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特級占術師のわたし、王国を追放されたので辺境の地でのんびりお店を経営します~祖国が大災害で滅亡しそうですが知りません~

作者: むつき

 わたしはリゼ。

 ここフィンタリア王国の王宮で働く占術師です。


 占術師とは占術という未来を読む能力を用いて依頼者の吉凶を占い、彼らがより良い運命をつかむためのアドバイスをする職業だ。


 10歳の時にわたしは母の跡を継いで王宮のお抱え占術師になる。

 わたしは日々、国を左右するような難題を抱えた王族や貴族の方々を占い、彼らに適切なアドバイスをしていった。


その結果、フィンタリア王国はわずか5年で大陸でも一、二を争う大国になった。

わたしの功績を認めてくれた国王陛下から『特級占術師』という称号を賜ったりもしたっけ。


とにかくわたしの人生は順風満帆だった。

今日この日までは……。


「では、早速占って貰おうか」


フィンタリア国王ルドルフ6世は、威厳ある声でそう言った。

ここは玉座の間。

国王の前で首を垂れていたわたしは静かに顔を上げる。


「はい、それでは占わせて頂きます」


 わたしはタロットのデッキを取り出すと、目の前に設置されているテーブルにカードを並べていく。

 玉座の間を包む緊張感のある静寂。


 ここに集まっているのは国王陛下や第一王子クロヴィスをはじめ、貴族社会の上位に君臨している者ばかり。

 王国を動かしている重鎮たちの視線が、わたしの一挙手一投足に注がれる。


 それもそのはず。

 近年のフィンタリア王国のめざましい台頭は、わたしの占いがもたらした結果だと言っても過言ではない。

 彼ら重鎮たちは何か重要な政策を実行する前に、必ずわたしに吉凶を占わせる。

 もし占いの結果が良ければその政策にGOサインを出すし、悪ければ別の政策を執る。


 そうやって巧みに立ち回ることで、この国は大躍進したのだ。


 今わたしが占っているのは、一か月後に控えた隣国メギスラント王国への出兵に関する吉凶である。


 最近こういう物騒な政策が増えている気がする。


 わたしは魔力を込めて一枚のカードをめくり、テーブルに置いた。


 カードの絵柄は『天使』。

 幸運、勝利といったことを象徴しているものだ。

 しかし、これは……。


「おおっ! そのカード、天使の絵柄が描かれているが、良い運勢が出たのか?」


 玉座から身を乗り出して訊ねてくる国王。

 わたしは頭を振った。


「いいえ、王さま。この『天使』のカードの向きを見てください。王さまから見て反対向きに出てますから、占いの結果は『天使』の逆位置になります。逆位置で出ると意味が反転します。ですから今度の遠征は不運、敗北の結果になるでしょう。遠征は中止とするのがよろしいかと」


「な、なんだとー!」


 ビックリした。

 心臓に悪いからいきなり大声を出さないで欲しい。


「今度の遠征は長年の悲願だったメギスラント王国のラーポス地方を我がフィンタリア王国の手に取り戻す聖戦なのだぞ! それを中止せよと言うのか?」


 そんなこと言われても。

 占いの結果を鑑みてアドバイスしただけなのに。



 周囲を見ると、みな一様に不服そうだ。


「そうだぞ。たかが小娘の分際で陛下に意見するなどと」

「お前は今度の遠征の重要性をわかっておらんのだ」

「王国の威信に関わる一大政策に、つまらんケチつけおって」


 わたしを擁護する声は一つもない。

 実は今までもわたしの占い結果に文句を言ってくる人はいた。

 それでも何やかや言ってアドバイスを聞き入れてくれてたのに。

 だけどここまで大ブーイングを受けたのは今回が初めてだ。


 さすがにショック……。声が出ない。


「そもそも以前から思っていたのだが、お前は大事な政策の時ほど悪い占い結果を出してくるではないか。これはつまり、お前がこの国に災いを呼び寄せているのではないのか?」


「それは……!」


 言いがかりにもほどがあるでしょ。

 そう言葉にしたつもりだったけど、声にならなかった。

 だって王さまたちが凄い睨んでくるから。


「そうだ! 陛下の仰せの通りだ」

「このインチキ占い師め」

「他国と内通して我が国を混乱させようとしているスパイの可能性もありますぞ」


 うう……反論しなきゃ。

 でも無理。

 だってわたし、まだ15歳の小娘ですよ?


