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ヤンデレ彼女も異世界へ!  作者: 黄田 望
第二章 【 魔王と神 】
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第80話 鏡の知らせ ②


 『これはこれは由紀様! ピース様の情報収集お疲れ様でございます!』


 粉々に割れた手鏡の破片から聞こえてくるのはマリーの専属執事であり禁忌目録で不死の身体を手に入れたと同時に鏡の顔を手に入れた男、カガミの声が聞こえる。

 グレンやテレサを含めた周囲の人間達は鏡から聞こえる男の声に不気味に感じながら平然として鏡に返答する由紀をマジマジと眺めていた。


 「貴方どうしてそんな所から声が聞こえるの?」

 『いやはや、これには山より高く海よりもふか~い理由がございましてですね?』

 「へ~? もしも正樹さんがあの淫乱に取られたとかの理由で逃げ出したのなら殺すわよ」

 『はっはっは! 近からず遠からずと言った所でしょうか! ・・・あ、すいませんふざけ過ぎましただからその黒いオーラを放つのやめてもらっていいですか?!』


 カガミのとぼけた会話に苛立ちを覚えながらいっそにこと粉々になった鏡を消滅させよとも考えていた由紀だったがカガミの次のセリフに衝動を抑える。


 『実は、正樹様が今行方不明となっております』

 「・・・は?」


 やっぱり、この鏡を消滅させよう。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 今にも黒いオーラで攻撃されそうになっていた所をなんとかなだめる事に成功したカガミはここまでの事柄を説明した。

 正樹が急に鏡の中から消えた事。

 続いてアンナとピースも鏡の世界へと引き込まれ行方不明になっている事。


 「それで? 今正樹さんはどこにいるのか見当はついてるんでしょうね?」


 散らばった鏡の破片をそのままにしておくわけにも行かず、集まった冒険者や職員を解散させて場を落ち着かせる為に由紀はさっきまで過去のクエストや捜索届を探していたグレンの職場部屋に移動していた。

 粉々になった鏡の破片の一部さえ持っていればカガミの声は届くらしく、一部だけを持ってテーブルの上に置いてある。


 『それは勿論。 私のスキルですぐに占い正樹のいる場所は特定しました。 しかし・・』

 

 カガミは何か言い留まりどう説明したものかと考えているようだったが、今の由紀にはその時間さえ苛立ちを感じてしまっている。

 頭の中ではすでに正樹の事で頭が一杯だからだ。

 ただでさえ今日はほとんど丸1日正樹のそばにいられなかったのにも関わらず、今度は帰る場所に愛しの相手がいないのだ。

 由紀のフラストレーションはすでに限界を超えかけていた。

 さっきから椅子に座り組んでいる足の貧乏ゆすりが尋常じゃないほど震えている。


 「あぁ~~~やっと収まった・・って、これまたさらに不機嫌になってんなアンタ」


 疲れた様子で部屋に戻ってきたグレンは尋常じゃない由紀の苛立ちさに思わず身を引いてしまう。


 『ややっ! これはこれはグレン殿! お勤めご苦労さまでございます!』


 まるで少しは場を和ませるとでも思ったのかカガミはここだと言わんばかりの明るい声でグレンに声をかける。


 「へーへー。 そう思うならうちの職員を怯えさせるような事はしないでもらいたいね」

 『これは失礼致しました。 しかし由紀様とすぐに連絡するにはどうしてもこちらの方が早かったもので』

 

 実はカガミの身体は今も山奥にある小屋にいて、声だけを鏡を通して送っているのだという。

 しかし初めは由紀のいる場所に声を届けたかったが、由紀の周囲には鏡になる者が無い為、仕方なく手鏡を持っていた職員の鏡から声を届ける事にしたのだがとか。

 

 「それで? そんな急いで連絡がしたいってんだ。 よっぽど大切な事なんだろ?」

 「正樹さんが行方不明になったんだって」

 「・・・なんだって?」


 グレンに見向きもせずにガラスの破片を睨みつける由紀は短く説明する。


 「そりゃ一体どういう事だ? あの坊主は今日留守番なんだろ?」

 「それは私が聞きたい」

 「・・まぁいい。 しかし坊主は今も見つかってねぇのか?」

 『いえ、居場所は特定できました』

 「なんだ。 それなら安心だろ。 特定できてるなら早く迎えにでも――」

 『その迎える場所が問題なのです』


 カガミはここでようやく真面目な口調で話始めた。

 

