其の四、死屍累々に隠れて
この時期が来ると思いだします。
これは、じっちゃんに昔、私に話した戦時中の体験談である。
今思えば、亡くなる前にしっかりと聞いておけば良かったなあと、ふとたまに思ってしまう。
あまり昔のことを語らないじっちゃんが、なにかのきっかけで昔を思い出し、ゆっくりと話はじめた。
後にも先にこれっきりだ。
当時は中学生ぐらいの私は、あまり興味がなくて聞き流したような記憶がある・・・でも、覚えているのは、それはとても印象深い話だったからだ。
じっちゃんは戦時中、他国(自分の記憶が曖昧)の戦地へと赴いていた。
私は橋を巡る攻防戦に参加した。
そこは阿鼻叫喚というべきか、この世のものとは思えない恐るべき光景が広がっていた。
敵味方の屍が死屍累々と横たわり、激しい銃撃戦が繰り広げられている。
私は死を覚悟して走る走る。
その時、私の膝を銃弾が貫通した。
激痛でのたうち回りながらも、私には生への執着があったのだろう。
銃弾の雨あられの中、死体の中に身を隠し、銃撃戦が終わるのを待った。
いつ終わるともわからない戦い。
耳をつんざく銃器の発砲音に、私は死を覚悟しながら生を渇望した。
長い、長い時。
おわれ、おわれ。
ひたすら願う。
お国の為に死すのも生きるのも天運。
はたして、私は生き残った。
私は日本に戻ると、勲章をいただき、療養を言い渡された。
生きている・・・これは喜ばしい・・・ことなのか。
しかし、療養の温泉地から見る青空のなんと素晴らしいことか。
じっちゃんは、それから戦争について、私に語ることはなかった。
リアルな話は、戦争を知る由もない私にとって、ふと身近にあったということを気づかせ強く印象づけた。
そんなお話。
じっちゃんの話。