 こんなわたしの付け焼き刃の反論なんか、百戦錬磨の重鎮たちなら赤子の手をひねるように丸め込んでしまうだろう。

 わたしは占術以外のことは、普通の女の子と大差ないのだ。


「父上」

「なんだ、クロヴィス」


 クロヴィス王子。

 常に人を見下したような冷ややかな目つきが印象的な、この国の第一王子だ。


「この女は我がフィンタリア王国に災いをもたらす魔女です。国外追放処分にすべきでしょう」

「むう、しかし占術師が王城からいなくなるのはな」

「ご心配は無用です、入っていいぞイザベラ」


 クロヴィス王子が何やら目配せすると、玉座の間に一人の若い女性が左右に召使いを引き連れて入ってきた。


 イザベラというらしいその女性は入念に手入れされた金髪に派手なドレスを着こなし、高価な装飾品を惜しげもなく身につけている。

彼女は挑戦的な表情で悠然と赤絨毯を歩いてくる。


 いたっ!


 イザベラに後ろから突き飛ばされ、バランスを崩して尻餅をついてしまった。

 その拍子にテーブルからタロットカードが何枚か落ちて赤絨毯にばらけた。


「何をするんですか?」

「フン! あんたみたいなみずぼらしい占術師は、もうこの国には不要なのですわ。これからはわたくしイザベラがこの王城のお抱え占術師となります」

「ええっ」


 イザベラはわたしが愛用しているタロットカードをわざとらしくヒールで踏みつけてクロヴィス王子の隣まで歩いていった。


「クロヴィス、その者は信用できるのか?」

「はい。このイザベラは占術大学で正規の訓練を受けた超エリートです。実力は私が保証しましょう」

「そうですわ。わたくしの占術は最先端のものです。そこの田舎小娘の胡散臭い占術とは違って権威あるものなのです」


 確かにわたしの占術はお母さんが教えてくれた秘伝のものだ。

 でもわたしはお母さんの占術が世界一だと信じている。


 それに占術大学なんて聞いたことがないし、占術なんてマイナーなスキルの使い手がそんなに大勢いるとは思えないけど。


「なるほど、ではイザベラよ。そなたの占術で今一度遠征の吉凶を占ってもらおうか」

「かしこまりました、では」


 イザベラはいかにも高価そうな水晶玉を取り出すと、そこに魔力を込めていった。

 すると、水晶玉に遠征軍が勝利の歓喜をあげているビジョンが浮かんできた。


「陛下。すぐにでも遠征の準備を進めるべきです。遠征軍は必ずや大勝利をおさめるでしょう」

「おお! やはりそうか。我がフィンタリア王国の精鋭軍がメギスラント王国などに遅れをとるはずがないからな」


 王さまはイザベラの占い結果に満足そうにうなづいている。


「それから陛下。やはりその女は災いを呼び寄せる魔性の女です。即刻、国外追放すべきでしょう」


 イザベラはそう言うと王さまになれなれしく触れた。

 王さまの表情がだらしなく歪む。


「う、うむ、そうじゃな。ではリゼよ。おぬしはもう用済みじゃ。明日にでもこの国から出ていくがいい」


 無茶苦茶すぎる。

 しかしこの場にわたしの味方など一人もいない。

 申し開きをする間もなくわたしは兵士に両手をつかまれ、そのまま玉座の間から強制的に退出させられてしまったのだ。





 国外追放処分を言い渡されたわたしはその翌日、フィンタリア城下町の南門に来ていた。

 太陽が真上にあるので現在の時刻は正午。

 雲一つない青空の下、わたしの眼前を市民や商人、冒険者などが往来している。


「はあ……どうしてこうなっちゃったんだろ」


 昨日は悔しさやらショックやら、色んな負の感情でなかなか寝付けなかった。

 多分、今のわたしはすごい顔してると思う。


 わたしが王宮勤めを始めた頃は、王さまはあんな人じゃなかったと思う。

 確かにちょっと短気な所はあったし、怒鳴られたことも一度や二度ではない。


 それでも、わたしみたいな小娘のアドバイスでも、素直に聞き入れる度量くらいは持ってたはずなのだ。

 王国が発展していく内に、どす黒い野望やら欲望が芽生え、人格まで変わってしまったのかもしれない。


 金は人を変える、というのは本当のことだったのだ。