 『正樹がいる場所。 それは平和を象徴する勇者誕生の地、英雄の国です』

 「分かったわ。 行ってくる」

 「いや、待て待て待て待て」


 カガミの返答に躊躇なく椅子から立ち上がって部屋を後にしようとする由紀をグレンは目の前に立ちふさがって止める。


 「退いて。 正樹さんを迎えに行くの」

 「迎えに行くのは良いが流石におかしい。 ちょっと落ち着けって」


 まるで死神にでも睨まれているような鋭い視線で睨まれるがグレンも負け時に真っ直ぐに由紀と視線を合わす。


 「まず第一にここから英雄の国までは最速でも3日はかかる。 だが坊主は今日、お前さんが家を出るころにはまだあの山奥の家にいたんだろ?」

 「それがなに?」

 「だから、最速で3日はかかる場所にどうやって半日でその場に移動したんだよ。 それになんでこのカガミとかいう奴がそんな遠い場所に坊主がいる事が分かるんだ? 色々とおかしいだろ」


 グレンの言っている事はすべて的を得ている。

 普通に考えればそんな遠い場所に一瞬で移動できる人間など存在しないしカガミが正樹のいる場所をそんな土地を知ってる事も不可思議な話だ。


 『それらを含めて私のスキルが関係しています』


 カガミのスキルは未来予知だ。

 しかしそのスキルを扱うにはどうしても鏡が必要不可欠となっている。


 『鏡とは真実を写す道具です。  つまり私を通して鏡に映したものは鏡の世界と現実の世界の出入り口になるのです』

 「つまり、アンタは元々英雄の国で暮らしていたから坊主はアンタの鏡を通して記録している英雄の国の鏡に移動した・・って事か?」

 『そうですね。 概ねそのような物だと理解して頂けると幸いです』

 

 グレンはしばらく腕を組んで話をまとめ整理する。

 

 「それじゃあお前さんのそのスキルを使えばここからすぐに英雄の国に行くことが可能なんじゃないか?」

 『はい。 可能です』


 カガミの2つ返事に今にも部屋から飛び出そうとしていた由紀が反転して鏡の破片を持ち上げる。


 「それじゃあ今すぐに私を正樹さんの元へ連れて行って」

 『それが、出来ないのですよ』

 「あ?」


 カクンッと首を傾け髪を横に垂らす由紀の瞳は一瞬で光が消えて鋭い視線を鏡に向ける。


 「今、出来るって言ったじゃない。 それとも何? あんたもしかしてあの淫乱の味方してるわけ? だから私を正樹さんに近づかせないようにしてるんでしょ? そうなんでしょ? あぁそう。 あんた達がそういうつもりなら私もそれなりの行動を移すわ」


 由紀の身体から黒いオーラが吹き溢れ職場部屋をすべて汚染する勢いでこぼれ出る。

 このままでは部屋だけでなくギルド、そして街全体にまで黒いオーラが侵食仕掛けない。

 しかし、カガミはそんな状況でも冷静な声で説明を続けた。


 『いいえ由紀様。 確かに本来であれば今すぐにでも私が写した英雄の国にある鏡を通して向かう事が可能です』

 「じゃあ今すぐにやってすぐにやって。 これ以上私から正樹さんを遠ざけないで」

 『しかし出来ないのです』

 「・・・いい加減にッ!!」


 鏡の破片を強く握りしめた由紀の手から血が噴き出し黒いオーラも更に強く溢れ出始めた。

 このままでは本当に洒落にならない所まで来た時だ。


 『英雄の国で()()()()()()()()()()()()()()()


 カガミの言うその言葉に由紀とグレンは首を傾げた。

 理解が追い付かない事で怒りの感情が引いたのか黒いオーラの放出が少し収まったのが分かる。


 「映し出す場所が無いって、それはつまり英雄の国にある鏡がすべてなくなってるって事か? そんな馬鹿な」


 英雄の国は他国から見ても平和を象徴する国。

 文化も科学も魔術もすべてが最先端だ。

 そんな国に必要不可欠とも言える現実を映し出す鏡が存在しないなどあり得るはずがない。

 しかしカガミはグレンの言ったセリフを固定したのだ。


 『その通りですグレン殿。 今、この瞬間では英雄の国に鏡が存在しません。 もしくは私が映し出した英雄の国の映像がどこにも見当たらないのです』

 「・・・待て、それってつまり・・・」


 カガミの言っている意味が徐々に理解し始めたグレンが確認の為に言葉を出そうとした瞬間。


 コンッコンッコンッ!!


 職場の出入り口である扉から少し乱暴なノックが聞こえた。

 


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