こんにちは、異世界
「……はあぁぁっ!?」
大きな声が無駄に広い部屋に響き渡る。
「で、ですから。大変に申し訳ないと思っておりますが、そこをどうか!」
鎧に身を固めてはいるものの、見るからに痩せて貧弱そうな男性がおどおどしながら必死に懇願する。
こんなんで大丈夫なのか?この国の兵士は。
「勇者よ、この世界を救って欲しいのだ。このままではこの国は滅んでしまう。そなたの力が必要だ。欲しいものがあれば何でも与えよう。だから…」
異世界の王と名乗るものが、俺が全然乗り気でない事に焦りを覚えているのは見てとれた。
「何でも、だと!?ふざけるなっ!!元いた世界に帰れないなんて、俺は………っ!」
見よ!この、正装姿を!一生に一度の結婚式を邪魔しやがって!畜生!!せ、せめて花嫁のウエディングドレス姿を見てみたかった…っ!!
………まあ、友達の結婚式だけどね。
そう、何を隠そう俺には恋人すらいないのだ。結婚式なんて、俺には全く縁のない話。そもそも友達も少ないから結婚式に招待してくれそうなやつなんて、他にいないのに。きっとこの結婚式が人生最初で最後だったろうよ。畜生。
なのに、教会の指定席に座ったと同時に眩しい光に包み込まれ、気がついたらテーブルごとここにいた。
「勇者」という響きに憧れはあるけれど、頼りなさそうなヒョロヒョロメガネで、しかもオタクの俺に勇者なんて大役が務まるわけがない。どうせなら俺は、村人に転生してちょっと強すぎるスキルを使うファンタジーが良かった。勇者とか無理。勇者とか無理。俺には無理。無理。
「では、最終手段を使うしかないか……」
何?最終手段、だと!?
「勇者に…とても心苦しいのだか隷属の首輪を…」
「…ちょっと待ったぁ!」
そちらの都合で呼ばれて来たのに奴隷になれと!?っていうか、この世界に奴隷制度とかあるのかよ!
「では、勇者をやってくれるのかな?なぁに、心配など不要じゃ。召喚されたものは大抵、成長が早いもんじゃ。ちゃんとした教育係もつけるしの」
「………分かりました」
この、なんだろうな。俺に選択肢がない感じ。とてもつまらない。
「それじゃ、早速ステータスオープンと言いたまえ。何かオプションがついてるはずじゃ」
これもまあ、テンプレだな。勇者が召喚されたからまずは能力チェックっていう。俺はオタクだ。何が来ても使いこなして見せる!!
「ステータスオープン」
目の前に透明な板のような物が現れた。よく見ると文字が書かれている。
名前:神崎 優次郎 (かんざき ゆうじろう) 【Lv.98】
なるほど。まずは名前とレベルか。レベルは98。この国の平均とかわからないけど…まあまあ、スタートにしては良いかんじなんじゃないか。……ん?
名前の下に早速オプション1が書かれていた。
(※オプション1、名前の変更が一回限り可能)
…………。
ぶっちゃけいらないオプションだな。まあ、もらえるものは貰っておこう。
年齢:18歳(※オプション2、地球での年齢-12歳される)
お!これはありがたい!30歳で異世界勇者って結構きつい設定だからなぁ。体力的に。
称号:勇者、地球から来た者
うんうん。で……
スキル:転移、空間魔法、鑑定
はぁ!?こ、攻撃系のスキルがないぞ!?これは積んだな。っていうか、俺勇者だよな??何使って戦うの!?っていうか、このスキルで俺は何をどう救えば良いんだ?まぁ、教育者が付くんだっけ?何かしら教われるかな。
ランク:N
え、エヌ…よく分からん。A、B、C、D、…考えるの止めよ。
装備:スーツ、メガネ
魔力:999,999,999/1,000,000,000
(現在の魔力消費数 1)
お!?やった……?魔力値のこれは、高いのかな?ただ、この1足りないのが気になる。何に使ったんだ?
体力:200 知力:2,500 速度:最大値
この辺の数字は…凄い差だな。速度の最大値って具体的な数字は分からないのか。
「な、なんじゃと!?」
こそこそと王の耳元で従者が何かを囁いていた。
(何があったんだ…)
「勇者だと言うのにランクがNだと!?」
やっぱりNだと何か不味いのか?AとかせめてCじゃないと都合が悪い的な……
「普通は勇者ならURだろう!?」
っておい!俺はゲームのガチャか何かか!?ランクってレア度かよ!ってことは、Nって、ノーマルのN!?レア度Nの勇者って…この世界は勇者で溢れてんのかよ。
「もう1人同じキャラのNの勇者を召喚して合成をしてやっとR、URまでいくには…頭が痛いわい」
なんだよ!同じキャラって!俺が何人もいたら気持ち悪いだろうが!それに王様Nキャラもちゃんと育てるんスね!
「王様。ですが召喚するといっても石が足りません」
「そんなもの、買えば良いじゃろう!?」
まさかの課金勢かよ!?さすが国王だね!って石で召喚ってゲームのガチャみたいなノリで呼び出すのほんとやめてもらえる?
ゴホン。
王が咳払いをする。
「お金あげるから好きなとこ旅だって良いよ」
「え!?ちょっと!」
騎士に捕まり、あっという間に外につまみ出されてしまった。
「ほんと、まじでなんなの!?まだ俺、何も教えて貰えてないんだけど~~っ!?」
ありったけの声を出して叫んだ俺の声は、閉め出された門の前で虚しく響いただけだった。