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第3―5 ツミノツバサ


その罪


翼となりて



飛び立つ


『第3―5 ツミノツバサ』



時は喜一と桃花が修平と別れた所まで遡る。


時間は19時頃、修平は病院に向かっていた。

病院に行く理由は見舞い。この時間では本来面会はできないはずだが、入院している患者が特別なので家族のみこの時間の面会を許可してもらっているわけだ。

しかし、修平はその患者の家族ではない。

部活の後輩程度の関係だ。

修平は病院と家族に頼み込んで面会の許可をやっと得ることに成功している。

入院している患者の名は若林 拓郎。

修平が所属しているバスケ部の後輩で、明るく、良い性格でいつも部活を明るくしてくれる。いわば、ムードメーカーという訳だ。


拓郎が入院したのは2週間前。原因不明の精神崩壊。

今、明るく、笑顔の眩しい拓郎はどこにもいない。廃人状態という表現が一番それに合っている表現だろう。


病院に着くと受付で許可をとり病室に向かう。最近こういった症状の人がこの街に続出していると聞いたことがある。


…いったいこの街で何が起きている?…


修平深く考え込みながらエレベーターに乗る。

拓郎の部屋は三階の一番端にある。

三階に着き、ゆっくりと部屋まで歩きだす。

部屋の前に着き、ノックをする。返事はもちろんない。扉を開け「よっ!元気か?」

修平はなるべく明るい笑顔を浮かべ部屋に入る。


返事はもちろんない。

拓郎はベッドで目を開けたまま、ピクリとも動かない。

光のない瞳はどことなく夜空を観てるようだった。


修平はカーテンを閉め拓郎に話しかける。

「昨日奈々とデートっぽい買い物をしたんだがな…見事に失敗してしまったよ。お前にあれだけ好きな人の事を一番に考えろなんて言っておきながら、あの時…俺はやってしまった。バカだろ。」


修平はあくまで笑顔は消さない。

「だが、心配するな。俺はまだ諦めんぞ。奈々は怒っているようだがちゃんと謝り、気持ちをぶつけてみる。それでダメなら諦めるしかないな。アイツが嫌がる事はしたくないしな。」

拓郎はずっと天井を見上げている。

「部活のほうは大丈夫だ。うまくやっている。先輩達は笑って引退していったよ。部長を任されたからには、必ずすばらしい部活にしてみせる。だから…だからお前は何も気にする事はない。速く部活に戻ってこい!その時までには奈々ともケリをつけやる。だから…」

修平の言葉が詰まる。どうして!どうしてこんなに良いヤツがこんなにならなきゃならない!コイツが何かしたのか!理不尽にもほどがある!


