第1―3 覚醒
あなたから見た私
私の中の私
家族から見た私
友達から見た私
全ては私の姿だけど
どれが本当の私なのか
知ることは生きること
知ってしまえば
死んだも同じ
第1―3 『覚醒』
上村家では喜一が夕食を作りながら、兄の帰りを待っている。
期待と不安が胸の中で渦巻く、兄との生活もだが、今は新しい学校だ。
まずは第一印象が重要だ!
『ど〜も〜。上村喜一で〜す。夏休みも終わり皆さんさぞ憂鬱な気分でしょうかね〜
ところで聞いてくれよ、ジョン(?)夏休みにさ久しぶりに兄貴の所に帰って来たのに、兄貴のやつ迎えにもこないんだぜ〜
なんじゃそらゃ〜』
……明らかに違う
面白くもないし、無駄にテンション高いし、ジョンって誰だよ!
しかし、新しい学校とはいえ、なめられるわけにもいかない
『ちょり〜す!上村喜一ッス!てゆうか、マジで友達たくさんほしいんで、よろしく〜』
……違うだろ…
これじゃおかしいだろ…今時ちょり〜すってなんだよ!
そしてまたテンション高いし!
……
「上村喜一だぞ!仲良くしてくれなきゃ、○に変わってお仕置きよ!」
とキメポーズを極める。完璧だぜ!ヘヘッ!
「何をやってるんだ喜一…… 昔とは少しキャラがかわったな…」
「…………」
兄貴が帰って来てた
キメポーズもしっかりみられた…
さらに、冷静なツッコミは意外と心にしみる…
10年ぶりに再会した、最初の言葉は『お仕置きよ』だった
夕食…兄貴に手伝ってもらい料理は完成した。
やはり兄貴は料理もうまく、食べると旨かった。
「兄貴は今日遅かったけど、やっぱり仕事?」
「ああ…」
「何の仕事をしてんの?」
「警察だ…」
「へぇ」
初耳だった。兄貴が警察なんて…
意外と似合いそうだな…
「帰りは遅くなる。俺のぶんの夕飯はいらない。朝は俺が作る。ゴミは置いとけ。質問は?」
「いやない…」
「ごちそうさま。悪いが、食器片付けてくれ。」
「ああ」
空は部屋を出た
喜一は少し俯いた…
突然空が戻ってきて、
「飯旨かったぞ…手料理なんて久しぶりだった」
空はそう言うと部屋を後にした
喜一は顔を上げたまましばらく動けなくなった…
「今思うと、兄貴も手伝ったし…」
食器を洗い、台所を片付けて、風呂に入り、今は部屋でごろりとしている。
今だに空の言葉が頭の中残っていた…
眠れないので外で歩くことにした…
10年ぶりとはいえ、あまり変わってない風景を見てホッとした。
しばらく歩くと、消えかかってる街灯をみつけた。
よく見ると、街灯の下に女の人がたっている…なんかめちゃくちゃこっちを視てる。
近く通りすぎようとするときもこっちを視てる。
「あの〜」
声をかけた途端にその女の人は空気のように消えた。
背筋にぞわ〜とした感覚が通り抜ける。
嫌な汗をかいている。
いろいろ不気味な感じだったが、まさか幽霊だなんて…
いや、俺は信じない、幽霊なんて科学的根拠のないものなんて俺は信じません! アトランティスはあると信じているがな!このやろ!
「ウオォォォ!」
隣の誰も居なそうな小さな廃ビルのなかからうめき声が聞こえてきた。
「うひぃっ!」
思わず変な声を出してしまった。
本当なら、今すぐ帰りたいところだが、先ほど幽霊を否定しているため、
これは、誰かがきっと苦しんでるに違いない!違いない!違いない!
無理やり自分に必死に言い聞かせ、廃ビルの中に入っていった…
中を進んでいくと、本当に人がいて、本当に苦しんでいた。
ほらな!幽霊なんて居ないんじゃい!
「ウオォォォ!」
「ひいぃぃ!」
男のうめき声と喜一の悲鳴が合わさった。
よく見ると、血が出てる。この傷は数時間前に喜一の兄である空に先程の戦闘で負った傷だとはもちろん喜一は知らない。
「あの〜。大丈夫ッスか?」
と男に近づいたとき、ひときわ大きいうめき声を男が挙げるとともに、この男を本当に苦しめているものが現れた。
それは、先程男が戦闘に使っていた黄色く輝く剣であった。
剣は男の腹の当たりに刺さっているが、腹からは血がでていない。
「ど、どうしたんすか!それ!」
と言った途端に剣に変化があった。
剣を中心に小さな刀がいくつも出現し、その切っ先を喜一に向けている。
ヤバッ!
そう思ったときには、動いていた。
一本の刀が飛んできて、それを喜一はかわす。刀はコンクリートにめり込み、ひびが入っている。
ぞっとした。
次は二本同時にとんできた、ギリギリかわすことができたが、バランスを崩した。
その隙を見逃してはくれず、二本の刀が飛んでくる。
死ぬ。
そう思った目を瞑った…
痛くない…てゆうか、刺さってない…
目を開けると、ニメートルもの半透明の紫の巨人が刀から喜一を守ってる。
その巨人の手には大きな十字架が握られている
その巨人は『戦う者』を象徴し、十字架は『救済』を象徴している。
巨人は男に刺さっている剣に向かっていった。剣は刀を出現させ、巨人に攻撃を仕掛けるが、巨人は手にしてる十字架を剣のように使い刀を払い、男に刺さっている剣を十字架で断ち切った。
剣はあの女の人のように、空気のように消えていった。
それと同時に巨人も消えてしまった。
苦しんでいた男は、苦しみが消え去った事と解放感で驚いていた。
「うそ…」
男が呟いた。
虫がよく鳴く暑い夜の出来事だった。
喜一は呆然としていた。
突然、廃ビルが強い光に当てられる。
それが、車のライトだと気付くのに少しかかった。
三人の影が車から降りてきた。
「一護は回収。このガキは消せ」
「了解」
よく虫の鳴く暑い夜だった。