第2話 ドキッ☆波乱の予感新学期
「それじゃぁ行くッスよ、アニキ」
玄関先の大きな鏡で前髪を整えながら、小夏が呼びかける。
「ああ。」
196センチメートルの長身に似合わぬピチピチのブレザーを身に纏い、義兄の青瞳は義妹の小さな背中について行く。
「アニキはただでさえデカくて怖く見えるんスから、クラス替えがあっても、しっかり初対面のクラスメイトにはあいさつして、余計な敵作らないようにするんスよ!」
半ば睨みつけるように小夏は、この無口で唐変木な筋肉質の兄に言い含める。青瞳は小さく、「うん、分かった」とうなづいて見せた。
「ふぅー、新学期……別になにも変わってないだろうけど、なんか緊張するっスね。というか一緒に登校するのは初めてだし。」
小夏はそう言ってクリーニングから上がりたての制服を不安げにチェックする。
「学校では、あまり暗殺は仕掛けない方がいい…」
"俺以外の人間への被害が出そうだから" そう言いかける青瞳を遮って小夏は
「わーかってるっスよ!!一般ピーポーに迷惑かけるつもりないっス!あたしはアニキだけ殺れればいいんスから……」
物分りの良い妹で助かった、そう言うかのように青瞳は微笑んだ。
「…………な、なに邪悪な顔してるんスか…」
……………………微笑んだつもりなのは本人だけのようだが。
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「久々の学校もなーーにも変わってないっスねえ~」
校門に近づくと小夏は無表情に言い放った。
「ああ…。だけど小夏が隣にいるのは新鮮。不思議な感じがする。」
「そりゃそうッスよね~急に"兄妹"になったんスから。」
そう言って小夏はニシシっと笑う
「父さんが、急に小夏を連れてきた時は驚いた…。『今日からお前の妹だぞ!』なんて言うし…。」
「そのあと直ぐにかーちゃん連れてドバイに旅行行っちゃうんスもんねぇ~無責任もイイトコっスよ」
頬を膨らませてボヤく小夏を見下ろしながら、青瞳は目を細めて呟く。
「小夏も小夏で、急に刃物を向けてくるから驚いた……。まあ、慣れていたから驚いただけで済んだけど」
「え、アニキあれ驚いてたんスか??無表情で固まってたから全然効いてないと思ってたっス」
「何故か昔からよくある。大丈夫だ。慣れている」
「どーりでいつもあたしの攻撃は効かないハズっすねぇ…というか慣れてるって………」
「いや…小夏も筋はいいと思う。この調子で頑張って欲しい。」
真顔で親指を立てる青瞳を呆れたように小夏が見上げる。
「あはは……自分を殺しにかかってる相手を応援っスか……………余裕っスねぇ………」
談笑しつつも桜舞い散る校門をくぐり抜けようとしていた。桜は舞い、2人の髪をすり抜けてゆっくりと地面に落ちる。さながら爽やかな青春のワンシーンのように見える、そんな和やかな静寂を…………………………………
飛んできた1足のローファーが破る。
「うわぁっ?!?!な、何事っスか?!?!」
ものすごい勢いで飛んできたローファーは一直線にこちらへ向かい、青瞳の顔面スレスレで後ろの桜に突き刺さり、その大木はとんでもない量の土埃を立てて倒れた。
ズシィイイイイイイイイイイン…………………
平常と変わらぬ顔で青瞳はローファーの発射源を見据える。
「チッ………ギリギリはずしてしまったみたいね…」
桜の花を体現したかのような美しい髪をツインテールに結い、美しい脚を大きく広げた美少女が、桜並木の元に立っていた。
「新学期そうそう、この私を忘れて他の女と登校…………?!随分偉くなったみたいねぇ!!青瞳!!!!」
緋色の目をカッと見開きこちらに怒号を飛ばす彼女。距離こそ遠かれ、今にも掴みかかりそうな気迫だ。
「………………………蓮華、おはよう」
青瞳は素知らぬ顔で挨拶を返す。傍らで呆然とした小夏が涙目で叫ぶ。
「いやおはようじゃないっスよ!!!誰スかこのバイオレンスDQNツインテールは!!!!!!!!」
ピクリ、とツインテールの彼女『蓮華』の眉間が揺れる。
「一体どういうことか、説明して貰いたいわねぇ……………………………!?!!!!」
新たなヒロイン(?!)の登場に荒れる現場。どうなる東橘家、どうなる青瞳の新学期、そしてどうなる、犠牲になった桜……………………
次回!!『正ヒロインはこの私、明日場蓮華よ!』
お楽しみに!!