〈files=three〉
「ここです。確かにこの辺りにタイムカプセルを埋めたはずで……」
「先ほどの話を聞く限り、畠中くんは一度ここを掘ったんだよね?」
「はい。でも、見つからなくて……」
校庭に集まった四人の手には、『神門小学校』と印字されたテープが張ってあるスコップが握られていた。
I.S.Oのブライトダストに所属する探偵・瀬戸 希は、誰の、どんな依頼も断らない、探偵と言うよりは便利屋の様な役割を担っている。
そうした事件……小さな困り事ばかりを受けるブライトダストは、起きた事件や事故の解決を請け負うI.S.O.の中では異彩を放つ存在であった。
このタイムカプセル探しも、希は二つ返事で受け入れたのだ。
「―――う〜ん……。かなり深く、広く掘ってみたけど、やっぱり出て来ないね」
「そうだな。希、どうする?もう6時だが……」
「え゙!?早く帰らねぇと母さんに怒られる……!」
「畠中くんもこう言っていることだし、続きは明日にして、今日はもう帰るか」
「そうですね……。あれ?翠さん、遥は?」
空がオレンジから群青へと染まってきた頃、ようやく希は土を掘る手を止めた。
希は掘り起こした土の山をもう一度見つめ、大きく息を吐く。
希の問いに答えるように、彼が見つめた翠の指先を彼は校門へと向けた。
「三十分程前に急用が出来たとか言って、先に帰ったぞ。
明日の事などは希に後でメールを送ると言っていたが……」
「……また、ですか。最近、多いですよね、遥のこういうの」
翠は希の動揺を見ても、何も言わなかった。
ただ、そのエメラルドの瞳には、「今は彼のプライベートに深入りするな」という、静かな制止が込められているように感じられた。
希は、翠のその静かさが苦手だった。
かつて、誰もが異能の無力さを知って静まり返った、あの事件の現場を思い出させるから。
希は握りしめたスコップの冷たさを感じながら、再び土の山へと視線を戻す。
「でも、朝霧さん変でしたよね。
通知音が鳴ったかと思えば、血相変えて飛び出していったから……」
「……」
「まぁ、取り敢えず続きは明日だ。
もう遅いし、畠中くんも、戸締まりなどは我々に任せて先に帰るといい」
「はい。今日はありがとうございました。
すみませんがよろしくお願いします」
耀太は深く頭を下げると、一人、夜の帳が下り始めた校門へと急いだ。
希は、彼の小さな背中が見えなくなるまで見送った後、土に触れていたスコップを地面に丁寧に置く。
「畠中くんが帰ったので、聞きますが」
翠が静かに言った。
「『あの事件の現場』を思い出させたのは、本当に遥の行動だけか? それとも―――」
翠の言葉は、希の「硬くなった土」への執着を知っているからこその問いだった。
希は首を横に優しく振る。
「いいえ。あの時感じた静寂と無力感は、遥のせいだけじゃありません。
この土地が、嘘をついているんです」
「嘘?」




