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★6 円城寺

 女の手を引いてオペ室へ向かう。

 ほの暗い廊下を黙然と歩きながら、僕は身震いするほどの興奮に襲われていた。

 足を一歩踏み出すごとに、止めどなく活力が溢れ出てくる。細胞が活性化し、神経は研ぎ澄まされ、血液が沸き立っている。体感できるほどに、脳内ホルモンが大量に分泌されている。

 ようやく、この時が来た。

 僕は一度大きく息を吸い込み、ゆっくりと静かに吐き出した。

 浮き立つのはまだ早い。気を鎮めて平静を保たなければ、ともすると相手に付け入る隙を与えかねない。まずは術前処置を確実にこなさなくてはならないのだ。

 首筋にメスを突き刺す。頚動脈を切断する。飛沫が上がる。一〇秒後に絶命。

 単純きわまりない作業だが、滞りなく適切に処理しなければ不測の事態だって起こり得る。万一にでも、足をすくわれるようなことがあってはならない。

 ふと、左手に湿り気を感じた。握った女の掌が汗ばんでいる。女のほうを振り返ると、見るからに顔を強張らせていた。

「緊張してる?」

「う、うん。それはまあ……」

「僕もだよ」

 久しぶりのオペであることのみならず、これほどの上物との巡りあわせは、そう滅多にあることではない。過剰に意気込んでしまうのも無理はなかった。

 僕は脱衣所のドアを開けると、念のために室内を素早くチェックした。清潔な状態で整頓され、浴室へのドアも閉まっている。問題ない。

 浴室に常備されたオペセットは、先立ってメンテナンスを終えたばかりだ。何一つ手抜かりはない。

「さ、服を脱ごう」

「なんかちょっと、いきなりすぎない? あはは……」

「そう?」

 またか、と内心辟易するが、顔には出さない。女という生き物は得てして、裸になるまでのプロセスに拘泥する。肩を抱き寄せ、耳元で求愛の言葉を囁き、キスをする。あいにくだが、そんな面倒なことには付き合っていられない。そもそも、もうじきただの肉塊に成り果てるものを愛せるわけがない。

 僕は無言で服を脱ぎはじめた。シャツを脱ぎ、スラックスを脱ぎ、ボクサーブリーフを脱ぐ。

 僕が全裸になってもなお、女は服を着たまま突っ立っていた。

「ユリカちゃんも脱いで」

 これ以上、僕を焦らすな。

「う、うん!」

 女は慌ててウエストのファスナーを下げ、プリーツスカートをすとんと床に落とした。品性のかけらもない下着を身に着けている。

 女はそれから必要以上に時間を掛けてシフォンのブラウスを脱ぎ、ようやく下着だけの格好となった。

 想像どおり、肉づきのいい体をしていた。もぎ立てのプラムのような瑞々しさが、躍動感あふれる豊満な肉体に凝縮されている。非の打ち所がない素材だ。

 女が背中に手を回し、ブラジャーのホックに指をかける。

 そこで僕は女を止めた。

「待って」

「え? な、なに……?」

「ブラは僕が外そう」

 鏡台の前に立つ女の背後へ回り、微かに震える指先でホックをつまむ。

 今ついに、秘境への扉が開かれた。


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