 わたしの5年間の頑張りは何だったのか。

 まあ愚痴っててもしょうがないので、強引にでも気持ちを切り替えるしかない。


「それにしても、もう約束の時間は過ぎてるはずだけど……遅いなあ」


 昨日の夜、わたしの家に使者が来て、明日の正午に城下町の南門に来るように言われたのだ。

 わたしは国外追放処分を受けた身なので、可及的速やかにこの国から出ていかなければならない。

 でもわたし一人で国境までの旅は危険ということで、国境近くの街まで王宮の衛兵がひとり護衛をしてくれることになったらしい。


 その衛兵との待ち合わせ場所が、この南門というわけなのだけれど。

 さっきから辺りを見回しているんだけど、それらしい人影は見当たらない。


「もしかして、遅刻かな」


 だとしたら王宮勤めの衛兵にあるまじき、職務意識の低さである。


 まあわたしみたいな国外追放処分を受けた人間の護衛に回されるのだから、あまり優秀な人物ではないのだろう。

 それでも護衛を付けてくれるだけまだマシだけれど。

 道中には野盗や山賊といった犯罪者や、魔物などがうろつく危険なエリアがいくつもある。


 15歳の女の子がひとり旅して無事で済むわけがない。

 だからこうして護衛が来るのを律儀に待ってるというわけだ。


「リゼ・アコルドさんですか?」


 名前を呼ばれたので振り返ると、ひとりの衛兵が立っていた。


「はい、そうですけど」

「遅れてすみません。僕が貴方の護衛を務めることになった、ミロシュと申します。よろしくお願いします」


 ミロシュというらしいその衛兵は、人のよさそうな笑顔を浮かべて何回か会釈した。つられてわたしもペコリと頭を下げる。


「リゼです。こちらこそよろしくお願いします」


 ミロシュは金髪でわたしより少し年上っぽい感じの青年だ。

 王宮の下級衛兵に支給される鎧を身につけ、手には鉄の槍が握られている。腰にも鞘に収まった片手剣を携えているが、両方使うのだろうか。


 だが、衛兵にしては線が細く、あんまりこんな事言いたくないが、お世辞にも強そうな人物には見えない。


「それでは出発しますが、準備はよろしいですか? 何か忘れ物とかないですか?」


 まるで遠足にでも行くかのような緊張感のない言葉に、わたしは思わず「くすっ」と微笑してしまった。


「大丈夫ですよ、ミロシュさん。昨日、入念に準備しましたから」


 まあ、準備といっても大事なものはお母さんの形見であるタロットカードぐらいしかないんだけど。

 その他の持ち物はわずかばかりのお金と、護身用のショートソードだ。


「そうですか、それならいいんです。では、行きましょう」


 それだけ言うと、ミロシュさんは南門の方へと歩きはじめた。

 わたしはミロシュさんの後ろに付いて、南門をくぐる。


 城下町から一歩外に出ると、そこは見渡す限りの平原地帯だった。

 わたしは生まれてから一度も城下町を出たことがないので、その悠大さに少し圧倒された。

 南門から地平線のかなたまで一本の街道が伸びている。

 この街道を通って国境まで行くのだろう。


 街道には、旅人や隊商の列などがチラホラ歩いているのが見える。

 冒険者や騎士団の人達が定期的に魔物狩りをしているので、城下町の近くは比較的安全なのだろう。


 わたし達はさっそく街道を歩き始めた。

 美しい緑と空の景色、それからあちこちで動いている小動物や鳥などを眺めていると退屈しない。

 しかしミロシュさんはさっきからせわしなくキョロキョロしている。


「あのー、ミロシュさん。そんなにキョロキョロしてどうしましたか?」

「いえ……魔物が奇襲してこないか、警戒しているのです」


 この辺りはまだ城下町からそんなに離れてないから大丈夫だと思う。

 それに視界をさえぎるものは何もないから、もし魔物がやってきてもすぐ気づける。

 まあ油断しないに越したことはないんだけど。


「あんまり気を張りつめすぎてると疲れませんか?」

「だけど、恥ずかしながら、僕まだ魔物との実戦経験がなくて……急に襲われないか、不安なのです」


 魔物との実戦経験がない?

