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「特異存在管理局(後編)」

 S.E.I.D.地下セクター3。


 ここは、存在そのものが秘匿された灰域グレイ・セクターと呼ばれる空間。正規職員ですら足を踏み入れた者はごく僅かで、記録はすべて闇に沈められていた。


 そして今——そこに、ユウカがいた。


 


 ====


 


 銃声が響く。


 散弾を撃ち込む警備兵の目前で、ユウカの姿がぶれた。


 次の瞬間、兵士は腹を撃ち抜かれていた。銃を手にする暇もなく、壁へ吹き飛ぶ。


 「……やっぱり、あんたらは変わらない」


 ユウカは呟く。死んでいった仲間たちの顔が、脳裏をよぎった。


 この場所には、彼らが埋もれている。Sクラス能力者として、国家のために「道具」として鍛えられ、壊れた者たち。


 ここは——処分場だった。


 


 鋼鉄のドアを開くと、冷たい空気が流れ込んできた。


 そこにあったのは、生命維持装置の中で沈黙する実験体たち。管に繋がれ、意識すら失われたまま、ただの情報処理装置として扱われる人間。


「……生きてるのか、これでも」


 その時、背後で警報が切り替わる。


《特殊個体認識。対Sクラス戦闘ユニット・起動》


 ——来る。


 ユウカは銃を抜き、身構える。


 


 ====


 


 一方その頃、篠原直哉も地下へと向かっていた。


 九条隊長の協力で通された非公開ルート。だが彼の耳には、はっきりと銃声が響いていた。


 「間に合え……!」


 階段を駆け下りるその途中、不意に背後から声がかかる。


「篠原……お前、行く気か」


 振り向けば、そこにいたのは——橘伊吹。


 「俺の言った通りだろ。あの女に関わるなと言ったはずだ」


「伊吹……あの施設の中に、妹と同じ目をした奴らがいた。見て見ぬ振りなんて、できるわけがない」


 伊吹はわずかに目を伏せ、静かに呟く。


「……だったら、これを持って行け」


 差し出されたのは、小型のドローン端末。そこには、ユウカの過去に関する「未公開ファイル」がインストールされていた。


「彼女がここに来た理由。すべて、記録されている」


 


 ====


 


 閃光。


 そして衝撃。


 ユウカの前に現れたのは、人型とは言い難い強化兵だった。


 機械で補強された腕、露出した神経コード、そして赤く光る複眼。


 「人間に、戻る気はなさそうね……」


 銃弾が放たれる。


 だが、相手はまるで時間の流れを無視するかのように、一瞬で距離を詰めてきた。


 直撃を避け、ユウカは横へと跳ぶ。背後の壁が砕け、煙が巻き上がる。


 (予知を上回ってくる……これは、私と同じ——いや、それ以上)


 不意に、彼女の視界が霞む。


 ——干渉されている。


 この相手、通常の能力者ではない。


 人工的に、未来視を融合させた戦闘マシン——《コード:ALPHA-ZERO》。


 「そんなものを、何体も造っていたの……?」


 


 そのとき、銃声。


 敵の肩がはじけ飛ぶ。


 「下がれ、ユウカ!」


 現れたのは、篠原だった。


 「どうして……」


「放っておけるわけないだろ。お前が敵であろうと、俺の答えを探すには——お前が必要なんだよ!」


 ユウカが言葉を返す前に、敵が再起動する。


 二人は背中を合わせ、再び銃を構えた。


 


 ====


 


 《ALPHA-ZERO》は強かった。


 だが、“未来を見る”という能力は、完璧ではない。ユウカと篠原はその弱点——予知の同時干渉による演算混乱を突いた。


 一人では破れない相手も、二人なら。


 銃声、火花、煙。


 最後の一撃は、ユウカの銃口が放った。


 「——終わりよ」


 


 敵が沈黙したとき、地下は静けさを取り戻した。


 けれどその静寂の中、篠原は、ドローンに残されたファイルを再生した。


 そこにあったのは、幼いユウカが「能力実験の被験体」として訓練される映像。


 「彼女は、Sクラスに分類された後も、意図的に失敗例として処分されるはずだった」


 伊吹の声が、録音ファイルから再生される。


 「だが、逃げた。能力を使って。そして、すべてを壊して……」


 映像の中、泣きながら銃を手にする少女が、篠原に重なって見えた。


 「——もう、戻れないんだよ」


 ユウカの声は、どこか遠くにあるようだった。


 「それでも、お前は……進むのか?」


 篠原は、黙ってうなずいた。


 「ここで止まるなら、妹をもう一度殺すのと同じだ」


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