第79話 鏡の知らせ ①
時は少し遡り、田舎街にあるギルドで由紀は淹れてもらった紅茶を飲んで一休みしていた。
何故か用意してくれた若い女性職員の人にジロジロと見られて「なるほど。 先輩はこういう可愛さを持つ女の子が好みなのか」等と呟きながら部屋を後にした。
なんだか色々な意味で誤解されているような気がする。
「あれ~? おっかしいなぁ?」
頭をポリポリといて怪訝そうな表情を浮かべながらギルド職員であるグレンが戻ってきた。
「どうかしたの? 本部に子供の捜索届がないかもう一度聞いてくるって言ってそのままだったけど」
「ん? あぁそれなんだがな? 何故か本部と連絡が取れないんだよ」
「もう就業時間外だからじゃないの?」
時刻を見るとすでに20時を回っている。
正直に言ってそろそろ正樹が待つ家に帰りたい所だが、ここまで残って収穫なしと言うのも味気なく感じて少しでも情報を持って帰ろうとグレンに再び本部に連絡してピースについて手掛かりがないか問い合わせてもらっていた。
「いや、ギルドは基本24時間フルで受付を開けてるんだ。 クエストの中には夜限定の物もあるからな。 冒険者の管理をしているギルドだけ休むなんてことは基本的にないんだ」
「ふ~ん? じゃあ仕事が忙しいんじゃない?」
「そうなのかな~? でも仕事的に本部が支部の連絡を受け取らないほど忙しいとなればかなり異常事態なんだけどな~?」
グレンは疑問に感じながらテーブルに向かい何かを書き始めた。
「とりあえずアンタは今日はもう帰りな。 時間も時間だしこれ以上ここにいても子供の捜索願いが出てるかどうかなんてわからないんだ。 とりあえず今日はこれだけ渡しておく」
「これは?」
渡されたのは1枚の紙きれ。
そこには臨時職員と表記され記入欄には由紀の名前と責任者枠にグレンのサインが書かれてある。
「それを持って受付に見せればこの部屋に案内してもらえるからよ。 今度はその迷子の子供も連れてくると言い。 その時までには本部との連絡もとれてるだろう」
「う~ん。 そうしたいのは山々だけど、何の情報も収穫なしで帰るのは引けると言うか嫌だというか・・」
このままなんの利益もなしに戻ればあの淫乱女にバカにされるイメージが湧き上がる。
『あら~? これだけの時間家を空けておいてなんの情報も収穫なしですか~? あ~それとも私とマサキを2人っきりにするチャンスをわざわざ与えてくださっていたのかしら~?? それは気付かず申し訳ありません~。 明日はちゃんとマサキと深い愛を確かめ合う良き時間を送りますのでどうか明日も情報収集を頑張ってくださ~い? うふふふふ~!!!』
「・・・ぶっ殺す」
「え”」
急に殺気を放って渡した臨時職員証を握り潰した由紀にグレンは思わず後ずさる。
内心では何か怒らす事をしてしまったのかとビクビクしていたが、そこは年上の意地という物で表情には怯えた様子を見せない事に成功したグレンは冷や汗が止まらず焦っていた時だ。
キャァァァァァァッ!!!!
そんなピリついた空気の中、ギルドの受付場から女性の悲鳴が響き渡った。
グレンと由紀はすぐに部屋から飛び出して悲鳴が聞こえた受付場に駆け込むと多くの冒険者と職員が集まっていた。
「すいません。 失礼します! どうかされましたか?!」
「あっ、先輩!」
集まる人の中心には職場のグレンの後輩であるテレサが泣きべそをかいている同僚をなだめていた。
「どうかしたのか?」
「それが・・・」
テレサがなだめている職員の足元には割れたガラスが床に砕け散っていた。
どうやら手鏡を落としたらしい。
「この鏡、この子の手鏡なんですけど・・おかしいんです」
「おかしい? なにが?」
「この鏡から、人の声が聞こえるんです」
テレサの説明にグレンは頭の上に?マークが浮かび上がる。
「鏡から人の声が聞こえる? そんな訳ないだろう」
「でも本当なんです! この子だけじゃなく、私も周りにいた冒険者さん達も皆聞きました!」
グレンの否定的な言葉にテレサは必死に抗議して、周囲の冒険者達もテレサの言う言葉に同意していた。
どうやら幻聴ではないらしい。
「しかしな~。 この手鏡からは魔力も感じないし何か魔術的なものも感じない。 見れば見るほど普通の手鏡だがな~」
そしてグレンが割れた手鏡に触れようとしたその時だった。
『それはそうでしょう。 これは魔術や魔法などではなく私のスキルによって発動させてるものなのなのですから』
「うあぁァァあああああッ! 鏡が喋ったァァあああああッ!!!」
ハッキリとした口調で鏡から声が聞こえ、触れようとしたグレンはウサギのように飛び跳ねた。
テレサという職員や周囲にいた冒険者達も再度驚いた様子で割れた手鏡から離れる。
しかし
そんな誰もが驚く不可思議な鏡の前に1人だけ落ち着いた様子で鏡に近づく人物がいた。
「もしかして・・・カガミ?」
それはギルドにピースの情報を探しにきていた由紀である。
―――キャァァァァッ!!
同僚の職員が急に悲鳴を上げて持っていた手鏡を床に落とした。
近くにいた私は急いで駆け寄り涙を流す同僚に何があったのかを聞くと怯えた様子でこう言った。
「なんだか人を騙して不意打ちするような嘘くさい男の声が鏡から聞こえたの!!」
「え~? 鏡から人の声なんて―――」
『ハッハッハッ! これは申し訳ない。 心の傷をえぐるような評価をどうもありがとうございます! おかげでガラスのハートも粉々に割れてしまいました!』
確かに嘘くさい陽気な男の声が鏡から聞こえた。