 思わず顔が引きつってしまった。

 わたし、無事に国境までたどり着けるのかな……。


 しかし、嫌な予感というものは得てして実現してしまうもので。


「うわっ! で、出た!」


 ミロシュさんの叫び声で振り向くと、黄色い毛並みをした狼型の魔物が2匹、行く手を遮っていた。


「「グルルルル……」」


 2匹の魔物はうめき声をハモらせながら、今にもこちらに向かって飛びかかってきそうにしている。


「こ、こいつは『ウルフ』です! すばしっこくて、噛みつき攻撃をしてきます! 低級な魔物ですから、だ、大丈夫です! なるべく僕から離れないように」


 ミロシュさんはわたしにそう助言しながらも、剣を握る手が震えている。

 ここは、わたしも手伝った方がいいのではないだろうか。

 そう考えたわたしはカバンからタロットカードを取り出した。





「グルアアア!!」

「わあっ! き、来た!」


 二匹のウルフが同時にミロシュさんへと飛びかかる。

 だが、ミロシュさんは片手剣でウルフの嚙みつき攻撃をどうにかしのぐと、力任せに振り払った。


 ウルフたちは一旦後方に下がると、両者睨み合いとなる。

 頼りなさそうに見えたミロシュさんだったが、そこは腐っても王宮勤めの衛兵。あの程度の攻撃なら捌けるらしい。


 だが、どうにも攻めあぐねている。

 どちらのウルフを先に叩くべきか迷っていて、それが微妙に動きを鈍らせている、わたしにはそう見えた。


「それなら!」


 わたしはタロットカードのデッキをシャッフルすると、一枚のカードをめくる。


 【斥侯】のカード。


 このカードは相手の強さを数値化して見せてくれる効果がある。

 相手の情報を手に入れれば、攻略の糸口をつかめるはずだ。

 魔力を込めるとカードの効果が発動し、わたしの眼前に文字や数字の情報が書かれた光のウインドウが浮かぶ。


 ウルフA

 LV3

 HP15


 ウルフB

 LV2

 HP11


 ウルフAの情報が書かれたウインドウが右のウルフ、ウルフBの情報が左のウルフの上あたりに表示されている。

 同じ種類の魔物でも、ステータスに微妙な違いがあるらしい。

 右側のウルフAよりも、左側のウルフBの方が若干弱いようだ。


「ミロシュさん、まず左のウルフから倒してください!」

「え? は、はい!」


 わたしの指示を聞いたミロシュさんは、まず片手剣を振り回しウルフAを遠くへと追い払った。

 そして素早くウルフBに向き直り、片手剣で斬りつける。


 キャン、と短い鳴き声を発してウルフBが倒れる。

 ウルフAが遅れて飛びかかってきたが、ウルフBに気をとられる必要のなくなったミロシュさんは、ウルフAの動きのみに集中していた。


 ズバッ! と片手剣の一閃を受けたウルフAはそのまま地面へと落下、絶命した。


「か、勝った……! 何とか勝てたぞー!」


 ミロシュさんは嬉しそうにガッツポーズをしている。

 だがすぐに慌てた様子でわたしの方に向き直った。


「はっ! リゼさんを差し置いて喜んでしまいました、申し訳ありません。リゼさんの的確な指示のお陰で魔物を倒すことができました! ありがとうございました」

「ミロシュさんの日頃の訓練の賜物ですよ。わたしはほんの少しお手伝いをしただけです」

「おお! 何と謙虚なお方だ。とても王さまをたぶらかすような魔女には見えませんが……」


 えっ。

 わたしのこと、そういう風に聞かされていたのね。

 悪評を聞かされていたにも関わらず精一杯わたしのために戦ってくれたなんて、いい人じゃないですか。

 頼りなさそうとか思っちゃってごめんなさい。

 そんなことを考えながら旅を再開した。


 しばらく歩いていると、ふと気になったことがあったのを思い出した。


「そういえば、ミロシュさん。槍も持ってたのに、さっきの戦いでは結局使いませんでしたね」

「ああ、はい。実は僕、剣術と槍術、両方使えるんですが、片手剣の方が修行歴が長いので」

「ということは、剣術の方が得意だと」

「ええ、一応そうなんですが……」

「一応?」

「実は……衛兵になりたての頃、お世話になった先輩からはお前は槍術の方が向いていると言われまして。試しに槍術をやってみたら、自分でも向いてるとは感じていたんです」

「でも、片手剣の方が修行歴は長いと?」

「それは、衛兵になって半年くらい経ってその先輩が異動になっちゃったんです。それで新しい上司が槍術を辞めて剣術に切り替えるよう命令してきたんです」


