第88話 悲惨な光景
「なにあれ・・・」
英雄の国の変貌を目の辺りにして、到着直後すぐにグレンと別行動をしていたテレサは、夜空の変化と、その上空に開いた空洞のような物を見上げていた。
「テレサさんッ?! すみません! 少し手伝ってもらえませんか?!」
「は、はいッ!」
冒険者ギルドの本部へ国民を非難させる為の応援を依頼しに来たハズだったのだが、ギルド本部はテレサが訪れた時には、すでに半壊している状態だった。
名のある冒険者達が集う英雄の国。
それを誇る大規模ギルドである場所が一晩も持たないなんて事があっていいのだろうか。
冒険者とギルド職員達の大半は謎の化け物との応戦で半数がやられたという。
今はギルドから少し南西方向に離れた教会に国民と共に避難していた。
ここは英雄の国の観光スポットの1つ、【 永遠に結ばれる教会 】。
永遠の愛を誓い合う夫婦が選びたい結婚式場でも人気なここは、より多くの人々から祝福されるように広々とした土地の中心部に建築されている。
その為、国の緊急避難場としても指定されている事や、教会のシスター達は全員ランクの高い元魔術師である事から教会全体に結界を張ってくれている。
おかげで化け物達が教会の中にまで侵入してくる事はまだ確認されていない。
「ごめんなさいテレサさん。 応援を要請しに来たのに返って私達が頼ってしまう形になってしまって」
「仕方ありません。 こんな状況ならどうしようも・・・・」
しかし、結界に守られているからと言って、教会内は騒然としていた。
教会まで続く道までに多くの国民の人々が倒れていた。
ここに来るまでに怪我をした者。
現実を受け入れきれずに錯乱している者。
はぐれた家族を探している者。
そして・・すでに命を・・・。
「~~~~ッ」
テレサは背けようとした現実から目を離さないように頬を叩く。
(今は自分が出来る最善の事を考えるんだ。 先輩もきっと、今この瞬間もそうしているはず!)
夜空が真っ赤に染まった事や空洞のような物が現れた事はグレンに託して、テレサはギルド本部の職員の恰好をした女性に案内され、教会の中に入る。
「なに・・・これ」
教会内は外の庭園よりも酷い事になっていた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!!」
「誰か助けてッ?! いやだ・・いやだァアアアッ!?」
「ヒヒッ・・死ぬ・・皆死ぬんだ・・ヒヒヒ・・」
悲鳴・苦痛・絶叫。
人が言葉に出来る悲痛な光景が広がっていた。
「あの、この人達は一体・・」
「分かりません。 ここにいる方々は騎士団の兵士や一般人、さらには冒険者など多種多様な方々がここに避難してきたと同時に苦しみだしました。 今は教会のシスター達の治癒魔法で抑え込んでいますが、ご覧の通り人で不足で全員を見る事が出来ない状態です。 テレサさんは確か魔法の方は?」
「は、はい。 少しですけど初級の治癒魔法ならなんとか」
「助かります。 それでは先の奥にいる女性からお願いできますか? 恐らく彼女がここの中で一番の重症者ですから」
「わかりました!」
指示された奥にいる怪我人の元へ駆けよる。
しかし、奥に進むにつれてベッドに横たわる人達の悲鳴が段々と強くなってきて、今にも気が狂いそうだ。
そんな中でも1つ、テレサはどうしても気になる点があった。
それは、悲鳴を上げる患者のほとんどが、頭に角のような物が生えている。
まるで、教会の外に今もいる化け物と同じような角だ。
「おまたせしました!」
気になる点ではあるが、先に頼まれた怪我人の治癒を優先したテレサは、すでに3人のシスターに治療を受けていた奥のベッドに辿り着いた。
治癒魔法を3人がかりとなると想定した以上の重症者のようだ。
気を引き締め直してベッドに横たわる怪我人にシスター達に変わって治癒を施そうとした。
「え? なんで、この人が・・?」
その時だ。
シスター達に変わって怪我人に近寄った時、テレサは一瞬、他人の空似だと思った。
しかし
まだちゃんと会話をした事が無かったが、想い人に近寄る女性と言う形でテレサの脳内記憶にバッチリと把握していた事から、彼女が記憶にある人物と同一人物である事を確信した。
「確か名前は・・ゆき・・さん?」
ベッドに寝ていたのは英雄の国に来て、1番に別行動をした人物。
由紀だった。




