金ピースとツインテール
大学2年生の秋、久しぶりに高校時代の部活の友人と飲み会をすることになった。
午後6時、集合場所の渋谷駅ハチ公前に、君たち二人は、記憶と変わらない姿で僕を待っていた。
他愛のない会話をしながら、居酒屋に入る。
早速二人の近況を聞き出し、自分のそれについても聞かれたので、淡々と答えていく。
酒が回ってきた頃に、過去の思い出話に耽る。
私は喫煙者でどうしても口寂しくなったので、酒の勢いもあって、非喫煙者の二人を連れて喫煙所へと駆け込む。
喫煙所の中には、白のノースリーブとショートパンツという、秋にも関わらず露出の多い格好をしたツインテールの長身の女が一人立っていた。
年齢は、見ただけではわからないが、若い。
妙に、目を惹かれた。
彼女のことを見ていると悟られたくなかった私は、急いで左ポケットから金ピースを取り出し、火を付ける。
そこで友人がタバコという悪に染まった私に驚きながら、俺も俺も!という感じでタバコを一本せがんでくる。
私は、大学の友人に勧められてタバコを吸い始めてからというもの、そのメリットを感じたことは一度もなかった。
愛着障害の女が好きでもない男に抱かれることを好むのと同じように、私もタバコというものに完全に依存しきっていた。
そのため、タバコを差し出すことを一度は拒んでみたものの、友人の酒癖の悪いもので、一人一本ずつ、私のタバコは奪い取られてしまった。
私の吸っている銘柄が重いこともあって、二人はすぐに咳き込み、表情を暗くした。
だから、こんなもの吸わなければいいのに、と思った。
二人はそのことがきっかけで喫煙所内に漂う異臭に気づいたようで、そそくさとその場所を後にした。
残された私は一人、YouTubeで当時ハマっていたパチンコ系YouTuberの動画を見始めたのだが、スマホの音量が大きくなっているのを忘れていて、大音量で、
キュイキュイキュイーン!!
といった感じの音を流してしまった。
そのことを、今は後悔していない。
いや、するべきなのだろうか。
直後に、例の女が
「パチンコ打つんですか?」
と訪ねてくる。
まさかの一言に、一瞬固まる。
すぐに、質問されていることを思い出す。
この女は、同じ趣味を持っている男を見つけてナンパ目的で話しかけているのだろうと思い、咄嗟に
「いや、数回しか打ったことないっすね」
私は軽く異性に声を掛けられる人間を嫌悪していたので、そう言った。
女は、
「いや、私も全然打ったことなくて、友達が興味持ってるので教えてほしいなって思って!」
と、マシンガンの連射かと思うほど早口で喋りだす。
この女は、私の嫌悪しているタイプの人間ではないことに気づく。
それからは、他愛もない話をした。
どうやら未成年でタバコを吸っていて、酒も飲み、学校にも通わずに渋谷によく遊びに来る不良少女ということだった。
私も、学校に通っていないことを除けば、昔は同じだったのでそのことには特に注意はしなかった。
彼女とは意外にも、共通の好みのものが、その時話しただけでも二つあった。
シンガーソングライターの小林私と、YouTuberのれてんじゃだむ。
はっきり言ってこの二人は全然有名ではなくて、始めてその話題について話せる人間と出会った。
この二人のことについて話して、盛り上がった。
十数分経って二本目のタバコを吸い終わっていることに気づいたと同時に彼女は、
「友達に呼ばれちゃったんで戻りますね」
と言って、女はその場を後にした。
私も席に戻ると、二人は待ちくたびれていたようで、酒も少し抜けているように見えた。
二軒目に行くことになり、会計を済ませ外に出る。
その瞬間、急に尿意を催す。
渋谷に詳しそうな通行人に訪ね、最も近いトイレであるというドン・キホーテの2階にある男子トイレを目指す。
入り口で、またさっきの女に出会った。
今度は、友達と思しき女がもう一人。
その女の見た目は、記憶にない。
ツインテールの女に話しかけられたが、
「ガチで漏れそうなんで」
と言ってそそくさと中に入ろうとする。
すると女も、
「私もなんです!」
と言ってついてきた。
二人で一緒に階段を駆け上がり、トイレに駆け込む。
珍しく女子トイレのほうが空いていたようで、用を済ませてトイレから出ると、女が待っていた。
女は口を開いた途端、
「インスタ交換しませんか?」
嫌な気持ちはしなかった。
共通の趣味を持ち、一緒にトイレへ駆け込んだ仲であれば、断る理由もないと思ったので、承諾した。
一緒にパチンコを打ちに行く約束をしてその場を離れ、友人と合流する。
女と連絡先を交換したことは、言わなかった。
この二人は話を聞く限り女絡みの付き合いが全くなさそうだったからだ。
その日は二軒目で皆泥酔してしまったので、そのまま解散。
後日、ふと女のことを思い出し、私の方から連絡をしたが、返信はなかった。
恐らく酒の勢いだったのだろう。
喫煙所に立つたび、タバコに火を付ける前、あのツインテールの面影を追い求めてしまう。




