第四十五話:
戦いの中にも、人は空を見上げる。
国が滅びかけようと。
運命に追い詰められようと。
世界そのものが壊れ始めようと。
それでも、人は灯りを求める。
笑い声を求める。
生きていると感じられる、一瞬を求める。
白都はいま、崩壊の淵に立っている。
空には裂け目。
その向こうには、“管理者”という絶対の存在。
誰もが恐れていた。
誰もが、終わりを感じていた。
そんな時――
クロガミ は言った。
「祭りやるで」
意味が分からない。
だが、その一言は確かに人々を動かした。
屋台が並ぶ。
灯りがともる。
子どもたちが笑う。
そして英雄たちは、ほんの束の間だけ剣を置く。
これは戦いの物語。
だが同時に、“生きる”物語でもある。
夜空に咲く花火は、絶望の中の希望か。
それとも終焉前の、最後の輝きか。
第四十五章――
クロガミ主催、花火祭り。
開幕。
第四十五章:花火祭り ―クロガミ主催―
白都に、奇妙な知らせが届いた。
本日夜半。
緊急花火大会を開催します。
主催:クロガミ
兵士たちは困惑した。
「……は?」
「今、世界崩壊寸前では?」
「管理者がどうとか言ってなかったか?」
誰もが頭を抱えた。
だが――
城下町では、なぜか屋台の準備が進んでいた。
焼きそば。
綿菓子。
リンゴ飴。
たこ焼き。
そして中央で指揮を取る男。
黒い浴衣。
首にタオル。
片手にうちわ。
クロガミ
「はいそこー!」
「花火玉もっと右や!」
「爆発力は浪漫やでぇ!」
何を言っているのか分からない。
⸻
白都城・会議室。
鳥羽姫 が机を叩いた。
「却下です!!」
「なぜ戦時中に祭りなのですか!」
対するクロガミ、真顔。
「祭りはな」
「終わる前にやるから意味あるんや」
妙に説得力があった。
セラが横で頭を押さえる。
セラ
「……嫌な予感しかしない」
「大丈夫や!」
「今回は真面目な回やで!」
信用ゼロである。
⸻
夜。
白都の空にはまだ裂け目が残っていた。
“管理者”の気配も消えていない。
だがその下で、人々は集まっていた。
子どもたちの笑い声。
屋台の灯り。
久しぶりに聞こえる普通の会話。
焔牙が呆れながら歩く。
焔牙
「……本当に始まったな」
両手には食べ物。
「お前、満喫してるだろ」
セラのツッコミ。
「祭りは嫌いじゃない」
正直である。
⸻
鳥羽姫は浴衣姿だった。
白を基調にした装束。
髪には小さな簪。
城下の娘たちがざわつく。
「姫様きれい……」
セラが一瞬だけ目を逸らした。
鳥羽姫が気づく。
「……何ですか」
「いや」
「似合ってる」
数秒沈黙。
鳥羽姫の顔が赤くなる。
「なっ……!」
遠くでクロガミ爆笑。
「青春やぁぁ!!」
「黙れ!!」
槍が飛ぶ。
クロガミ回避。
⸻
その時。
ドォォン――!!
夜空に、一発目の花火が上がった。
青い光。
白都の上空で大輪が咲く。
歓声が上がる。
子どもたちが笑う。
兵士たちでさえ、少しだけ表情を緩めた。
⸻
クロガミは屋根の上に座っていた。
一人で。
花火を見上げながら。
セラが隣へ来る。
「……何を考えてる」
クロガミは少し黙った。
「昔な」
「わしの世界でも、祭りがあった」
「平和やったんか」
「いや」
クロガミは笑う。
「滅ぶ寸前やった」
セラは黙る。
⸻
「せやけどな」
「最後に笑っとる景色、嫌いやなかった」
花火が上がる。
赤。
金。
紫。
裂けた空を、一瞬だけ照らす。
クロガミの横顔は、どこか寂しそうだった。
⸻
突然。
空の裂け目が脈打つ。
低い声。
「――異常行動を確認」
管理者。
空気が凍る。
だが次の瞬間。
クロガミは立ち上がった。
「せやから言うたやろ」
「今日は祭りやって」
指を鳴らす。
すると。
巨大な花火玉が、裂け目へ向かって飛んだ。
「なっ――」
セラが目を見開く。
ドゴォォォォン!!