修平の中に激しい怒りが嵐の如く吹き荒れる。

見舞いに相応しい気持ちではなくなってしまった。


「またな。」


修平は拓郎にそう言い部屋を後にした。


病院の受付のフロアの自動販売機でコーラを買い、椅子に座りながら気持ちを落ち着けていると、見覚えのある顔が病院の中から現れた。

「修平!?なんでアンタここに?」

それは奈々だった。


「奈々?どうして?俺は見舞いだが、もしかして何処か悪いのか?」


「違うわよ。それよりここ出ない?流石にこれ以上病院いると迷惑だろうし。」


「む?」

見ると、時計の針は22時を過ぎている。


二人は病院を出て、学生寮に向かい歩く。


「で、誰の見舞いだったの?」

修平が何を話していいかわからないで黙っていると、奈々が先程の続きを話してきた。


「拓郎…俺の後輩の若林 拓郎のな。」


「拓郎君が?そうなんだ…何で入院してるの?」

奈々は女子バスケ部に入っているので、男子バスケ部のメンツはだいたいわかる。明るく、性格の良いイメージだったと奈々は記憶している。


「良く解らん。廃人状態で入院している。」

「そっか。心配だね。」


奈々は暗い顔をしている。


「お前は何故?」

「私もお見舞い。香先輩の…」

香先輩。本名は青井 香。

バスケ部に所属しており、奈々達のお姉さん的なキャラで奈々達も姉のように慕っていた先輩だ。

「まさか、先輩も?」

修平は最近続出している原因不明の廃人症状ではないかと心配になった。


「わからない…先輩まだ目を覚まさないの…。先輩を保護してくれた警察の人には大丈夫って言われてるけど…私心配で…先輩も目が覚めたら、ああなったらどうしたら…」


奈々は今にも泣きそうである。


「きっと大丈夫だ。信じてたら、きっと戻ってくる…きっとだ…。」

「うん…うん…」

奈々は下を向いてただ頷いていた。


修平は奈々にそう言い、自分にも言い聞かせた。


途中の自動販売機でコーヒーを買い、奈々に渡す。

奈々は少し落ち着いてきたようだ。


「大丈夫か?」


「うん。」

声にも奈々らしさが少し戻ってきている。


「修平は…」


「む?」

「修平はああならないでね。絶対、絶対だよ!」

奈々はまた泣きそうになっている。


「ああ…大丈夫だ。約束するよ。だから、お前も無事でいてくれよ。」


「うん。約束する。」

もう会話だけ聞いていたらバカップル丸出しな二人だが、二人は付き合っていない。


「とりあえずお前に謝っておく。」


「何?」

奈々は涙で濡れている目を修平に向ける。


修平はその顔を見た途端に理性が吹っ飛んで、奈々に抱きつきそうになった。が修平は踏み留まる。


「昨日は悪かった。勝手に居なくなったりして。もっと早く謝りたかったんだが、他の奴らがいて、近づけなくてな。」


すると奈々は俯いてしまう。

「? 奈々?」

「本当に…心配したんだから!突然消えて…心配して…捜して…」

「悪かった。 」

修平はそれしか言えない。

「でも、無事で良かった。」


また修平の理性は吹き飛びかける。

惚れた女にこんな顔されて、無事で良かったなんて言われたら…幸せで死んでしまうわーい!的な心境になったしまう修平。


「奈々!」

修平はこのムードの中告白の決意をする。


その時、辺りの光が一瞬にして消え去る。

まるで修平と奈々だけが異空間へと飛ばされた様に。


そこに現れるは、昨日修平の前に現れた女性の姿。

奈々を守るように前にでる修平。

奈々は思わず修平の手を後ろから握る。

普段の修平なら嬉しさの余り変な事を口走っていただろうが、状況が状況である。


すると女性が笑いかけてくる。

構える修平。

「お前は何者だ!どうして俺の前に現れる?」


「私の名前? 私は伊東 空。 何で現れる?あなたの事が羨ましいから。」


修平は意味がわからない。


「あなた知りたがってた…真実を」

伊東 空と名乗った女性は修平を指差す。

「?」

相変わらず修平には理解できない。


「見せてあげる。真実。 フフフ…」


突然修平の中に何かが流れ込んでくる。


記憶…拓郎が何者かに襲われている。黄金に輝く槍を手にした青年は逃げ回る拓郎をただ笑っている…


「ガァァァァァァァァァァァ!」

唸る修平。


「修平どうしたの!?修平!?」

修平には奈々の声でさえ届かなくなっていた。

…死にたくない。死にたくない。死にたくない。…拓郎は叫びながら、必死に逃げる。が追っ手の青年が槍を拓郎に突き刺す。

驚く事に拓郎からは血がでていない。しかし拓郎は悲鳴を上げる。…助けて。親父…助けて。母さん…助けて…先輩…


修平の心は怒りで満ち溢れる。

そんな光景を前に伊東 空は語る。

「どう?それが真実。真実は苦しくて、悲しくて、辛いモノ…それでも貴方は真実を知りたいの? 貴方の父親はそれを望んではない。罪を背負って欲しくないから。」


「ガァァァァァァァァ!」

「そう…なら貴方にあげる。」

伊東 空はどこか嬉しそうに、そしてどこか悲しそうにそう言った。

「アンタ!修平に何したのよ!」

叫ぶ修平を心配しながら奈々は伊東 空に叫ぶ。


「また会うかもね」

伊東 空はそう言って、姿を消した。


それと同時に修平の中に流れる記憶が消える。

辺りに光が戻ってくる。しかし、そこは今まで修平がいた場所ではなく、見覚えのない場所。そこには謎の十字架を持った巨人と喜一の姿。そして…先程頭を駆け巡った記憶の中にいた黄金の槍を持った青年の姿が見えた。

修平の目には怒りしかない。

「ガッ」

コイツを殺してやる!真実がどうとか罪がどうとかどうでもいい!コイツを殺せるならどうでもいい!大事な後輩をあんなにされて赦せない。拓郎を襲ったあの男が!

その理不尽が!


「ガァァァァァァァァァァァァァァ!!」

気がつくと翼が生えていた。

天使の如く美しく、神の如く神聖で、罪人の背負う罪の如く重い翼を背負う修平はただ思う。


必ずコロシテヤル…




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