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愚痴

作者: はの

 目が覚めた。

 つい最近壁にかけられたばかりの時計を見上げると、針は11時少し前を指していた。

 その時計はこの長い春休みに入ってから数週間したころ、つまり一昨日、母親が取り付けたものだ。私は長期休暇に入ると就寝時間が遅くなりがちになる。母は何度も私にいつ寝たの、何時に寝たのと尋ねてきたが、たいてい私は答えなかった。私の部屋には時計がなかった。自室で私が時刻を知る方法といえば、時計のある部屋にいる人に大声で聞くか、持ち込んだスマートフォンで確認するくらいだった。そのスマートフォンが夜更かしの一因になっていることは明らかで、母がそれを取り上げることも少なくなかった。

 時計がないのだと言ったところ、母が持ってきたのがこれだ。私が中学生のころ美術の授業で作ったスクラッチ時計。文字盤にはお世辞にも上手とは言えないレッサーパンダが描かれており、針はプラスチックの板を切り取ったもの、動力は単三電池、時刻合わせは手動で、時計として最低限のことしか出来ない。それは時計として最低限のことは出来るということで、母も私もそれで充分だった。


 起き上がってリビングへ向かうと、妹がいた。パソコンでなにかしていた。おはよう、とだけ言い交し席に着く。そこで最近は常となりつつある、昼食のような朝食を食べた。ブロッコリーと鶏肉のコンソメスープと、バターを塗ったトースト。最後に温めた牛乳を飲んでいると、母がやってきた。先程までトイレから腹が痛いという声が聞こえていた。よくある光景だった。

「あー、痛い。ほんとに生理痛ってなんでこんな痛いんだろ……ん? それ、宿題?」

 妹がパソコンをいじっているのを、宿題かと思ったらしい。

「ううん、違う」

「そう」

 母は何も言わなかったが、私は嫌な気持ちになった。いつもこうだ。私たちが宿題をしているか、勉強をしているかを、母は気にする。ドラマや小説で見るような異常なものではないし、中高生の子を持つ親としては当然なのかもしれないが、気持ち悪い。勉強が一番大事だとでも言うかのようなこの態度が。勉強することを押し付けてくる母が、大人が、世界が私は大嫌いだ。生きていければいいではないか。学問なんて趣味だ。なぜそれを強制するのか。

 選択肢を広げるのだと父は言う。勉強ができれば大学の選択肢が増え、良い大学と呼ばれる場所に行ければ就職の選択肢が増える。そういう考え方がある、と父は言った。どこの大学に行ったか、もしくは行かなかったかで人を選ぶ会社なんてこっちから願い下げだ。学歴社会なんてくそくらえ。大学とは学問を学び深めるところではないのか。

 −−と、ここまで綴ったところで私は睡魔に敗北した。

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