裂け目の真正面で大爆発。
色鮮やかな光が、空を埋め尽くす。
管理者の声が途切れる。
白都中が静まり返った。
⸻
クロガミ、大笑い。
「花火直撃したぁぁ!!」
「お前ほんと何してるんだ!?」
「夏の思い出や!」
意味不明である。
⸻
人々が笑い始める。
兵士も。
子どもも。
城下町も。
ほんの一瞬。
世界崩壊寸前の恐怖を忘れていた。
セラは空を見上げた。
花火の光が、裂けた空を染める。
「……こんな世界でも」
呟く。
「笑えるんだな」
クロガミは静かに言った。
「せや」
「せやから、まだ終わってへん」
⸻
最後の花火が打ち上がる。
夜空いっぱいに広がる黒い翼。
それはまるで――
“反逆”そのものだった。
遠くで管理者が、確かに沈黙していた。
クロガミ ホット一息 ~花火師編~
深夜の白都。
祭りは終わった。
屋台は片付けられ、城下町には静かな風が吹いている。
だが――
一ヶ所だけ。
まだドンパチしていた。
「はいそこー!」
「火薬もっと詰めろぉ!」
「爆発は芸術やぁぁ!」
叫んでいるのはもちろん。
クロガミ
頭にねじり鉢巻。
腕まくり。
なぜか職人モード。
完全に花火師である。
⸻
横では セラ が呆れていた。
「……まだやるのか」
クロガミは振り返る。
「当然や!」
「祭りは後片付けまでが祭りやで!」
「いや危険物増えてるぞ」
地面には明らかにヤバそうな巨大花火。
名前付き。
超絶対管理者びっくり玉
セラ、真顔。
「やめろ」
⸻
そこへ 焔牙 登場。
「手伝えばいいのか?」
クロガミ大喜び。
「おっ、ええ子来た!」
「火つけ係や!」
「分かった」
セラが止める。
「待て」
遅かった。
シュボッ。
点火。
⸻
三秒後。
ドゴォォォォォン!!!!
白都全域揺れる。
鳥が飛び立つ。
遠くで兵士が叫ぶ。
「敵襲かぁぁ!?」
違います。
ただのクロガミです。
⸻
煙の中からクロガミが出てくる。
顔真っ黒。
だが満面の笑み。
「成功や!」
セラ即答。
「失敗だ」
⸻
その時。
空の裂け目から低い声。
「――騒音を確認」
全員静止。
クロガミ、ゆっくり空を見る。
「……うわ」
管理者である。
⸻
数秒の沈黙。
そしてクロガミ、急に姿勢を正す。
「えー、夜分遅くにすみませんでした」
「近隣住民の皆様にはご迷惑を――」
空から圧力。
ゴゴゴゴ……
クロガミ土下座。
「すんませんでしたぁぁ!!」
セラ、頭を抱える。
焔牙、小声。
「勝てない相手には弱いんだな」
⸻
そこへ浴衣姿の 鳥羽姫 がやって来る。
「まだ騒いでいたのですか」
クロガミ即座に指差す。
「焔牙がやりました!」
「おい!」
裏切った。
⸻
鳥羽姫は深いため息をつき、空を見上げる。
裂け目の向こう。
まだ“管理者”の気配は消えていない。
だが――
花火の残り火が、夜空に小さく残っていた。
「……綺麗でしたよ」
小さな声。
セラが少し驚く。
クロガミはニヤッと笑う。
「せやろ?」
「わし、芸術家やから」
「自称でしょう」
「公認待ちや」
誰の。
⸻
最後にクロガミは一本、小さな線香花火を取り出した。
「派手なんもええけどな」
「最後に残るんは、こういう小さい火や」
パチ……パチ……
静かな火花。
誰も喋らない。
その時間だけは、戦いを忘れていた。
やがて火が落ちる。
クロガミは笑った。
「ほな、次はもっとデカいの打ち上げよか」
セラが即答。
「やめろ」
遠くで管理者が、また頭を抱えていた。




