表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

第3―6 後悔


あの時私は手を伸ばさなかった

伸ばせば何かを掴めたかもしれないのに


あの時私はただ見ているだけだった

何かしていればあの人は傷つかずにすんだのに


しかし


どうしても足が震える

ただ怖いのだ

手を伸ばしてもその先に何もないことを知ることが

何かしてしまったがためにあの人を傷つけてしまうことが


結局私はただ見てるだけ…


『第3―6 後悔』


怖い…

奈々はただそう思う。目の前で変な二人組が日常でめったに見ることのない武器のようなモノを持っていることも

今日転校してきた喜一と謎の巨人が一緒にいることも

修平から翼が突然生えたことも

自分が伊東 空と名乗った女性に謎の空間に飛ばされたことも

今修平から感じられる圧倒的な怒りの前にはとるに足らぬ事のように感じられた。


今この場にいる全ての者がこの怒りに恐怖している。


止めなくてはいけない…


奈々は自然とそう思った。

修平は自分の事ではめったに怒らなかった。ただ大事な人が傷つけられた時、修平は何時もの修平からは考えられないほどに怒りをあらわにしていた。

そんな時奈々が必ず修平を止めていた。


奈々が怒った修平を止めようと思ったのはその経験と反射である。

止めなくては修平が修平ではなくなってしまうという。


「だめ!修へ…」

奈々の制止の声は途中で途切れる。

理由は近づいた奈々を修平から生えた翼が奈々を攻撃したためである。


「神山さん!!」

そう叫んだのは、その光景を見て我を取り戻した喜一。


奈々は信じていた。

修平はどんな事でも私の声だけは聞いてくれるものだと。

それは一見すれば奈々の盲信だが、奈々はそう信じていた。

しかし、奈々は気づくべきだった。

伊東 空と対面した時にはもう奈々の声は修平に届いていない事に。

「しゅ…へ い」

余りの衝撃に意識が飛びそうになりながらそれでも奈々は修平の名をよんだ。

自分の声が修平に届くと信じて…


だが、修平は振り向きもせず前に進む。

目の前の敵に向かってただ、ただ歩く。


変わりに奈々の元に駆け寄ったのは喜一だった。

「修平…を止め…なきゃ…!」

途切れ、途切れに

でも強く喜一に訴える奈々。

「わかってる!アイツは俺が止めるから!」

喜一は瞳に強い光を写しながら奈々にそう呟く。










惣太郎とまみはまだ動けないでいた。

恐怖が理由ではない。目の前に広がる光景を信じられないからだ。惣太郎とまみはあの翼と似たようなモノを知っている。

しかし、それはこんなどこにでもいるガキが持って良いモノではない。

あれは…


突然まみの体が3メートルくらい吹き飛ばされる。

コンクリートでできた道に叩きつけられ、まみは痛みの余り動けなくなる。


今戦場の中心にいるのは二人。

修平と惣太郎。邪魔者は全て弾き飛ばされた。


「ハハハハハ!! どうやって手に入れたよ、その翼ァ!」

惣太郎が槍で修平へと放つ。

しかし、槍は翼に止められていまう。

替わりに反って来たのは修平が放った力の塊。

余りの力に惣太郎は堪えきれず道に叩きつけられる。

「ガッ」

口から血を吐き、悶える。

何が…起こって…?

