フードコートで下世話な話3
ここはいつものフードコート。
ソファー席の前には二つのテーブルがくっ付けて置かれ、更にその前には対面で椅子が一つ置かれている。
そしてソファー席側にはどんよりと項垂れた七海がうずくまっている。
「ああ、ここに居ったんか! めっちゃ探したで!」
声の主はかおるで……手には“呼び出しチャイム”を持っている。
「やっと来てくれた……」と顔を上げる七海を
かおるは
「なに? どないしたん? 天使のミイラみたいな顔して」と覗き込む。
「……こんな時にも“天使”を持ち出さないでよぉ~ 今日一日大変だったんだから……」
「ん? 具合悪いん?」
「朝からずっとお腹痛い……」
「七海にしては珍しいね」
「……」
「二日目……とか? 私もけっこーしんどいんよね 二日目は」
「……」
「ちゃうの?」
「……アレじゃない」
「ゴメン、ほな、何やの?」
「もう! いいから! ちょっとここ座って!」と七海は自分の左横をパンパン叩くので……かおるが七海の左横に腰を下ろすと、七海はかおるの手を取って自分のブレザーの裾へ潜り込ませる。
「ここ、撫でて……」
「脇腹が痛いの?」
「ん……」
「体育で捻ったん?」
七海、無言で頭を振る。
「ひょっとして……電車の中で誰かになんかされたとか?! せやったら駅員や警察に言わなあかんで!」
「……違う」
「ほなら、何なん? 心配やんか」
「……笑わない?」
「笑うわけないやん!」
と言いながらかおるは七海の脇腹を優しく優しく撫でる。
「ああ……少し楽になった。多分、筋肉痛だと思う」
「体育じゃなくて?」
「うん! その……産みの苦しみで」
「へっ?!」
「今回は3日間頑張ってもだめで……でも学校へ行く前にもう一度トイレ入ったら、“兆し”があったから時間に追われながらいきんだの。そこからずっと脇腹が痛い……」
「そんなに無理せんでも、トイレは学校でも……」と言い掛けてかおるはため息をつく。
「天使様は『う〇こ疑惑』を掛けられるわけにはいかへんか……」
七海は俯いたままでそれには応えない。
「私なんか酷いもんやで! 中二の時やったけど、やっぱ2日目で……多くてトイレで色々手間取ったんやんか! そしたら教室へ帰ってから、男子から『う〇こ疑惑』掛けられて! ホンマ! そいつの事、蹴り倒したかったんやけど、動けるような状況やなかったし……めっちゃ! 腹立ったわ!」
「私が同じクラスだったら、かおるの代わりに私がそいつの事、『どついて』やったのに……」
「ありがとう。せやけど天使様にそんな事、させられへんわ」
「いやいや! 天使なんて言ってらんない! 腹痛いけど、腹立って来た!」
「あかんて! 酷なったらどないすんねん」
「ありがと、おかげさまでだいぶ楽になった……って言うか……」
「なに?」
「うん、私達、補導されたりして」
「なんで?」
「だって、かおるの恰好! どう見たって男の子なんだもん! 背中から見たらフードコートでいかがわしい行為をしている高校生の二人に見えるよ」
「アホ! 何言うてんねん!」
「ちょっとだけ気持よくなって来たしさ」
「このどアホ! もうやめやめ!」
と引っ込めようとした手を七海が引き留める。
「ああん! 真に受けないでよぉ~ 冗談で痛みを紛らわせてるんだから!」
「……ホンマかいなあ~ でも、そないに産みの苦しみがあるんやったらコーラ●クとか飲んでみたら?」
「私、ダメなの! あれ、効き過ぎて……」
「そりゃ難儀やなあ~」と言葉を返したタイミングでかおるが持っていた呼び出しチャイムが鳴った。
◇◇◇◇◇◇
かおるがトレイに載せて来たのは赤みがかった汁なしまぜそばだ。
「うわっ! 真っ赤!! それ、なに?!」
「『ラーメン豊吉』の攻めメニュー! “麻辣湯まぜそば”! 今、バズってんねん!」
「アンタ! そんなに辛いもん好きだっけ?!」
「そやないけど、ウチのバイト先でも話題になっとるんよ」
「それでチャレンジしようと?」
「せやで」
「ちょっとだけ味見させてもらってもいい?」
「そりゃ全然エエけど、お腹大丈夫?」
「だから、ちょっとだけ」
「分かった! ちょぉ待っとって!」
席を立ったかおるは冷水を満たした紙コップと空の紙コップを両手に持って来る。
「七海は冷たいの、飲まれへんやろ?!」とスクバから常温のペットボトルのお茶を取り出して、空の紙コップに注いであげる。
「ありがとう」
「先に食べてええで」
「それだと、間接キス奪えないじゃん!」
「アホ!」
「アホじゃない!」
「アホやで! キスちゅうんは甘いもんちゃうんか?」
「アハハハ! そっか! じゃあせめて食べさせて」
「え~! そんなん、七海の学校の子に見つかったら、私、殺されるでぇ~」
「大丈夫だよ」
「ほんま、しゃあないなぁ~ この天使様は……」
と箸で麺を掬って七海の口へ近付けてやると、七海はそれをパクン! と啄んでツルツルと吸い上げたが……次の瞬間、紙コップを掴んでお茶を口に流し込んだ。
「辛い!!!!!」
「マジ?」と麺を口へ運んだかおるも次の瞬間、「グガァ~!」と叫ぶ。
「なんや、これ!!」
「辛さが麺にこびりついていて、一口で泣ける~!!」
「言えてる! ヤバい! ヤバい! ヤバい!」
「これ、本来スープへ行く辛さも全部、麺に絡んでない??」
「ああ、ホンマ、逃げ場がないわ~」
「かおる、大丈夫? 手伝おうか?」
「そりゃあかんよ! 七海がもっとお腹痛なってまう!!」
「手伝えなくてごめんね~」
「私の自己責任やから七海は気にするなて! ただ、ポケットティッシュ、予備あったら頂戴!」
そうしてかおるは涙と鼻水に塗れて“麻辣湯まぜそば”を我が身へ流し込む。
「こりゃ、明日の朝、お尻ヤバいなあ~」
「……確かに……そうなったら、今度は私がかおるのお尻を撫でてあげるからね!」
この言葉にかおるはむせて涙目で七海を見やった。
「その『絵』もめっちゃ!ヤバいで!」
おしまい




