食の隅の席で飯を食べていた。


「なあ、山やん」


「は?誰が山やんや」


「お前や」


「なんでやねん!」


「山本やから山やん」


「安直すぎるやろ!」


「ええやん」


「よくないわ」


「山やん」


「やめんかい!」


「山やん?」


「お前……もうええわ、勝手にせえ」


 藤原は満足そうに笑った。なんやねん、こいつ。こういうときだけ妙に楽しそうや。俺、遊ばれてるわ。


「じゃあ俺も藤原のこと、藤ちゃんって呼ぶわ」


「はぁ~?」


「藤原やから藤ちゃん」


「なんでやねん」


「お互い様や」


「えぇ~?」


「じゃあ藤ちゃんっ!w」


「……やめろや」


「なんで?」


「なんか腹立つ」


「でも山やんって呼んでるやん」


「それとこれは別やろ」


「一緒やって、お前が始めた物語やろ」


「全然ちゃう」


 藤原はそう言いながら顔を背けた。耳が少し赤い。


「じゃあ藤原に戻そか?」


「別にええよ、好きにしたらええやん。面倒になってきたわ」


「じゃあ藤ちゃん」


「はいはい」


 その日から、俺は藤原のことを藤ちゃんと呼ぶようになった。藤原は俺を山やんと呼ぶ。変な呼び方やけど、いつの間にかそれが普通になった。まあ、そんなんもアリか。


 ただ、一つだけ分からないことがある。藤ちゃんは、俺のことをよく見ている。配信で俺が何か話すと、妙に覚えている。


「山やん、昨日の配信で言ってたゲーム、買ったん?」


「まだやで。なんで?」


「いや、次はどんなゲームをやるんかなって気になった」


 でも、俺は深く考えなかった。ゲーム配信が好きならそのくらい当たり前か。どんなゲームをやるか気になるよな。




 その日の夕方。大学から少し離れた場所で、藤原は友達と歩いていた。


「なあ、藤原」


「なんや」


「お前、山本のこと好きやろ」


「……え?」


「いや、どう考えてもそうやん」


「おまっ、何言うてんねん」


「だって、あいつの話するときだけ顔違うで」


「そんなん普通やろ」


「昨日の配信の話してたとき、めっちゃ嬉しそうやったやん」


「ゲームの話やで?」


「またまた」


「ほんまにそうやからな、しゃーないやろ」


 藤原は前を向いたまま答えた。


「ゲームの腕は悪くないし、人狼も、あいつなりにちゃんと考えてるし。昨日の最後の判断もさ――」


「めっちゃ語るやん、しかも嬉しそう」


「気のせいやろ」


「お前、ほんま分かりやすいな」


「あほか」


「山本に言わへんの?」


「なにを?」


「なにって、告白ってやつ?」


「好きやないよ、誤解せんでくれ」


 少しだけ歩く速度が落ちる。


「さよか、まあええけど」


「なんや」


「いや、別に」


 それ以上、藤原は何も言わなかった。





 翌日。


「おはよう、藤ちゃん」


「おはよ」


「眠そうやな」


「昨日遅かったから」


「またゲーム配信見てたん?」


「見てた」


「ほんま好きやな」


「まあな、ゲーム配信面白いからな」


 俺は笑った。


「今日の昼、一緒に食べる?」


「ええよ」


「じゃあ山やん、席取っといて」


「なんでやねん」


「友達やから」


「人使い荒いなぁ、そういうのはお前のことが好きな女子に頼めや。いくらでも取ってくれるで、知らんけど。っていうか俺に誰か紹介してくれ!」


 藤ちゃんはそう言いながら、先に歩いていった。俺も後ろからついていく。なんとなく、いつものことになっている。


 昼休み。


「なあ、藤ちゃん」


「なんや」


「今度の配信、何のゲームにしよか?一緒に考えてくれへん?」


「なんで俺が」


「ゲーム好きやから」


「まあ、ええけど」


「やった」


 俺が笑うと、藤ちゃんは一瞬だけ目を逸らした。


「どしたん?まあええわ、藤ちゃんなんかやってほしいゲームある?」


「特にないなぁ」


「じゃあ人狼でええ?」


