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店主:「如何でございますか?年代から見てもこの状態の御品はあまり現存致しませんし、人気の欧州物でこの価格は中々実現出来るものではございません」
店主が水差しを誉めちぎり、お買い得であると言っているのは分かります。確かに説明は色々と聞いているのですが、どうも頭に入ってこない。自慢話を聞く度に、言葉と現物の細かい部分を見比べてしまって、価格が高い気がしてならなりません。しかも、時折の説明が大雑把になる所が何とも疑わしい。田吾作どんはとりあえず湧いて出た疑問を一通り投げ掛ける事に致しました。
田吾作:「先程『ヨーロッパ』や『欧州』と仰いましたが、ヨーロッパと言いましても国は沢山あるでしょう?何処の国の物なのですか?」
勿論、店主もヨーロッパが国でない事自体、先刻承知でございます。しかし、購入時には欧州の物であるとしか聞いておりませんでしたので、誤魔化すしか手はございませんでした。
店主:「貴方は現在の国名が当時使われているとお思いか?ドイツはプロイセンだったりする訳ですし、国の範囲も現在とは違う。県と藩は違うでしょう?細かい出所なんて気にしていたら、10世紀より前の品物なんて扱えませんよ」
ふぅ、こいつは上手く誤魔化せたぞ、と、店主も一安心。しかし、一息吐くや否や、次の質問が飛んで参りました。
田吾作:「でも、これは12~13世紀の物でしょう?」
店主:「ああ、もう。これに限らず全ての品を指しているの!分かります?」
田吾作:「国の範囲が違うのであれば、当時も『ヨーロッパ』と区切りは存在したのでしょうか?」
店主:「そうじゃない!問題の定義の仕方が違う!現在のヨーロッパの地域から『出土』されていれば、関係ないでしょうよ!」
田吾作:「『出土』と仰いましたが、これは土の中から出てきた物ですか?」
店主:「違う!いや、土の中かどうかは分からない。というか、言葉の意味が違う!出所の事を『出土』と言っただけで、この水差しに対しての事を言っている訳ではございません!」
と、田吾作どんの質問責めに店主もいよいよ熱を帯びてきて、終いには怒号の様な声が店内に谺しました。