プロローグ
一度手を出したソシャゲは 終わらねェ!!!!()
私、もとい小川栞には幼馴染がいる。
…と言っても、あるゲームの世界観を限りなく再現したかのような世界に転生してからの、というのが付いてくるが。
言葉の通り、幼馴染である鈴木環は私の知るゲームの中において、サポートキャラとして登場する。
確かゲームのジャンルはソシャゲと呼ばれる部類のゲームだった。今は何か超常的な制限を受けているのか、ゲーム自体の名前を思い出すことはできない。
性別を不詳または男女のどちらかを選び、画面の向こうのプレイヤーとして動く長谷川紲はサポートキャラである鈴木環か、環の妹である鈴木円。
そのどちらか一人をサポートキャラとして選択する為、サクッとしたチュートリアルイベントを見ることになる。まあ、これでも序盤のイベントくらいなら思い出すことができるのはありがたい。
ソシャゲと呼ばれるジャンルのゲームは、登場するキャラ以外の他プレイヤーと交流ができるジャンルだ。確かこのゲームは遊べる媒体がパソコンだったから、ネット上でしか交流はできなかったけど…。
とりあえず、当然のように二桁程度いるキャラクター達との交流を楽しむもよし、他プレイヤーとの交流を求めて飛び出すでもよし。
そんなあまり見ない類のゲームだった覚えがある。
進化していった現代社会の賜物と言うべきか…本当に人と会話しているかのような、人工知能が再現するキャラとの日常会話。
他愛も無い会話の中で生まれるメインストーリーに関連する世間話に加えて、何だったらプレイヤーがまだガチャなどで入手できていないキャラへの愚痴や自慢なども少し話してくれたりもする。念には念を入れるようにそのどれもがボイス付き。
そう考えれば、どういう形でゲームを始めた者だったとしてもやり込み要素は数え切れないほどにあった。
そしてこのゲームで最大の注目を浴びていたのは、ゲーム内に登場するキャラとの恋愛を含めた関係だ。
恋愛関係に関してはメインストーリーで恋愛関係が確定してしまったキャラを除き、ガチャなどでしか入手できないキャラを主としていた。
本当に初対面、つまりゼロから形取られる関係。もしくは特定のキャラをどのくらい強化したか、友好度がどのくらいあるのか。あまりプレイヤーが大事に扱わなかったキャラの態度。
それこそプレイヤーの数だけ選択肢があると断言できるほどの幅広さだった。
まあ、その結果かゲームを遊べる媒体はパソコンなどのみだったが。
私がどうにか覚えている前世の知識で言うならば、ソシャゲ版の世界○の迷宮みたいな感じだろうか。
ただそう考えると、ソシャゲになった弊害であるガチャ要素や、無くなった豊富なキャラメイクは少々惜しかったかもしれない。だって、プレイヤーの好みを詰めまくったオリジナルのキャラクターは作れなくなってしまったのだぞ!?
…まあ、そこはサポートキャラの幼馴染という。ほぼゲーム本編で姿が確認できるかすら怪しい私にとってはどうでもいいか。
だが懸念点は、そういう攻略対象に一応サポートキャラも入っていることだ。
プレイヤーの選択によっては、ゲームを再現した世界だとしても幼馴染が悲惨な運命を辿ることに変わりはない。それは流石にどうにかしてやりたい。
逆にそれ以外はもう、主人公様様って感じで関わりたくない。
生憎だけど…ゲームに顔も名前も出てこない私は、好奇心に殺される猫でありたくない。確かに画面の向こうで見ていた時の私は、まさに飛んで火に入る夏の虫のように飛び込んで行っただろう。
けれど、それはあくまでも画面という次元の遮りがあったからだ。
最初に言った通り、ここは私の知っているかのゲーム世界観を限りなく再現したかのような世界。
再現である以上、セーブもない。バックアップなんて期待すらない。
データを保存するサーバーがあったら、私はこんなにも足踏みしていない。
あと、私がどう頑張ってもこのゲームで知っているのは、サービス開始してから終了するまでの三年間だけ。確か各キャラの声優さん方や製作陣、イラストレーターからゲームプランナーまでもが有名どころだった。
故にサービスが開始する前から有名だったこのゲームは、一部有料と言えどもかなりのプレイヤーが絶えずいた。しかし、サービス開始からきっかり三年を経過した辺りで急遽サービスが終了した。
それは、私を含めたプレイヤー達にとってはとんでもない損失と衝撃だった。
元々かなりの資金が注ぎ込まれていたのに、それ以上の売り上げがなかったからサービスが終了しただとか。何か別の会社に訴えられてサービス終了しただとか。
それこそメインストーリーやキャラデザを行ったデザイナーが亡くなったのではとか。それこそ噂の域を出ないものから、とんでもなくぶっ飛んだ都市伝説並みの噂を生むくらいには、そのゲームが三年という月日で途絶えてもプレイヤーに愛され続けた作品だった。
私自身の前世も、あまりの衝撃に時間差でショック死したらしい。……個人的に言いたいこととしては、大好きなゲームの世界に転生できたっぽいのは嬉しい。
だけどせめて、前世の最後はショック死じゃない方が良かった気がする。
何とも説明しにくい情けなさがあって辛いです。ほんと。
まあ…そんなこの世界の説明と前世の話はまた今度するとして、私には幼馴染がいる。まだ前世を正確に認識できていなかった私でも、ある程度前世の知識を使って幼馴染とは仲良くなれていた。…トラブルがなかったとは言わないが。
具体的に言うなら、再現だったとしてもゲームの恋愛要素を含めた攻略対象に選ばれるキャラなのだから、その顔面偏差値が高くない訳ないのだ。
酷にも環はその顔面偏差値による弊害を受け、中学までずっとイジメのようなものを受けていた。それも鬱陶しいことに暴力などの直接なものではなかった。
通りすがりで悪口を言うとか、環の使っている物の中に悪口の書かれたメモが入っていたりとか、気付けないくらい微かな程度であるからこそタチが悪かった。
こんなもの、ゲームで見ていた幼馴染にはなかった。
恐らくそれが私にとってゲーム自体の世界ではなく、あくまでも再現しただけの世界であることに気付いた要因の一つでもある。
これでも前世では課金などを自己責任で行える程度には、一応稼いでいた大人である。だからこそ、再現どうこうの話では考えれなかった。
この世界で生きている小川栞として色々と許せなくなって、結果的に幼馴染のメンタルケアに高校入学まで尽くした。
正直、恐らく私はモブでありながらもサポートキャラである、鈴木環の幼馴染として生まれていて良かったと思えることだった。同じくその妹である円ちゃんも同様だ。いくら前世云々があるとしても、手が届く範囲の誰かくらいは助けたいと思うくらいの良心はあるから。
閑話休題。
そういえばゲーム内で鈴木環が年齢を教えてくれることはなかったが、外見年齢を鑑みれば高校生か大学生程度の外見だったかな。
現時点で大学二年生の環なら、そろそろプレイヤーと出会うキッカケに接触していてもおかしくない。というかプレイヤーの外見が主に気になるのでしていてほしい。ぐへへ。
しかし、問題はそんな幼馴染に呼び出されて一言。
「俺、好きな人がいるんだ」と言われた時…。
「えっそうなのデートとかした?」と反応を返したら不満げにされたのは流石に腑に落ちないんですが!??
何となく思い付いたアイディアでやった。
反省はしているが、後悔はしていない。