 それで剣と槍、両方持っているというわけだ。てっきり武器違いの二刀流なのかと思っていた。それはそれで凄そうな気はするが。


「僕って自分の意志が弱くて、すぐ誰かの意見に流されちゃうんですよね。自分でも女々しいとは思ってしまうんですが。剣と槍、どっちを極めるべきかまだ悩んでいるんです」


 なるほど。

 剣と槍、どちらも中途半端だから王宮からはあまり評価されていないのかもしれない。

 それなら、こうして一緒に旅をしているのも何かの縁だ。

 ミロシュさんのために、一肌ぬいであげますか。


「ミロシュさん、もしよろしければ、わたしが占って差し上げましょうか?」

「え? 占う?」

「はい! あなたの進むべき道を」


 わたしはお母さんの形見であるタロットカードを取り出しながらそう言った。





 一方その頃、フィンタリア王城の玉座の間。


「陛下、定例報告書です」

「うむ、ご苦労。下がってよいぞ」

「はっ、失礼します」


 玉座の間を後にする大臣の後ろ姿を見送ると、ルドルフ6世は報告書に目を落とした。

 読み進めていくうちに国王の顔が険しくなっていった。


「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」


 報告書に書いてあったのは、先週カールト地方を襲った大雨による損害状況をまとめたものだった。


 これまでほとんど天災とは無縁だったカールト地方は、この国の一大穀物地帯であり、フィンタリア王国の食糧庫といえる地方として知られていた。


 そのカールト地方を、数十年ぶりの大雨が襲い、川が氾濫してかなりの量の穀物が被害を受けてしまったという。


 その損害額には、さしものルドルフ6世といえども頭を抱えるしかない。


「まさかカールト地方が水害に見舞われるとは……。事前に予測できていればいくらでも対策を講じられたというのに……」


 溜息交じりに次の報告書に移る。


 どうやらラーポス地方に派遣した部隊がメギスラント王国軍相手に苦戦しているらしい。


「戦力ではこちらが上のはずなのに、なにを手こずっているのか」


 ラーポス地方を制圧するのに充分な戦力を派兵したと思っていたのだが、メギスラント王国が隣国のシュベルニー公国と同盟を結び、援軍を送ってもらったらしい。


 メギスラント王国の予期せぬ外交策。


 それによってラーポス地方制圧は失敗に終わってしまった。


「メギスラントめ……、だがシュベルニー公国も所詮小国。我がフィンタリア王国の敵ではない。更に軍備を増強して今度こそ叩き潰してくれる」


 メギスラント派兵軍を一旦帰還させて、部隊を再編成してもう一度ラーポス地方に攻め込もう。今度は前回の3倍くらい戦力を増強してやれば、シュベルニー公国の増援があっても力押しできる。


 財務大臣と今後の軍事増強計画を立案せねばと腰をあげた、その時。


「王さま! 大変でございます!」


 一人の兵士が血相を変えて玉座の間に駆けつけてきた。


「なんだ? ワシは忙しい。要件なら後で……」


「メギスラント派兵軍が、土砂崩れに巻き込まれて全滅しました!」


「な、なんじゃとー!?」


 ルドルフ6世の顔から血の気が引いていった。





 わたしは国境近くの街まで無事にたどり着いた。


 道中何度も魔物が生息する危険なエリアを通過したが、わたしの占いによって迷いが吹っ切れたミロシュさんの活躍で切り抜けたのだ。


「リゼさん、ありがとうございました。これからも槍術一本に絞って鍛錬を続けていきます!」


「はい。頑張ってくださいね」


 ミロシュさんの背中を見送りながら、わたしはこれからのことを考える。


「この国境を超えたら辺境の地カムラカなんですね」


 視線の先に広がるまだ見ぬ世界に想いを馳せながら、わたしは歩み出す。


 辺境の地にいったら何をしよう。


 子供の頃からの夢だった占い屋をやってみるのもいいかもしれない。


 この先何があるかわからないけど、きっと大丈夫。

 カバンの中のタロットカードが、わたしを導いてくれるから。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

もし連載することになったら、その時はまた応援してくださると嬉しいです。

ではまた!

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