惣太郎の思考がそこで途切れる。

修平が腕を横に振る。それだけで惣太郎は数メートル吹き飛ばされる。

「ガァァァァァァァ!」

余りの痛みに叫んでしまう。

惣太郎は何とか立ち上がる事ができた。


「調子に乗るなよ!クソが!」

惣太郎はボロボロの腕で槍を持ち、その切っ先を修平に向ける。


「ブッ刺せ!ロンギヌス!!」

槍は一瞬で距離を詰め修平に突き刺さろうとするが、翼にガードされてしまう。

だが翼は槍を止めきれず、修平は後ろに吹き飛ばされ道の端で奈々の傷の具合を見ていた喜一の横を勢いよく飛んでいく。

「修平!!」

喜一が叫ぶ。


…なんて力だよ。クソッ 隙を見てどうにかするってレベルじゃねぇぞ!…



所変わり上山公立公園。こちらも激戦が続いている。


公園にはいくつもの戦闘の跡があり、その激しさを物語っている。

状況は五分五分。だが2対1で戦っているため空のチカラの消費は激しい。


その時優夢に花村から頭に直接連絡が入る。「どうした!?花村」戦いながらも優夢は反応する。

まだ優夢達が戦っているのは花村には分かるはずだ…そんな状況の中で花村が連絡をとってくるということは何か大切な事なのだろう。


『惣太郎班に異変あり!まみからはシンボル反応が途絶え、惣太郎もギリギリな状況だ!さらに、そのすぐ近くにツバサの反応ありだ』


「上村 喜一か!?」

『いや、違う。ソイツとは別に突然ツバサの反応が現れたんだ!俺達からは距離がある。一護の力でアイツ等の救出を頼む!』


「クソッ!一護!!撤収だ」

「どうしてだよ!あと少しだぞ!」


「惣太郎達が危ない!助けなくては。」


「チッ!解った!」


二人は空から距離をとる。


「待て、逃げるな!喜一がなんだ!?アイツは関係ないだろ!」

空は叫びつつ追いかけるが、一護は剣で空間を引き裂き姿を消した。







クソッ

と喜一は罵声を呟く。こちらも修平と惣太郎の激戦が繰り広げられている。

喜一は修平を止めるため隙を伺っていたが、これでは戦いの中に入った途端にやられてしまう。


…俺の巨人の十字架にはアイツ等のチカラを無効にすることができる。それは昨日と今日で何となくわかる。だから修平を止められると思ったのに…


二人の戦いに一切入りこむことができない。やらなきゃいけないことはわかってる。だが足が震えるのだ。


その時均衡していた二人の戦いに傾きが生じはじめる。

押し倒されたのは惣太郎。

追撃をかけるように修平が拳を振り上げる。

…ここだ!…


途端に喜一は震える足で駆け出す。

均衡した戦いじゃ入る余地はなかったが、一方的になればチャンスがある。

そして今戦いの嵐がやみ、修平は喜一に対して後ろを向いている。

ガッ!!


巨人が修平の翼に十字架を突き刺した瞬間目映い光が発生する。


目映い光が消え、翼も消える。

一瞬静寂が世界を包む。

「クソがァァァァァァァァァ!」

惣太郎はその瞬間を見逃さなかった。槍を構え、攻撃の体勢をとる。

喜一は修平を後ろに下げつつ、巨人の十字架で防御の体勢をとった。


「そこまでだ。」


突然惣太郎の手を掴み、攻撃を遮る。


正体は優夢だった。

後ろを見ると、空間に穴があいている。


「まみは意識がないし、お前も重症だ 退くぞ」


「まだだ!あの男を殺す!」

「だめだ。俺達の目的を忘れたか。誓ったろ。皆でって…お前が欠けることは赦さない。「くっ!わかったよ!」

惣太郎は優夢に支えられ、空間の闇に消えてゆく。


「喜一離せ!アイツは…アイツだけは!殺さないと…」

修平は正気を取り戻したようだが、息も途切れ、途切れで明らかに無理をしている。

「落ち着けよ修平!無理だって!ケガもしてるし。神山さんだってケガしてるんだぞ!」喜一が必死に修平を止める。

惣太郎達の姿はもうない。

「奈々がケガ?アイツ等にやられたのか?クソッ!」

と言いながら奈々の姿を探す修平。


「違う!」

喜一は叫ぶ。


修平は動きを止め、喜一の顔を見つめる。

「どうゆうことだ?」修平の顔に焦りが見れる。喜一の声に落ち着きを取り戻し、記憶がはっきりしてきたのだろう。

「俺? 俺が奈々を…」

修平は途方に暮れている。

「今は後悔してる時じゃねぇ!まずは神山さんの状態を確かめに行くぞ!ほら!」


修平を無理矢理立たせ、奈々を探す喜一。幸い奈々とはすぐに会えた。

少し前に意識を取り戻し、光を見た奈々はフラフラになりながら向かってきていたのだ。

奈々は無事な修平の姿を見ると緊張がとけたのか、ガクッと膝をついた。

「大丈夫?神山さん!」

喜一がすぐに駆け寄り、その後に修平が続く。

「大丈夫…安心したら力抜けちゃって、修平は大丈夫?」


「ああ…」

修平はそれだけ言って口を塞いでしまう。


「修平…大丈夫だから…私は」

奈々は修平に心配させないように言った言葉だが、その弱々しい言葉はよけいに修平の心に深く突き刺さる。


…やってしまった。また…。今日誓ったばかりなのに!俺は世界で一番大切な人を傷つけてしまった。俺は…


三人に突然ライトが当てられる。

眩しくて見えないが車のライトの様だ。

「まさか」

一度嫌な経験をしているせいで敵ではないかと緊張する喜一。


「よかった〜。居た。居た。はい。見つかりました。喜一君もいるし、三人とも一応大丈夫なようです。」

車から降りた影は誰かと喋りながら近づいてくる。声からして昨日のような殺気はかんじられない。


「村田さん?」

聞き慣れた声に奈々と修平が反応する。


その男は寮監の村田だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