第二十八話:
今回は、
* 偽セラの正体判明
* ケイローン 登場
* セラと初激突
* 黒翼の都への内乱工作発覚
* 新たな宿敵として本格始動
を描きました。
ケイローンは単なる偽者ではなく、
“神々の悪意の遺産”とも言える存在です。
第二十八章:偽りの黒翼
黒翼城に勝利の宴が戻っても、都の空気は晴れなかった。
民は歓声を上げながらも、どこか怯えている。
「昨夜、南街でセラ様を見た」
「いや、北門でも困った者を助けていた」
「さっき城へ戻られたばかりでは……?」
同じ刻に、同じ顔が、別々の場所に現れる。
噂は風より早く広がった。
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高楼の間。
鳥羽姫 は地図の前に立ち、静かに言った。
「これで三度目だ」
空牙 が腕を組む。
「なら捕まえて顔を剥げばよい」
「乱暴だな」
壁にもたれていたセラが低く言う。
「だが話は早い」
鳥羽姫はため息をついた。
「お前まで同じことを言うな」
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その時、兵が駆け込んだ。
「申し上げます! 西の市場にセラ様が!」
空牙が笑う。
「ここにもいるぞ!」
「……行く」
セラは一言だけ残し、窓から飛んだ。
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西市場。
人だかりの中心に、一人の男がいた。
黒衣。鋭い眼。傷跡の位置まで同じ。
まるで鏡のように、セラそのもの。
子どもに食料を渡し、老人の荷を持ち、困った商人に金貨まで渡している。
民は口々に叫ぶ。
「優しい!」
「本物より愛想がある!」
少し離れた屋根の上で、セラ本人の眉が動いた。
「……余計なお世話だ」
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偽セラはふと空を見上げた。
そして、屋根の上の本物を見つける。
ゆっくりと笑った。
「遅かったな、兄弟」
その声はセラではない。
低く、どこか芝居がかった声音。
偽セラは市場の中央から跳び上がり、鐘楼の屋根へ着地した。
セラも追う。
二人の黒い影が、都の空を駆け抜ける。
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鐘楼の上。
向かい合う二人。
民衆は下から見上げ、息を呑んだ。
「誰だ」
セラが問う。
偽セラはゆっくりと顔に手を当てた。
皮膚が波打つように変わる。
セラの顔が崩れ、現れたのは端正な青年の貌。
瞳は金。
背には淡い神紋。
ケイローン
「名乗ろう。ケイローン」
空牙が地上から怒鳴る。
「誰だ貴様!」
青年は優雅に一礼した。
「海神ポセイドンの企てと、天帝ゼウスの気まぐれが生んだ子」
都がざわめく。
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鳥羽姫の顔色が変わる。
「まさか……隠し子か」
ケイローンは笑った。
「言い方が雑だな、姫君」
セラは剣を抜かない。
ただ冷たく見ていた。
「俺の真似をした理由は」
「真似?」
ケイローンは肩をすくめる。
「違う。試したのだ」
「何を」
「お前の価値を」
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風が強く吹いた。
ケイローンの髪が揺れる。
「人はお前の名を見て頭を下げる。顔を見て安心する。剣を抜かずとも従う」
「だから借りた」
「そして分かった」
彼は笑みを深くした。
「お前そのものには、大した中身がない」
市場が凍りつく。
空牙が今にも飛び上がりそうになるのを鳥羽姫が止めた。
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セラは一歩前へ出る。
「言い終わったか」
「まだだ」
ケイローンは指を鳴らした。
四方の屋根に影が現れる。
黒装束の兵たち。
翼なき暗殺集団。
潮影衆
「都の裏路地、蔵、井戸、門番所。もう私の手は入っている」
鳥羽姫が剣に手をかける。
「内乱の火種は貴様か」
