第92話 現人神
その時間は一瞬の出来事で、しかし長くも感じる感覚だった。
突然押し寄せられて奪われた口づけに、動揺と驚愕で判断は鈍り、されるがままにキスをされる。
「~~~~ッ!! ~~~~~~ッ!!!!」
だけど、まだ只の口づけならば、まだ幼い少女の身体を押しのけて離れる事が出来たかもしれない。
しかし正樹は押しのける事をしなかった・・いや。
出来なかった。
「わぁ・・ッ。 へぁ?! そ、そんな舌を・・ほぁぁぁぁああああッ!!!」
間近でピースと正樹のキスに直面したアンナは顔を真っ赤にしながら両手で顔を覆い、けれども指の隙間からしっかりと2人の様子を凝視している。
因みにグレンは正樹に対して怪訝な表情と哀れんだ瞳で見ている状態だ。
「ッ~~~~~~ぷはぁ!?」
ほどなくしてようやく解放された正樹は数歩後ろに後退してピースとの距離を置く。
「い、いきなりなに・・を・・・」
口を手で覆いながらピースを見る正樹は、ある異変に気付く。
さっきまで目の前にいたピースの身体が何故か大きく見えるのだ。
茶髪の髪の一部が淡いピンク色に変化しており、姿も10歳ほどの少女から正樹と同じ歳か少し上くらいの年齢の女性がいた。
「・・・だれ?」
正樹の疑問とした言葉と同時に近くにいたアンナとグレンもピースの異変に気付いた。
「ピ、ピースちゃん?」
「おいおい・・なんだこれ」
突如として出現した女性は瞑っていた目を開けると正樹と目を合わせる。
その瞳はまるですべてを見透かすような奥ゆかしさがあり、凍り付かせるように鋭い眼力を感じる。
『突然の無礼な行為。 どうかお許しください』
「「「 !? 」」」
ピース?が大人になった姿の女性は口を小さく動かしながらも、且つまるで脳内に直接話かけてきているかのような声を発した。
(この感覚は・・さっきのサル達となんだか似てるような?)
サル達も口を動かして話しているようにも見えたが、よくよく考えてみれば口数と言葉があっていないように感じていた。
『今の私では力を一定の力を取り戻すには、貴方の力を頂く必要がありました。 その為、あのような行為を行ったことを深くお詫び申し上げます』
「え・・いや、それは良いんだけど。 まず、アナタ誰ですか?」
正樹の呆けた顔での質問に女性はクスリと笑みを浮かべた。
『私の名前は、そうですね。 結構気に入った名前になったのでこちらで自己紹介しましょうか』
女性はアンナと正樹の顔を交互に見ると、軽く会釈をする。
『改めまして。 私の名前はピース。 この世界の神でありながら人間として生を受けた、現人神です』




