〈files=five〉
「じゃあ、今日も先生に許可を貰ったから、タイムカプセルを探そうか」
「はい!って……あれ?瀬戸さん、朝霧さんは?」
「あ、えっと……朝霧さんは、急遽仕事を休むことになっちゃったんだって!
だから、気にしないでね」
「はぁ……?」
翌日も、希たちは神門小学校に出向いていた。
耀太に真相を話すためだ。
だが、ここに遥はいない。
結局、昨日のメールの約束を、彼は守れなかったのだ。
いや、守ろうと思っても、守れなかったのだ。
それを知っているのは、希だけ。
希は今、親友の秘密を抱え、外で平然を装うという苦痛に耐えているのだ。
「じゃあ今日はあの辺りを―――」
「その前に、真相を解明しようか」
「真相?」
「うん。どうして、どうやって、タイムカプセルの場所が移動したのか、と言う謎の真相だよ」
希の言葉に放心状態になってしまう耀太。
耀太にして見れば、真相も何も……と言う事なのだろう。
が、昨日耀太が埋めた場所だと希達に教えた場所まで希が足を進ませる。
「畠中くんは、三年前に起きた大地震の事、覚えてる?」
「はい。色々な建物が倒壊しそうになったけれど、何とか持ち堪えたって、父さんに聞いたことがあります」
「そう。建物は持ち堪えたんだ。でも、地層は無理だった」
「地層?」
希は、地面の写真を数枚ホロディスプレイに投影した。
「三年前に起きた地震は、地表の建物には大きな被害を与えなかったけれど、地層の、特に浅い部分に『スリップ』を引き起こしたんだ。
この双木町周辺の地盤は、実は北西方向にわずか数センチずれていることが、過去のI.S.O.のデータで確認されている」
「数センチ……」
耀太は目を丸くして驚く。
「そう。でも、君がタイムカプセルを埋めたのは、その地層の表面近くだ。
数センチでも、三年という時間が経てば、カプセルは元の場所から十数センチ移動する。
さらに、君が埋めた時に印にした『あの木』は、地震の後に根が張る方向が変わったことで、視覚的なずれを生んだ。
君は、『木を基準にした元の位置』を探していたから、ずれたカプセルを見つけられなかったんだよ」
希は穏やかに微笑んだ。
「つまり、カプセルは盗まれたわけでも、消えたわけでもない。
ただ、地球の動きと、君の記憶が、少しだけずれていただけだ」
耀太は、ぽかんとした後、地面を見て、希が示したホログラムのデータを見て、そして、力なく笑った。
「……なんだ、そんなことだったのか。すごいですね、瀬戸さん!」
希は、力なく笑い返した。
真相を解き明かした所で、本当のタイムカプセルが埋まっていると思われる場所をスコップで深く掘れば……銀色に輝く缶の箱が出て来た。
「これです……!あった、よかったぁ……。
ありがとうございます、ブライトダストの皆さん!」
「ふふ、どういたしまして」
希は、口元だけで笑い、その背中を見送った。
……これで、仕事は終わった。
でも、遥の仕事は、まだ終わっていない。
希は、力なく笑った自分の顔が、酷く醜く見えた。
昨日のメールの『大丈夫』という嘘が、『守れなかった』という現実となって、再び彼の胸を締め付ける。
希の心は、遥のいるであろう、あのネオン街の裏側へと向かい続けていた。
―――もう、騙され続けるのも限界だ。




