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振り返ると、あなたは  作者: 冬咲しをり
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第2章




第2章 幸せを数えて









わたしには おとうさんいない

おかあさんはいる


からだはわるいところない

でもびょういんいく


おにいちゃんしんじやった

おにいちゃんはぴあのじょうず

わたしはぴあのうまくならなかった


うさぎがすきです。

ぷりんもすき


おにいちゃんすき

はるとはわかんないです。



朝起きて、俺は結月を作業所まで送る。

夕方は作業所から家まで送る。


蓮がそうしていたように。


「結月、鍵は服の中に入れるんだよ」


「わかってる!はると」結月は言った。


鍵っ子の結月は、

いつも首から鍵をかけている。



いつもの作業所の帰り道。


平安神宮の大きな鳥居が見える並木町を通って、いつものバスを待っている。


天真爛漫な結月のことを、

俺は可愛らしく思っていた。


結月の兄の代わりになれやしないが、

それでも何かを埋めてくれる存在でありたかった。


「お母さんは元気?」

俺は何気なしに、結月に聞いた。


「おかあさんこわーい!」結月は言った。


「ふうん、どうして?」


「おさあさんずっとこわい」


「そうなんだ?どうして?」俺はどういうことか分からず、聞き返す。


「おかあさん、こわい」

結月は言った。


「そうかそうか」俺はよくわからず、結月の頭をポンポンした。


結月はえへへー、と顔を赤らめ甘えた声を出した。


「お母さんはどんなときに怖い?」俺は尋ねた。


「おかあさんこわいときわかんない」


「そっか。どんなこと言われるの?」


「あなたはしょうがいしゃだけど、けーどだから、あまえてるんやないわ、とか」


「うんうん」


「そしてゆづきのことたたくの」


「え?」



「ゆづきのおなか、みる?」


「いやいやいや」だいたいわかったが、さすがに14歳の女の子のお腹を見るわけにはいかなかった。


急に疑うのもいけない。結月の作り話かもしれないし。でも心配だな……


「ゆづき、とりーのなかいきたい!」結月は唐突に言った。


「ん?鳥居の中?」平安神宮の中に行ったことがないのか。


「いいよ、行こう」俺は言った。


「2回お辞儀をして、2回手を叩いて、

1回お辞儀だよ。このときにお願い事をしてもいいよ」俺は言った。


「わかった!」


結月は熱心にお願い事をしていた。


「何お願いごとしたの?」


「えへへ。ずーっとはるとといられますように!って」


「え!」俺はびっくりする。


「ねえねえはると。手つないで?」


「え、いいけど」

なんだか不思議な気持ちだった。


平安神宮から出て、バス停に向かう。

信号待ちをしていると、外車が通り過ぎる。


何の気なしに、その中をのぞくと、








結月のお母さんが、男と一緒にいた。









仕事終わりに健司さんと会うことは、私にとってもはやルーティーンだった。


彼は私と同じバツイチだったから、愛し合うのには都合が良い。


「聖子ええんか?こんな時にこんな事してて」運転席から、健司さんは言った。

「いいねん。結月は作業所いるし」私は小さな嘘をついた。


本当は結月は陽翔くんに面倒を見てもらっている。私は母として失格だ。


「聖子、今日すべすべやな」

健司さんは言った。


「ふふ。健司さんのためや」

私の身体はチリチリと高揚し始める。


元夫から多額の養育費を受け取っていた。だがそれも全てエステ代に消えてゆく。だから働いて補填していた。いけないことは、わかっていた。


仕事で、結月を迎えに行くのが間に合わないのは本当だった。


「残念やったな。長男世界的ピアニストに育てて、元夫見返すつもりやったんやろ?」


「ほんま、残念や……」私は悪い女を気取って言った。


元夫は、世界的ピアニストだった。あいつは私たち家族を捨てた。


「俺が慰めたるわ、聖子」


「健司さん……」




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