表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

其の三、隠恋慕

 なかなか洒落たタイトル気に入っています。

 

 江戸の初期、小さな村は互いに土地の所有を巡って、もめごとを繰り返し反発していた。

 互いの村長(むらおさ)が、それぞれの息子と娘を縁組させることにより、一つにまとまることで争いをおさめさせようとした・・・が、しかし、祝言を前に村人たちの紛争が勃発し、この婚姻は御破算となってしまった。


 ふたつの村長の息子と娘は互いに好き同士であった。

 元々、決められたという括りではあったが、当時は当たり前のこと、幼き頃から親の許しある公然とした仲、2人は疑う余地もなく、ともに睦まじく恋焦がれ愛を謳歌した。

 祝言を心待ちにし、息子は日々逞しく、娘は日ごとに美しくなっていった。

 だが、此度のことが起こり、2人の仲は真勝手に引き裂かれてしまった。


 2人はそれでもと結婚の許しを得るべく、親に懇願した。

 だが、村長たちは「諦めよ」の一点張りだった。

 息子と娘は決心した。

 家を飛び出し、駆け落ちをしたのだ。



「はあ、はあ」

「はあ、はは、はあ」

 2人の息は荒く、長いこと山を駆けていた。

 夢と希望が満ち、明るい気持ちが疲労困憊の身体を後押しする。

「はあ、(えにし)・・・ここまで来れば、少し休みましょう」

 玉のような汗をかきながら、うら若き乙女は上気させた頬に瞳を潤ませ睫毛を伏せる。

「しかし、(かなで)。早く村境を抜けないと・・・我らを捕らえようと追手がやってくるかもしれん」

 縁は筋骨隆々とした体躯で、精悍な顔立ちをしていて、その瞳は警戒を怠らず微塵も油断をみせない。

 

 そっと、奏が縁の手に手を重ねる。

 刹那、男の気持ちが緩む。

「これだけの距離、しかも山奥を長く駆けてきたのです。もし、追っ手をよこしたとしても、よもや追いつけはしないでしょう」

「しかし・・・」

 縁は欲と誘惑を懸命に抗う。

「少しだけ・・・少しだけ・・・休みましょう」

 奏の両腕が、縁の隆々とした身体に巻きつく。

「奏」

 男は力強い腕で女を抱きしめた。

「縁」

 若い2人は互いに溺れた。

 我を忘れて本能の赴くまま貪った。


 気づけば一時(いっとき約二時間)が経っていた。

 縁と奏が我に返ると、視界にちらちらと灯りが煌々と照らしだされていた。

 村人が咎人を捕らえるべく山狩りにやって来たのだ。

 若い夫婦は近くの朽ち果てた大木の大穴に身を潜め、息を殺して難を逃れようとする。

 見つかれば村の掟に背いた罪で死は免れない。


それは、無論、互いに承知の上。

「ふふ、かくれんぼ」

 こんな時に、奏はくすくすと笑いながら囁いた。

「馬鹿、見つかれば、無事じゃ済まない」

 縁は力を込め、ぎゅっと奏を抱きしめる。

「私は今、幸せですよ」

「奏」

「後悔なんてしていません」

「俺もだ」

「ふふ、嬉しい」

 奏は縁に優しい口づけをすると、そっと右手の平に懐剣を渡した。

「・・・これは?」

「もし、かくれんぼに見つかってしまったら、これで私を刺して」

 奏は迷いのない笑みを見せる。

「愛おしい、我が妻」

「旦那様」

 2人は固く抱きしめ合う。


「そんなことは、万が一つでもない。必ず逃げてみせる・・・だが、だが、かなわぬ時は、ともに黄泉へとまいろう」

 男は一縷の望みにかける。

「はい、旦那様」

 女は至福の時を。



 松明の灯りが近づいて来る。


 はたして二人の運命は。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 隠れきれるか、死か。 命をかけたかくれんぼですね〜。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