第三章 揺れる心
季節は夏に移り、学院の湖で水魔法の実習が行われた。
セレナは水の精霊を呼び出す練習中、突然感情の波動を暴走させる。
湖全体が渦になり、周囲の生徒たちが危険にさらされた。
僕は即座に介入し、彼女の魔法を封じる。
「落ち着け、セレナ!」
「……ごめんなさい……わざとじゃないの……でも……なんで……?」
彼女は震えていた。
その瞳には大量の涙が浮かんでいる。
「あたし、最近……リオンのことを考えすぎてるの……それが、魔法を狂わせるの……」
その言葉に僕は息を止めた。
「……それは、恋の兆候……?」
「違う! 違うわ! あたしはあなたなんか──」
彼女は叫び、その場から走り去る。
その夜、僕は彼女の寮を訪ねた。
ドアの前で迷いながらも、勇気を出してノックする。
暫くしてドアの向こうからセレナの声が聞こえてきた。
「誰……?」
「僕だ。リオンだ」
「……入っていいわよ」
ドアを開け中へ入ると、彼女は窓辺に座り月明かりを浴びている。
「……今日のことは……ごめんなさい。あたしのせいだわ……」
「いや、僕のせいだ。恋をしてはいけないと言ったのは、僕だ」
「でも、心までコントロールできるわけじゃない……」
彼女は顔をこちらへ向けて、切なそうに僕を見つめた。
「もし……あたしが……もし、あたしがリオンを好きになったら……」
「記憶を失う」
即答すると、セレナはハッと何かを諦めたかのように笑う。
「いいじゃない。こんな気持ち、忘れるんだったら……」
「でも……それはあまりに残酷すぎる」
僕は彼女に近づき、その白い手を取った。
「忘れるなんて許さない。あなたが僕を好きになるのなら、僕はセレナを──」
「やめて!」
彼女は手を振り払う。
「契約があるでしょう! 破ったら記憶を失うのよ! それなのにどうして……どうして……あたしの心を……こんなに……」
彼女の声は震え、悲しみに満ちていた。
僕は何も言い返せない。
ただ月明かりの下で、彼女の涙を見つめるしかなかった。




