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ヤンデレ彼女も異世界へ!  作者: 黄田 望
第二章 【 魔王と神 】
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【 幕間 】 ~ そしてわたしは ~ 


 ずっとずっと、真っ黒な囲いの中で眠っていた。

 

 身体の身動きも取れず、自分が何処にいるのかも分からず、ずっとずっと不安で寂しかった。


 「うんうん・・・今日も順調のようだ」


 だけど時々、男の人の声だけが聞こえていた。

 誰かは分からない。

 顔も知らない。

 だけど、何処かで聞いた事がある声。


 「寂しい思いをさせてしまって申し訳ない。 何しろ今の私では自由にこちらに顔を見せる事ができない立場でね」

 

 あなたは誰?

 ここは何処?

 聞きたい事は沢山あるけれど、どうしても声が言葉にしてでない。


 「あぁそうだ。 今日は君に贈り物があるんだ」

 

 贈り物?


 「気に入ってくれるといいんだけどね。 何しろ今の君には()()()()()


 名前?

 何言っているの?

 わたしの、名前・・は・・・?


 「だから今日は君に名前を授けようと思う。 知っているかい? 名前という物はとても大切な物でね。 名は体を表すと言われているように命名された名前はその人物の性格や人格に関係するんだよ」


 なまえ・・・わたしの、名前・・・

 わたしの事をいつも呼んでくれていた人がいた。

 でも

 それが誰なのか、思い出せない。


 「本当を言うと君にはとても可愛らしい名前があったんだけどね。 今の君には相応しくないから私が新しく命名させてもらう事にしたよ」


 自分の名前は思い出そうとしていると、薄っすらと目の前の視界に何かが映った。

 いつぶりかも分からない外の景色だ。

 とは言っても周りは何もない壁で、数本の松明の明かりが見えるだけ。

 そしてこの時に初めて自分がいる場所も把握できた。

 わたしは今、球体の容器に入れられた水の中にいるんだ。

 揺らぐ視界と目が見える事で復活した感覚がわたしの少ない知識で教えてくれた。


 「おや? ははは。 なんだい。 そんなに自分の名前に興味があるのかい?」


 球体の外には男の人らしき人影が見える。

 まだ視界がハッキリと見えないせいでぼやけて見えるけど、声からしていつもわたしに声をかけてくる男の人だろう。


 あなたは誰?

 ここは何処?

 

 容器の外に立つ男の人に再び同じ質問をするが、どうやらわたしの声は男の人に聞こえていない。

 

 「おはよう。 そして久しぶり」


 男の人は優しくわたしが入っている容器に触れて顔を近づかせる。


 「・・・いや、違うな。 お初にお目にかかります。 ()()


 分からない。

 あなたは誰なのか。

 ここは一体どこなのか。


 そして、わたしは一体誰なのか。

 

 「僭越ながらこの私が貴女様の名を考えさせて頂きました。 どうかこの名の通り私を・・いや、私達を御導きください」


 わたしは・・・・一体・・・

 

 急な眠気に襲われ鮮明になりかけた視界が再び閉じようとしていた。

 視界がどんどんと暗くなり、男の人の声も遠くなっていく最中でわたしは男の人が命名した名前を耳にした。


 「貴女様の御名前は()()()。 この世界を救済し我々人間を真なる頂きへと導く為のもっとも重大なピースであらんことを」


 そしてわたしの意識は再び真っ暗な世界へと戻って行った。



 ――――――

 

 ―――――


 ――――


 ―――


 ――



 「あぁ、やっと見つけた」

 

 今度はいつぶりだろう。

 声が聞こえた。

 でも、いつも聞こえる男の人の声じゃない。

 幼い男の子の声だ。


 「ごめんね。 今のボクじゃ君を助ける事ができそうにないんだ」


 助ける?

 わたしを?


 「だけど約束するよ。 必ず君を助け出す。 だからそれまでの間、君にはあの男の届かない場所に移動してもらう事にしたんだ」


 何処にいくの?


 「分からない。 でもきっと、君に手を差し伸べてくれる人の所へ行けるよ」


 そう・・でもわたし、ここから出られないの


 「大丈夫。 その事もすでに準備はできてるから」


 男の子はそういうと誰か別の人に声をかけてあれやこれやと指示を出しているようだ。

 準備という物にはすぐにできたらしく、男の子は再びわたしに向けて声をかける。


 「じゃあ、行くよ。 次に目覚めた時はきっと、君の手を握ってくれている人の場所にいるからね」


 優しい声。

 なんだかとても久しぶりに楽しかった気がする。

 ・・・そういえば、人と会話をしたのなんていつぶりだろう。


 「坊ちゃん。 そろそろ・・・」

 「うん。 それじゃあみんな。 いくよ」


 そこからの事はよく覚えていない。


 今回は目を開ける事が出来なかったせいで声だけしか聞こえていなかったせいもあるけれど、次に気が付いた時には水が流れる事が聞こえた。

 ゆっくりと、ゆっくりと流れる水の音を耳にしながら私は何かの上に乗ってただ身を任して流されていた。

 次第に乗っていた何かは徐々に水の中へと沈んでいく。

 だけどわたしはどうすればいいのか分からず、とりあえずそれにしがみついている事にした。

 完全に水没して水の中に入っても手を放さずに、苦しくても辛くてもずっと。

 大丈夫。

 そんな事、今までずっと耐えてきた。

 不安でも

 苦しくても

 真っ暗な空間の中を1人で

 ずっと・・・・

 ずっと・・・

 ずっと・・

 ずっ・・と・・・

 


 「うぉぉおおおいッ!! 大丈夫か! 君ッ!!」


 

 そしてわたしの手は、誰かに強く握られた。

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