「ええよ」


「じゃあ次、人狼な、人集めんとあかんな」


「……楽しみにしとく」


「え?」


「なんでもない」


 藤ちゃんはまたそっぽを向いた。


 俺は首を傾げる。ほんま、たまに変な奴や。ぶっちゃけ友達としては付き合いやすい。口数が少ない割には、ちゃんと話を聞いてくれる。配信の話をしても、嫌そうな顔をしない。むしろ、細かいところま覚えている。


 ゲームが好きなんやろな。好きなものはよく覚えとるもんや、自分もやな。




 その夜。


 いつものようにゲームを起動し配信を始めた。


「こんばんは!今日もよろしくお願いします!」


 コメント欄が流れる。いつもの名前。初めて見る名前。そして、コメントはしないけれど見に来ている名前『ふじなお』。俺は特に気にせずゲームを始めた。


 数時間後。


「じゃあ今日はこの辺で終わります。見に来てくれた人、ありがとうございました!」


 配信を終了し椅子にもたれかかって、一息つきスマホを見た。メッセージが一件。藤ちゃんだった。


『今日の最後、山やんの判断で正解やったと思う』


 細かいところまで見てるなあ。俺は笑いながら返信した。


『ありがと、藤ちゃん』


 すぐに既読がついた。しばらくして、返信が来る。


『……その呼び方やっぱ慣れへん』


 俺は思わず笑った。


『じゃあ藤原に戻す?』


 既読がつかない。しばらく待っていると、


『別に藤ちゃんでええ』


 と返ってきた。


「なんやねん」


 一人で笑ってしまう。でも、なんとなく嬉しかった。大学に入って、たまたま知り合った友達。それがいつの間にか、こうして毎日のように話すようになった。


 明日もたぶん会う。講義を受けて、食堂で食べてくだらない話をする。きっとまた、藤ちゃんが俺を山やんと呼ぶ。俺も藤ちゃんと呼ぶ。


 ただの友達。でも、それが続けばええな。いつか大学を卒業して、こうやって会えなくなる日も来るんやろうな。それもいい思い出になるんだろう。青春ってええな。




 同じ頃。


 藤原はベッドの上でスマホを見ていた。画面には、さっき送ったメッセージ。


 そして、その下にある、


『別に藤ちゃんでええ』


 という自分の文章。


「何が別にやねん」


 小さく呟く。ほんまは嬉しい。山本に藤ちゃんと呼ばれるのが。自分だけの呼び方があるみたいで特別な感じがすごい。これを優越感っていうんやろか。


 だから、やめろと言いながら、やめてほしくはない。俺って面倒くさい。ほんまにそう思う。


 けれど、山本が笑うと嬉しい、楽しそうに話していると嬉しい、自分を頼ってくれると……、もっと嬉しい。


 配信だってそうだ。ゲームが好きだから見ているわけじゃない。もちろんゲームも嫌いではない。けれど、本当に見たいのは、楽しそうに笑っている、山本陽介だ。


「こいつ、いつ気づくんや」


 スマホを伏せる。たぶん、明日も気づかない、明後日も、その先も。それでもいい。今は、まだ。山本の隣にいられるだけで十分だった。でもいつか……。


 翌朝。


「おはよう、藤ちゃん」


「おはよ、山やん」


「今日も眠そうやな」


「誰のせいやと思ってんねん」


「俺のせいなん?なんでや、昨日は配信早く打ち切ったで?」


「眠たいで黙っといてもらえます?」


「変な藤ちゃん」


 山本が笑う。藤原も、ほんの少しだけ笑った。


 今日も、いつも通り。


 何も変わらない。たぶん、今日も。そして明日も。こんな日が続けばいい。


 今日も今日とて。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


拙い作品ではございますが、最後まで読んでいただけましたこと、とても嬉しく思います。

もし少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

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