「半分は元からあった。私は風を送っただけだ」
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セラはようやく剣を抜いた。
刃が月光を返す。
「父親に似ているな」
ケイローンの笑みが止まる。
「どっちの話だ?」
「両方だ」
一瞬の静寂。
次の瞬間、二人は消えた。
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鋼が打ち合う音が空を裂く。
一撃。二撃。三撃。
ケイローンの槍は海流のようにしなり、雷のように速い。
セラの剣は最短で急所を断ちにいく。
互角。
空牙が唸る。
「……強いぞ」
鳥羽姫も認めざるを得なかった。
「あれは神の技だ」
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だがケイローンは突然退いた。
鐘楼の先端へ飛び、笑う。
「今日は顔見せだ、兄弟」
「兄弟ではない」
「血は近い」
「趣味が悪い」
ケイローンは楽しそうに手を広げた。
「次は奪う。国も、名も、過去も」
「お前が守れなかったものを全部な」
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その言葉に、セラの目が細くなる。
鳥羽姫は気づいた。
怒っている。
静かな、深い怒りだ。
ケイローンは背を向け、潮影衆と共に夜へ消えた。
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戦いの後。
市場の民は震えていた。
「どちらが本物だ……」
「同じ顔だった」
「でも目が違った」
小さな子どもがセラを見上げる。
「あなた、本物?」
セラは少し考えた。
「……腹が減ってる方だ」
空牙が吹き出す。
鳥羽姫も笑いを堪えきれなかった。
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高楼へ戻った夜。
鳥羽姫は言う。
「ケイローン。ポセイドンとゼウスの血……最悪の混ざり方だ」
空牙が拳を鳴らす。
「次は俺も殴る」
セラは窓の外を見る。
「次は来る」
「奪いにではない」
「壊しにだ」
黒翼の都に、再び不穏な風が吹き始めていた。
登場人物
セラ
本編主人公。神々との死闘を越えてなお戦い続ける男。海神の血を引くが、その運命を拒み人として生きる道を選んだ。寡黙で冷静、感情を表に出さないが内には深い情を持つ。今回、偽セラの出現により自らの名と過去を脅かされる。
鳥羽姫
鴉天狗の国の姫君。誇り高く聡明で、国と民を背負う統治者。セラとの間には今も強い絆がある。今回、偽セラによる都の混乱を収めるため冷静に対処する。
空牙
鴉天狗族の豪勇なる将。豪快で熱く、戦場では絶大な信頼を集める武人。セラとは戦友であり、鳥羽姫を支える忠臣。偽セラの出現に激怒し、討伐に燃える。
ケイローン
今回登場した新たな敵。ポセイドンとゼウスの血を継ぐ存在で、セラと同じ姿へ変貌できる。知略・戦闘力ともに高く、人心を操る才覚も持つ。セラの名・国・過去の全てを奪おうとする危険人物。
潮影衆
ケイローンに従う闇の工作集団。暗殺、潜入、扇動を得意とし、すでに黒翼の都各地へ潜伏している。今後の内乱の火種となる存在。
鴉天狗の国
空に生きる翼の民の国家。現在は魯ー賀の国との戦後処理に加え、都内部へ潜む潮影衆の脅威にも晒されている。
黒翼城
鴉天狗の国の王都中心にそびえる城。政治・軍事の要であり、今後ケイローンの標的となる。
人物関係
セラ × ケイローン
血筋と力を共有しながら思想は正反対。本物と偽り、守る者と奪う者として対立する宿敵関係。
セラ × 鳥羽姫
互いに信頼し合う特別な存在。国の危機の中でも心は通じている。
セラ × 空牙
戦友同士。言葉少なくとも通じ合う絆がある。
鳥羽姫 × 空牙
姫と忠臣。長年国を支えてきた強い信頼関係。
ケイローン × 潮影衆
支配者と配下。都を内側から崩すための主従関係。
この章の位置づけ
外敵との戦争が終わった直後、
今度は“内部から国を壊す敵”が現れた章。
同時にセラ自身の存在意義が問われる、新たな宿敵編の開幕。




